ハイレゾCDの「MQA」?その前に、まずは「ハイレゾ」を理解しよう

数年前なら、オーディオファンなら誰もが「ハイレゾCD」と聞いただけで耳を疑うことでしょう。そもそもハイレゾとはCD以上のスペックを持ち、CD以上の音質を誇る音楽ファイルを意味します。ですから、「CDでハイレゾ」などとはありえないわけで、それは言ってみれば「アナログのCD」が存在するのと同じくらい違和感があることです。

しかし今、オーディオの技術進歩は目覚ましく、CDでもハイレゾを楽しむことが可能になりました。それが「MQA」と言われるものです。

そこで今回は「MQA」のお話をと思ったのですが、その前に皆さまは「ハイレゾ」を正しく理解していますか?ハイレゾを理解していなければMQAの素晴らしさは伝わりません。というわけで、MQAがなぜここまで注目されているのかを正確に認識するために、今回は「ハイレゾ」についておさらいをしたいと思います。

1.ハイレゾよりデジタルより、アナログ

1-1.音はアナログ

生の音声はアナログです。人の声もピアノの演奏も、すべて音はアナログです。そして、それをどれほど忠実に再現できるか。それがオーディの歴史であり、今なお続いているオーディオメーカーの挑戦です。

まず最初に誕生したのはアナログ録音でした。音は波形で表すことができますが、アナログ録音とはその波形をそのまま記録する方法です。波形をそのまま記録するので、もちろん理論上は音質は最高です。しかし、アナログデータは再現するプロセスにおいて劣化が生じ、ノイズが混じってしまいます。

また、レコードやカセットテープなどアナログの記録媒体に録音しても、経年により必ず変質します。レコードならレコード針の摩耗によるノイズや、材質である塩ビ(ポリ塩化ビニル)の経年劣化。カセットテープも同様で、再生ヘッドによる摩耗やテープの伸び、あるいは切断は避けられません。

こうした「劣化」という課題を解決するため、デジタルオーディオが登場します。

1-2.デジタル化とは、アナログに近づけること

上述の通り、音は波形で表せます。そして、アナログ音は一本の曲線で連続的な変化として表せますが、デジタルは連続から切り離され、離散的です。ですから、どうしてもデジタル録音では生のアナログ音と全く同じように記録することは不可能です。

いくら高性能なコピー機でも、手書きの絵とまったく同じにコピーはできません。
それと同じです。

要するに、音のデジタル化とは、どれだけアナログ音に近づけることができるか。
それが一番の課題なのです。

2.CDの限界

2-1.解像度

連続的な変化を離散的な手法で再現するには、その精密さが重要となってきます。つまり解像度です。

映像の場合では、高解像度という言葉はよく耳にすると思います。解像度が高くなればなるほど「美しい画像」になります。

いま最も普及しているテレビはフルハイビジョン(2K)です。解像度は1920×1080ピクセル。これが数年後には4Kや8Kが主流になるわけですが、4Kとはフルハイビジョンの4倍の3840×2160ピクセルで、8Kは7680×4320ピクセルです。そして、解像度が高くなればなるほど映像は鮮明になり美しくなります。家電売り場のテレビコーナーに行けば、フルハイビジョンの2Kと4Kや8Kの違いは一目瞭然でしょう。

音も同様です。解像度が高くなればなるほど音質は良くなります。

2-2.サンプリング周波数と量子化ビット

音の解像度はサンプリング周波数と量子化ビットにより決まります。

本来、自然の音はアナログです。したがって、量の変化は連続的に表されます。しかし、デジタル化とは量を離散的に表すことなので、どの情報量で原音を切り出すかを決める必要があります。そして、その単位が「サンプリング周波数(kHz)」と「量子化ビット数(bit)」で、サンプリング周波数が大きければ大きいほどより高い音域までが再現でき、量子化ビット数が大きければ大きいほどより小さく細かい音まで再現できます。

ちなみに、CDはサンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数が16ビットです。

2-2-1.サンプリング周波数

サンプリング周波数とは、単位時間あたりに標本(サンプル)を採る頻度のことです。音のアナログ波形をデジタルデータに変換するために必要な処理であり、「標本化」とも言われています。単位には一般的にHzが使用されますが、sps (sample per second) が用いられることもあります。

CDを例に見てみます。CDはサンプリング周波数が44.1kHzです。したがって、1秒間で44,100回の速さで記録する計算になります。

また、アナログ信号をデジタル信号に変換する際、アナログ信号に含まれる最大周波数の2倍以上の周波数で信号をサンプリングしないと、もとのアナログ信号の連続波形は再現できません。

これは標本化定理と呼ばれており、1928年にハリー・ナイキストによって予想され、1949年にクロード・E・シャノンと日本の染谷勲によってそれぞれ独立に証明されたため、「ナイキスト定理」や「ナイキスト・シャノンの定理」あるいは「シャノン・染谷の定理」とも呼ばれています。

そのため、CDのサンプリングレートは44.1kHzですから、22.05kHzまでの音声波形は損なわずにサンプリングできる計算になります。

2-2-2.量子化ビット数

サンプリングにより1秒間で何回記録するのかが決められたら、次はその値をどんな精度で記録するかを決めます。それが量子化ビットです。ビットとはコンピュータが扱う情報の最小単位です。そして、1ビットで2つの状態の表現が可能ですから、1ビットで量子化を行えば振幅は2段階、2ビットなら4段階となり、ビット数が増えるに従い細かく振幅を表わせます。

そして、CDの量子化ビット数は16ビットですから、2の16乗の65,536段階の細かさで記録することになります。

2-3.CDでは再現できない領域

CDのサンプリング周波数は44.1ですから、22.05kHzまでの音声波形を損なわずにサンプリングできることは先述の通りです。しかし、言い換えれば22.05kHzより上はサンプリングできないことになります。

また、最近でこそ、そのぎりぎりの22kHzまで音が出せるようになってきましたが、古いものになると20kHz前後のカットオフ特性が選ばれることが多く、最低18kHzあたりから急激に減衰し、21kHz付近ではほぼ音は出ませんでした。

しかし、生の音は限界が22.05kHzではありません。
つまり、CDは音の解像度を抑えて記録しているので、音声の情報が全て入っているわけではないのです。

3. ハイレゾリューション

3-1.ハイレゾとCDの違い

ハイレゾとは「ハイレゾリューション=High(高) Resolution(解像度)」の略です。直訳すれば「高解像度」です。

CDにおいては、サンプリングレートは44.1kHz、ビット数は16bitと決められていて、その規格に合うように感知しづらい音の情報を間引いています。ですから、音の太さや繊細さ、あるいは奥行きや圧力、それに表現力といったものは、CDと生音とではどうしても異なります。アーティストの息づかいやライブの空気感、あるいはディテールやニュアンスは感じ取りづらいものです。

しかし、ハイレゾならこうした情報を間引く必要がないため、より原音に近い音が聴けます。実際、情報量は桁違いです。ハイレゾの情報量は、実にCDの6.5倍ほどなのです(サンプリングレートが192kHz/24bitのハイレゾ音源の場合)。これはアーティストがレコーディングスタジオで聴いている音質と、ほぼ同等のクオリティーといわれています。

では、ハイレゾとはどのように定義されているのでしょう。
実は二つの団体がそれぞれ定義しています。

3-2.JEITAによる定義

3-2-1.JEITAとは

JEITAは一般社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association)の略称です。

2000年11月1日に日本電子工業振興協会(Japan Electronic Industry Development Association、略称JEIDA、ジェイダ)と日本電子機械工業会(EIAJ)が統合して誕生しました。

歴代の会長には「株式会社日立製作所」「松下電器産業株式会社(パナソニック株式会社)」「三菱電機株式会社」「日本電気株式会社」「ソニー株式会社」「株式会社東芝」「富士通株式会社」「シャープ株式会社」から選出されている団体です。

3-2-2.JEITAによる定義の背景

JEITAは2014年3月26日、「ハイレゾオーディオの呼称について」を発表します。そして、これがJEITAによる「ハイレゾの定義」となるわけですが、その背景には、それまでは「ハイレゾ」については特に明確な基準がなく、各社が自社製品の仕様に応じてそれぞれの解釈により「ハイレゾ」という言葉を使用していたことがあります。そこで、44.1kHz や 48kHz、96kHz、192kHz などの音源が混在する中で、マーケットの混乱を避けるためにJEITAが定義しました。

3-2-3.詳細

JEITAの定めた「ハイレゾ」は、デジタルオーディオに用いられるPCM方式のデータにおける定義です。

PCMとは、音声などのアナログ信号をデジタルデータに変換する方式の一つです。信号を一定時間ごとにサンプリングし、規定のビット数の整数値に量子化して記録します。

JEITAの定義は次の通りです。

「ハイレゾオーディオ」と呼称をする場合、”CDスペックを超えるディジタルオーディオ“であることが望ましい」

ちなみに、JEITA のいうCDとは、CDが採用している44.1kHz /16bitばかりでなく、DVDやDATが採用する48kHz/16bit の音源も含みます。

そして、LPCM換算で「サンプリング周波数」と「量子化ビット数」のいずれかがCDスペックを超えていればハイレゾオーディオに該当するも、いずれかがCDスペック未満であればハイレゾには該当しないとしています。

つまり、44.1kHz/24bit ならサンプリング周波数は同じでも量子化ビット数がCDスペックを上回るのでハイレゾになりますが、96kHz /12bit では、サンプリング周波数はCDスペックを超えますが量子化ビット数が足らないためハイレゾではないことになります。

なお、JEITAは以下のような例をあげて説明しています。

(例)
・48kHz/24bit → ハイレゾオーディオ(サンプリング周波数はCD同等で、量子化ビット数が高い))
・96kHz/16bit → ハイレゾオーディオ (サンプリング周波数はCDより高く、量子化ビット数は同等)
・96kHz/24bit → ハイレゾオーディオ(サンプリング周波数も量子化ビット数もCDより高い)
・48kHz/16bit → 非ハイレゾ(サンプリング周波数も量子化ビット数もCDと同等)
・96kHz/12bit → 非ハイレゾ(サンプリング周波数はCDより高いが量子化ビット数が低い)
・32kHz/24bit → 非ハイレゾ(量子化ビット数はCDより高いがサンプリング周波数が低い)

3-3.日本オーディオ協会による定義

3-3-1.日本オーディオ協会とは

日本オーディオ協会は、1952年10月4日、フランス分各社の中島健蔵や、盛田昭夫とともにソニーの創業者の一人である井深大の尽力により設立された一般社団法人です。英語表記の「Japan Audio Society」から「JAS」との略称でも呼ばれています。

国内最大級のオーディオの祭典「OTOTEN」を主催しています。

3-3-2.詳細

日本オーディオ協会の定義では、JEITAの定義を原則支持しています。

その上で、さらに独自に「アナログ信号に関わること」「デジタル信号に関わること」「聴感に関わること」を追加して定めています。

a)アナログ信号に関わること
録音マイクの高域周波数性能において、40kHz以上が可能であること。
アンプ高域再生性能において、40kHz以上が可能であること。
スピーカー・ヘッドホン高域再生性能において、40kHz以上が可能であること。

b)デジタル信号に関わること
録音フォーマットは、FLACまたはWAVファイル96kHz/24bitが可能であること。
入出力I/Fは、96kHz/24bitが可能であること。
ファイル再生が、FLAC/WAVファイル96kHz/24bitに対応可能であること。 ただし、自己録再機はFLACまたはWAVのどちらかのみでもハイレゾとする)
信号処理は、96kHz/24bitの信号処理性能が可能であること。
デジタル・アナログ変換においては、96kHz/24bitが可能であること。

c)聴感に関わること
生産または販売責任において、聴感評価が確実に行われていること。
各社の評価基準に基づき、聴感評価を行い「ハイレゾ」に相応しい商品と最終判断されていること。

3-3-3.ロゴ

日本オーディオ協会は、協会が定義するハイレゾの基準を満たした商品については「ハイレゾロゴ」の使用を認めています。当初は、推奨ロゴマークは3種類ありました。ソニー、パナソニック、JVCケンウッドの3種類です。

しかし現在はソニーが譲渡したロゴマークにほぼ統一されています。

4.ハイレゾフォーマット

ハイレゾオーディオにはいくつかのフォーマットが存在します。主な形式は「WAV」「AIFF」「FLAC」「ALAC」「DSD」などです。

4-1.WAV

WAVはマイクロソフトとIBMにより開発されたフォーマットです。拡張子は「.wav」。

リニアPCMのコンテナフォーマットとして普及していて、ハイレゾ配信サイトでも豊富な採用実績があります。リニアPCMは非圧縮のためファイルサイズは大きくなりますが、デコード処理が不要です。そのため、ほとんどのデジタルオーディオ機器で再生は可能ですが、音源情報(アーティスト名やアルバム画像)などの表示は得意ではないという弱点があります。

サンプリング周波数が352.8kHz(44.1KHzの8倍)あるいは384KHz(48kHzの8倍)、かつ量子化ビット数が24bit以上のリニアPCMは、特に「DXD」(Digital eXtreme Definition)とも呼ばれています。当初はDSDが編集に適さないため、SACDの制作を目的としたフォーマットでしたが、現在では上述の通り配信用フォーマットとしても非常に普及しています。

4-2.AIFF

AIFF (Audio Interchange File Format) は、アップルにより開発されたフォーマットです。WAV形式と同じく非圧縮で、性格も似ていてコンテナフォーマットです。

拡張子は、「.aiff」「.aif」「.aifc」「.afc」。

4-3.FLAC

FLAC(Free Lossless Audio Codec)は、ハイレゾ音源を代表する形式です。Losslessとありますが、非圧縮ではありません。ただし、圧縮されたデータを元に戻すせば、圧縮前のデータと全く同じになる可逆圧縮方式が採用されています。

オープンソースのフリーソフトウェアとして開発、配布。また、使用時にロイヤリティも発生しないことから非常に普及しており、ハイレゾ対応のオーディオ機器であればほぼ確実にサポートされています。そのため、どのフォーマットを選ぶか迷った時には、この「FLAC」を選んでおけばまず失敗はありません。

拡張子は「.flac」。

4-4.ALAC

ALAC(Apple Lossless Audio Codec)は、Appleが開発したフォーマットです。こちらもFLAC同様Losslessを含みますが、元の音のデータを全く損なわない可逆圧縮方式が採用されています。

ここ数年でALACをサポートするオーディオ機器は増え、一部のハイレゾ配信サイトでも取り扱いはあります。しかし、Apple製品では手厚くサポートされているものの、FLACの方がより多くのソフト/ハードにサポートされているのが現状です。

拡張子は、「.mov」「.m4a」「.alac」。

4-5.DSD

DSD(Direct Stream Digital, DSD)は、SACD(スーパーオーディオCD)がアナログ音声をデジタル信号化する際の方式です。ソニーとフィリップスにより命名されました。ここ数年で対応ハード/ソフトが増え、ハイレゾ配信サイトにおける取り扱いも急増しています。

FLACなどとは全く異なる概念でデジタル化されるため、よりアナログっぽい音の再現が可能と言われています。

日本オーディオ協会にもハイレゾとして取り扱われている形式で、拡張子は「.dsd」「.dsf」。

4-6.ハイレゾ相当「DSEE」

DSEE(Digital Sound Enhancement Engine)は、ソニーが開発した非可逆圧縮音楽ファイル用の音質向上技術です。MP3、ATRAC3、AAC、WMAなどの非可逆圧縮音楽ファイルを解析し、圧縮によって失われた高域の音を予測して自動補完。音質をアップスケーリングして、ハイレゾ相当の音を実現します。

しかし、非可逆圧縮をアップスケーリングしていることから、厳密にはハイレゾではなく、「ハイレゾ相当」と表現されます。

DSEE HXも同様です。

5.まとめ

いま最も普及しているフルハイビジョンのテレビは2K(1920×1080ピクセル)です。これが数年後には4K(3840×2160ピクセル)や8K(7680×4320ピクセル)へ進化するわけですが、これはテレビの高解像度化を意味していて、解像度が上がれば上がるほど映像の美しさが際立ちます。

音質も同様で、解像度が上がれば上がるほど音質は良くなります。そして、ハイレゾとは「ハイレゾリューション=High(高) Resolution(解像度)」の略で、直訳すれば「高解像度」です。つまり、音の解像度を高めているから「ハイレゾ」の音質はCDより良いのです。

ハイレゾの情報量はCDとは桁違いです。

音の解像度はサンプリング周波数と量子化ビットにより決定されますが、CDにおいてはサンプリングレートは44.1kHz・ビット数は16bitと決められています。一方、ハイレゾの情報量は、サンプリングレートが192kHz/24bitのハイレゾ音源の場合、およそCDの6.5倍です。

これが、ハイレゾ音源の音が美しい理由です。

ちなみに、ハイレゾの定義はJEITAおよび日本オーディオ協会は「ハイレゾオーディオ」と呼称をする場合、”CDスペックを超えるディジタルオーディオ“であることが望ましい」としています。

つまり、サンプリング周波数が44.1kHzあるいはビット数が16bit以上(ただし、サンプリング周波数またはビット数がCDのスペックを下回ってはならない)がハイレゾに値するというわけです。

さて、これを踏まえて、次回は新しいハイレゾ「MQA」についてお話しさせていただきます。
ご期待ください。

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1.CDプレーヤーのトレイが開かない

CDトレイが開かないトラブルは、比較的年季の入ったCDプレーヤーで最も起きやすいトラブルの一つです。原因はいくつか考えられますが、自分たちで対処できるケースは大きく4つ考えられます。

一つ一つ解説していきます。

1-1.ゴムベルトの異常

CDトレイが開かない原因ナンバーワンは、CDトレイの開閉ゴムベルトが伸びていたり、切れてしまったりしているケースです。

CDプレーヤーのゴムベルトに最も使用されているのは、ウレタンゴムです。そして、ウレタンゴムには摩耗や引っ張り、油に強いという特徴がある一方で、水分や湿気に弱く、経年により加水分解を起こして伸びたり切れたり、最悪の場合は溶けてしまうこともあります。したがって、比較的年季の入ったCDプレーヤーのトレイが開かない場合は、まずはこれを疑うべきでしょう。

代表的な確認方法は、トレイ部分に耳を近づけ、トレイの開閉ボタンを押すことです。モーター音が聞こえたなら、たいていゴムベルトの異常です。

この場合、ゴムの伸びが軽度なら、アルコールを含ませた綿棒でベルト部分を拭けば回復することもありますが、基本的には交換が必要です。サイズをよく確認し、オーディオのパーツ店舗や通販サイトなどで購入しましょう。

ちなみに、バンコードなどを使って自作することも可能ですし、応急処置として輪ゴムを2重がけしてしのぐ方法もあります。

1-2.グリスの劣化

1980年代のソニー製にはよく見られる症状です。CDトレイ部分に使用されているグリスが、経年により硬変してしまっていることが原因です。

対処法はシンプルです。天板を開け、粘度の高くなった古いグリスをクリーニングして取り除き、新しいグリスを塗布します。

1-3.トレイ開閉ボタンの接触不良

トレイ開閉ボタンの裏側にあるタクトスイッチが、接触不良を起こしていることあります。この場合、まずは隙間からボタンの基部に接点復活材を吹きかけてみましょう。もしそれでも改善が見られない場合は、タクトスイッチの交換が必要になります。

1-4.トレイ開閉検出スイッチの接触不良

CDトレイ開閉部分には、フロントパネルにあるトレイ開閉ボタンの他、トレイの開閉状態をチェックするスイッチが、1ないし2個付属しています。このスイッチが接触不良を起こすと、トレイが正常に作動しなくなります。

この場合、分解してスイッチのクリーニングを行うことが一番の対処法です。分解できないスイッチの場合は、接点復活剤を吹きかけましょう。100%ではありませんが回復することがあります。

1-5.その他

上記4つの原因以外にも、マイコンが関係するトラブルが考えられます。

トレイの開閉を行うモーターへの電流はマイコンが管理しています。そのため、マイコンの不良や、マイコンからモーターの間で断線・ハンダ割れしている場合、トレイを開閉させるモーターへ電流が流れないため正常に作動しません。したがって、マイコンの修理などが求められる訳ですが、配線図や基盤パターンの理解が必要で、素人には非常に難しい作業です。修理業者に修理を依頼しましょう。

あるいは、トレイ開閉用のモーターの故障も考えられます。しかし、このケースも素人による対処は困難です。修理に出すのが無難でしょう。

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2.CDトレイが勝手に開閉する

本来、CDトレイは開閉ボタンを押した時に作動します。しかし、CDトレイ開閉部分の故障により、勝手に開いたり、突然閉まったりすることがあります。

2つのケースが考えられます。

1つめが、開閉検出スイッチの接触不良です。
CDプレーヤーのトレイ開閉部分には、トレイが開いているのか閉じているのかを検出するスイッチが付属しています。このスイッチに接触不良が見受けられると、トレイが開いてもすぐ閉じたり、あるいは閉まった位置で止まらなくなってしまいます。

この場合、スイッチのクリーニングが効果的な作業となりますが、スイッチが分解できないなら、隙間から接点復活剤を吹きかけると回復することがあります。

2つ目が、マイコンの不良です。
CDトレイ開閉部分の命令司令部はマイコンです。マイコンが開閉を管理し、「開けろ」「閉めろ」を命令しています。ここが故障すると、CDトレイの正常な開閉に支障を来します。しかし、マイコンの修理には専門的知識が必要です。修理業者に修理を依頼することをお勧めします。

3.CDを読み込まない

トレイに乗せたCDを認識しない、あるいは再生しない、というトラブルも、CDプレーヤーで頻繁に起こるトラブルです。

主な症状は二つあります。
一つが、ディスプレイに「NO DISK」などと表示され、CDトレイが開くケースです。TOC(後述)の読み込みに失敗した場合、この表示が現れます。

TOCとは、Table Of Contentsの略で、いわゆる目次です。CDプレーヤーはまずはTOCを探して読み込みを開始します。そのため、その目次であるTOCが見つからなければ、プレーヤーはCDに何のデータも無いと判断。エラー「NO DISK」を返します。

もう一つが、ディスプレイにはCDの再生トータル時間が表示されているにもかかわらず、再生ボタンを押しても再生しないケースです。この場合は、TOCの読み込みには成功したものの、実際の音楽データが見つからないことを意味しています。

前者後者ともに、CDプレーヤーにおけるトラブルか、CD自体のトラブルが考えられます。が、この章ではCDプレーヤーにおけるトラブルを前提に解説します。(CDのトラブルに関する記事は5章)

主な原因は2つあります。「ピックアップレンズが汚れている」または「ピックアップの寿命」です。

3-1.ピックアップレンズが汚れている

CDのデータを読み込むピックアップレンズは、CDプレーヤーの内部にあります。そのため、一見すると密閉状態とあって、ピックアップは汚れないと思っている方が多いようですが実は違います。トレイの開閉時にホコリが侵入したり、CDに付着したホコリが回転時に内部で飛散して結構汚れています。

クリーニングには、まずはカメラのブロアーの使用をお勧めします。トレイを開け、そこからエアーでホコリを払うクリーニング方法です。非接触ですからアクシデントはほぼ起きません。日々のメンテナンスにもお勧めです。

しかし、汚れの多くはレンズにこびりついていて(特に喫煙環境ではヤニなどもあって)、ブロアーではキレイになりません。また、仮に綿棒で直接拭いたとしても、ほとんど除去できないのが一般的です。そこで綿棒に無水アルコールを湿らせて直接拭く、という方法があるのですが、これが非常に効果的です。

もちろん、レンズクリーナーを使用しても問題ありません。ただ、その場合には注意が必要です。例えば眼鏡用のレンズクリーナーやカメラ用のレンズクリーナーの中には、洗浄剤入りのものがあります。それらを使用した後には、入念な乾拭きが必要です。界面活性剤などの洗浄剤が残ってしまうと音質の劣化につながるからです。

3-1-1.レンズの拭き方

絶対にしてはならないこと。それは強くこすることです。

レコード針の針先は約0.5mmサイズですが、光ディスクのピックアップではレーザー光を顕微鏡のレンズのような高性能な対物レンズを用いて、わずか1ミクロン(0.001mm)という細いビームに絞ります。それほど超精密光学部品です。したがって、決して強くこすってはいけません。

そして、拭き方にも決まりがあります。円を描くように、内側から外側へ拭いていきます。綿棒で撫でるように優しく、それを2,3回繰り返します。

3-1-2.レンズクリーナー使用時の注意点

一般的なレンズクリーナーは、再生させる要領でピックアップレンズをクリーニングします。風を使う非接触型と、ブラシを使う接触型の、大きく2つのタイプに分類できます。

風を使う非接触型レンズクリーナーは、ディスク中心から外周にかけて穴が開いていて、その穴がドライブ内に風を発生させ、風の力で汚れを飛ばす方式です。ピックアップレンズに直接触れない非接触型のため、レンズの損傷を心配する必要がなく、半永久的に使えます。定期的なクリーニングには最適です。

一方、ブラシを用いる接触型は、さらに二つのタイプに分けられます。乾式と湿式です。乾式は掃き掃除の役割を担い、主に定期的メンテナンスに使用されます。そして、湿式は汚れがひどい時に専用クリーニング液でブラシを湿らせ、拭き掃除の役割を担います。いずれもピックアップレンズに直接触れる接触型タイプなので、使用頻度などによってはレンズを傷つけてしまう恐れがあります。また、ブラシがかき集めたホコリをレンズに塗り付けてしまう可能性もあることから、CDプレーヤーを販売するメーカーによっては使用を推奨しない、あるいは禁止していることもあるので注意が必要です。

3-2.ピックアップの寿命

CDプレーヤーに限らず、光学ドライブのピックアップには寿命があります。CDプレーヤーの場合は一般的に1万〜2万時間と言われていますが、SACDプレーヤーの場合はDVD用のピックアップが使われているものもあり、そうなると1万時間未満とも言われています。

しかし、それはあくまで目安に過ぎません。アンプの上に置いて常に高温状態で使用していればさらに寿命は短くなりますし、湿度が高いなど保管状態が悪ければ当然短くなります。

ただし、ピックアップのレーザー出力は、急にゼロになるわけではありません。徐々に落ちていきます。そのため、ピックアップに付いているレーザー出力ボリュームの調整で回復するケースもありますが、たいていはピックアップを交換して直します。

3-2-1.レーザー出力ボリュームの調整

レーザー出力ボリュームは、ほとんどのプレーヤーにおいてピックアップの裏側に付いています。そのため、まずは本体から取り外して調整します。

しかし、ソニー製のほとんどは、出力ボリュームが調整しやすい場所にあります。また、1980年のCDプレーヤーでは、出力ボリュームが基板に付いているものも多くあります。

一方、SACDプレーヤーやユニバーサルプレーヤーでは、ピックアップの裏側が多い傾向にあります。

3-2-2.ピックアップの交換

ピックアップの交換は自分でできないことはありません。もし自分で行う場合は、まずはピックアップの型番を確認します。ネット検索により判明することもありますが、製造ロットによってはピックアップが変更されているモデルもあります。そのため、実際にCDプレーヤーに付いている型番を自分の目で確認することをお勧めします。

ピックアップはネット通販などでも入手可能ですが、古いCDプレーヤーでは製造が終わっている物も多数あります。その場合は同モデル、あるいは同じピックアップを使用しているモデルを入手してピックアップ移植を行います。

3-3.その他の原因

3-3-1.その他の原因

CDプレーヤーはいくつかのサーボ(制御)技術が組込まれています。

CDから読み取った信号のクロックが一定になるように回転を制御する「スピンドルサーボ」。照射したレーザーの反射がフォトダイオードでピントが合うように制御する「フォーカスサーボ」。データが書き込まれたコースから外れないように制御する「トラッキングサーボ」。

他にもいくつかのサーボ技術により、CDプレーヤーは構成されています。そして、1990年代初頭までのCDプレーヤーは、ほとんどがアナログサーボを搭載しています。デジタルサーボ搭載モデルは、トラッキングやフォーカシングなどの調整はサーボ回路が自動的に行いますが、アナログサーボ搭載モデルでは、ピックアップのレーザー出力に応じ、工場でトラッキングやフォーカシングなどの調整を行って出荷しています。そのため、生産から四半世紀ほど経年していることもあって、サーボ回路のパーツの劣化などからゲインやオフセットとという調整値にズレが生じます。したがって、CDを正常に読み込まないアナログサーボ搭載モデルでは、サーボ回路にある調整ボリュームで調整すれば回復することがあります。

他にも、CDトレイの開閉を検出するスイッチに接触不良がある場合、CDプレーヤーはCDのデータを読み込みません。ピックアップはCDトレイがしっかり閉まってからでなければ読み込みを開始しないからです。この場合、トレイ開閉検出スイッチのクリーニングを行えば回復することがあります(1-4.参照)

3-3–2.メーカー固有のよくあるトラブル

テクニクスのCDプレーヤーは、電解コンデンサの耐久性が悪い傾向にあり、サーボ回路が機能しなくなるトラブルが多く報告されています。この場合、電解コンデンサを交換すれば回復しますが、非常に手間がかかり実用的な手法ではありません。買い替えがお勧めです。

また、90年代中頃までのパイオニアのCDプレーヤーでは、ピックアップレンズが脱落してしまうトラブルが多く報告されています。原因はピックアップのレンズ接着不良。症状はディスプレイにエラーが表示され、トレイが勝手に開きます。この場合は、レンズを交換すれば回復することが多いようです。

4.音飛び

CDの音飛びも、よくあるオーディオトラブルの一つです。CDプレーヤーに問題がある場合と、CD(ディスク)に問題がある場合の2つが考えられます。

CDに問題がある場合は、次の5章で解説します。

CDプレーヤーに問題がある場合は、3章の「CDを読み込まない」ケースとほぼ同じ原因で起こり、対処法も同じです。第3章を参照ください。

しかし、同じ部分を何度も繰り返す症状の場合はその限りではありません。例えば、ピックアップを支えているバーや、ピックアップを移動させるギアのグリスが硬化していたり、大きなゴミが付着している場合には、繰り返しになって先に進まない症状が出やすい傾向にあります。この場合は、綿棒に無水アルコールを染み込ませ、古いグリスを拭き取ってやれば回復します。

5.CD自体のトラブル

CDを読み込まない、あるいは音飛びがある場合、必ずしもCDプレーヤーに原因があるとは限りません。CD自体に異常がある場合もあります。特定のCDにトラブルがある場合はその可能性が高く、ほぼそのディスク自体のトラブルです。CDを10枚ぐらいかけて、1,2枚しか音が飛ばないようであればディスクの異常、それ以上の枚数で音が飛ぶならCDプレーヤーの異常、そう考えても良いでしょう。

CDの異常は、大きく二つに分類できます。「汚れ」と「キズ」です。どちらも正しく対応すれば、高確率で回復できます。

5-1.汚れ

5-1-1.ホコリ汚れ

普段、CDはCDケースにて保管されていると思います。したがって、多くの方がCDはホコリから守られていると思われていますが、それは間違いです。CDケースは規格上、上下4ヶ所の穴が開いています。そのため、そこからホコリは侵入してきます。

ホコリは人間の目には小さく映りますが、CDにとっては大問題です。なぜなら、音楽データは「ピット」に記録されているのですが、そのピットは1ミクロン(1/1000mm)以下のため、わずかな汚れでもレーザー光が屈折してしまい影響を受けてしまうからです。もちろん、CDプレーヤーには必ずエラー補正機能が搭載されており、小さなホコリやキズがあっても音楽再生に支障を来さないような作りにはなっています。それでも、ホコリがたまれば音が飛び始め、読み込みすらしなくなるので注意しましょう。

ちなみに、CDはホコリによりキズがついてしまう可能性があります。ホコリを取る際は、カメラのブロアーなどで吹き飛ばすことをお勧めします。

5-1-2.その他の汚れ

指紋やその他の汚れは、メガネ用のクロスなど、細かい繊維でできた布で拭くことをお勧めします。しかし、このときCDを回しながら拭くことは絶対に禁止です。レコード盤のように拭いてしまうと、CDの場合はキズがつく可能性があるからです。必ず中央から外側へ向けてまっすぐ優しく拭いてください。

しつこい汚れなどには、眼鏡用のクリーナーを使用しても問題はありません。ただし、洗浄剤の成分が残ってしまうと音質の劣化に繋がります。洗剤成分はキレイにしっかり拭き取りましょう。

なお、ディスクを痛める危険があるので、ベンジン、シンナーなどの化学薬品、および研磨剤を含むクリーナや
レコード用のスプレー・クリーナ、静電防止剤の使用は厳禁です。アルコールの使用については、肯定的に紹介する人もいますが、ポリカーボネートを痛めてしまうリスクがあります。基本的には初心者は控えましょう。

5-2.キズ

同じ部分を何度も繰り返して先に進まない症状の場合、CDプレーヤー側に問題がなければ、大抵はCDのキズが原因です。

しかし、読み取り面の細い渦上の線に対して垂直に付いた浅いキズは、さほど再生に影響を与えることはありません。一方、渦上の線に沿って付いたキズは、ディスク内のデータが欠損している可能性が高いキズです。修復キットなどで修復すれば回復することもありますが、仮にデータを守るポリカーボネイト基板に深くキズが付いている場合は、記録層にまで届いていることが多く効果はあまり見込めません。

5-3.その他の原因

「ソリ」と呼ばれるCDの変形が発生している場合、音が飛ぶことがあります。特にCDの終盤で音飛びがするケースでは、このトラブルである可能性が高い傾向にあります。人の目で判別できるものと判別できないものがありますが、仮に肉眼でCDのソリが認められる場合はプレーヤーに以上を来すことがあります。使用するのを中止しましょう。

他にも、ディスクの製造の段階で、中心部の穴がズレる偏芯や、厚みが均一でない場合も音飛び発生の原因となります。

6.まとめ

CDにおけるトラブルは、CDプレーヤーかCD自体のどちらか、あるいはその両方に原因があって起こります。そこで、原因がどこにあるかを突き止めることが先決です。

しかし、CDプレーヤーに原因がある場合は、若干の専門的な知識と作業が必要になります。そこで初心者の方には、まずはCDに問題がないかを調査することをお勧めします。その方が効率的に原因が解明でき、トラブル解消が可能なケースが多いからです。

ただ、いずれにせよ、CD試聴におけるトラブルのほとんどは、メンテナンスやお手入れレベルで解決できます。もし何かしらのトラブルに見舞われた時は、是非この記事を参考にしてください。注意すべきことは、厳禁事項を守ることです。特にCDとレコードでは、メンテナンスが正反対のものも多くあります。この点をしっかり確認して、毎日のオーディオライフを楽しんでください。

1982年10月1日、日本で世界初となるCDプレーヤーが発売され、そこから翌年初頭にかけて17ものメーカーがCDプレーヤを発表します。
今回はその、各メーカーのCDプレーヤー第1号機をまとめてみました。

目次

  1. ソニー「CDP-101」
  2. Lo-d「DAD-1000」
  3. DENON「DCD-2000」
  4. Marantz「CD-63」
  5. ONKYO「DX-5」
  6. NEC「CD-803」
  7. Pioneer「P-D1」
  8. Aurex「XR-Z90」
  9. TRIO(KENWOOD)「L-03DP」
  10. DIATONE「DP-101」
  11. KENWOOD(TRIO)「L-03DP」
  12. YAMAHA「CD-1」
  13. Technics「SL-P10」
  14. Victor「XL-V1」
  15. SHARP「DX-3」
  16. OTTO「DAD-03」
  17. AKAI「CD-01」
  18. KYOCERA「DA-01」

 

1. ソニー「CDP-101」

SONY(ソニー)の初号機はCDP-101。発売は1982年10月1日で、世界初のCDプレーヤーの一つです。
ピックアップはソニー製の「KSS-100A」ですが、内部の半導体レーザーはシャープ製です。もちろんソニーでも半導体レーザーは開発をしていたのですが、CDP-101の発売には間に合わず、シャープ製VSISレーザーが採用されたました。
しかし、その後はMOCVD法を使ったレーザーの開発に成功。1984年以降は生産も開始され、他メーカーにも広く使用されることとなります。
CDプレーヤー初号機が各メーカーから発売された1982年から1983年にかけて、ダントツの売上を誇った機種です。

価格 168,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ピックアップ KSS-100A
ローディング 水平
周波数特性 5Hz~20kHz±0.5dB
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB
消費電力 23W
サイズ 幅350×高さ105×奥行325mm
重さ 7.6kg

 

CDP-101開発までの経緯はこちらをご参考下さい

「CDの歴史」 ~世界初のCD、CDプレーヤーは?オーディオ解説入門書その3

 

2. Lo-d「DAD-1000」

Lo-D(日立)が発売したCDプレイヤー第1号機「DAD-1000」。DENONとの共同開発品で、ソニーの「CDP-101」と同じく1982年10月1日に発売された、世界初のCDプレーヤーの一つです。
ソニーのCDPは「CD-Player」ですが、Lo-DのDADは「Degital Audio Disk(デジタル・オーディオ・ディスク)」の略で、「CD」という名称が普及する前はよく使われていた単語です。
ピックアップは自社製の3ビーム方式を搭載。サーボ回路はソニーを含めた各社初号機の中でも技術的レベルが一段高く、信号処理回路はLSI化。さらに、D/Aコンバーターも自社開発の16bitDACを搭載していました。
機能面では、15曲のランダムメモリー選曲、ワンタッチ選曲、スキャナプレイ、メモリーストップ、オートリピートなどを搭載。さらに、ピックアップ位置がひと目でわかるロケーションインジケーターが装備されていました。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 16bit 日立 HA16633P
ピックアップ DA-1000
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz±0.5dB
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 24W
サイズ 幅320×高さ145×奥行234mm
重さ 5.6kg

DAD-1000開発までの経緯はこちらをご参考下さい

「CDの歴史」 ~世界初のCD、CDプレーヤーは?オーディオ解説入門書その3

 

3. DENON「DCD-2000」

Lo-Dとの共同開発により発売に至った「DAD-1000」。ソニー「CDP-101」、Lo-D「DAD-1000」と同じく1982年10月1日に発売された世界初のCDプレーヤーの一つです。
しかし、DENON「DCD-2000」とLo-D「DAD-1000」の仕様は全く同じで、ただ色が違うだけです。Lo-Dのモデルはシルバーで、DENONのモデルはブラックでした。
なお、このDCD-2000は、「DENONミュージアム」に掲載されていませんが、確かにDENONの世界初のCDプレーヤーです。開発のメインはLo-Dでしたが、DENONのPCM(Pulse Code Modulation)技術が活きていたCDプレーヤーでした。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 16bit 日立 HA16633P
ピックアップ DA-1000
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz±0.5dB
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 24W
サイズ 幅320×高さ145×奥行234mm
重さ 5.6kg

価格:189,000円D/Aコンバーター:16bit 日立 HA16633Pピックアップ:DA-1000ローディング:垂直周波数特性:5Hz~20kHz±0.5dB 高調波歪率:0.004%以下 ダイナミックレンジ:90dB以上 SN比:90dB以上 消費電力:24W サイズ:幅320×高さ145×奥行234mm 重量:5.6kg

DCD-2000開発までの経緯はこちらをご参考下さい

「CDの歴史」 ~世界初のCD、CDプレーヤーは?オーディオ解説入門書その3

 

4.Marantz「CD-63」

1982年に発売されたマランツ初のCDプレーヤー「CD-63」 。1980年末、オランダの世界最大家電メーカー「フィリップス」の傘下になり、フィリップス社のデジタル技術、光学技術、機構技術などが投入されて開発されたCDプレーヤーです。
駆動メカニズムは、独自のスイングアーム型CDM-0を搭載。D/A変換回路(DAC)には、当時初の4倍オーバーサンプリングデジタルフィルターと二次ノイズシェイパー、14bit型DAC、TDA1540を左右独立に採用。ちなみに、DACは14bitでしたが、ノイズシェイパーとオーバーサンプリングのために16bit相当の精度を誇りました。
さらに、マランツ独自のデジタルフィルターLSIを搭載。そのため、サンプリング周波数は4倍の176.4kHzに変換することができ、さらに、それをカットするフィルターには、位相特性の優れたベッセル型ローパスフィルターが採用されていました。
ちなみに、1993年に日本マランツから同型番の「CD-63」が発売されていますが、1982年に発売されたマランツ初のCDプレーヤーとは異なります。1982年の第1号機モデルはシルバーカラーのみ、1993年のモデルはブラックまたはゴールドです。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 14bit フィリップス TDA1540D X2
ピックアップ CDM-0
ローディング トップ
再生周波数帯域 20Hz〜20kHz
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 24W
サイズ 幅320×高さ74×奥行262mm
重さ 5kg

 

 

5.ONKYO「DX-5」

SONY、Lo-D、DENONの世界初となるCDプレーヤー発売から遅れること20日。ONKYOが自社初となるCDプレーヤー「DX-5」を1982年10月20日に発表しました。
メカニズムには非接触光学系フィリップス方式を、ディスクの読取りには非接触光学系ピックアップ方式を採用しています。また、ピットから読み取った信号は波形成型された後、EFM復調、デインターリーブ及び誤り訂正と順に行われ、D/Aコンバーターでアナログ信号に変換されます。そして、このアナログ信号をローパースフィルターに通し、音声信号として出力しています。価格は25万円と、各社の第1号機の中で最も高価で、一番売れた168,000円のSONY「CDP-101」より約8万円も高いCDプレーヤーでした。

価格 250,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX890
ローディング 水平
周波数特性 2Hz~20kHz
高調波歪率 0.005%
ダイナミックレンジ 90dB
SN比 90dB
サイズ 幅450×高さ130×奥行396mm
重さ 14.3kg

 

6.NEC「CD-803」

NECの1号機CD-803は、SONYやLo-D、DENONより少し遅れて、1982年10月21日に発売されました。NECと言えば、当時のキャッチコピーは「エレクトロニクスのNEC」。このCD-803の広告やカタログにもそれは大きく謳われていました。しかし、実際はSONY、東芝、日立、TI(テキサスインスツルメンツ)などの他社製パーツがひしめき合っていて、全く「エレクトロニクスのNEC」ではありませんでした。
そんな中でも、CD-803に採用されたデジタルフィルターは数少ない自社製で、16bit・オーバーサンプリングのND(ノン・ディレイ)フィルターは、当時では世界初となるDSP(Digital Signal Processor)でした。
CDが誕生した1982年当時では、ピックアップの性能もサーボ回路の制御レベルも低く、そのためプレーヤー内部のノイズは非常に高いものでしたから、デジタルフィルターの効果はまさにてきめんで、音質面ではとても大きな効果を発揮しました。

価格 215,000円
D/Aコンバーター 16bit バーブラウン PCM51JG-V
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz±0.5dB
高調波歪率 0.01%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB
消費電力 48W
サイズ 幅430×高さ150×奥行360mm
重さ 12kg

 

7.Pioneer「P-D1」

「P-D1」は、パイオニアから発売されたCDプレイヤー1号機です。発売は1982年10月下旬。
3つのサーボ「フォーカス」「トラッキング」「スピンドル」にはパイオニアの精密技術が詰め込まれており、D/A変換部以降のアナログ部にはオーディオ用パーツが採用されています。
機能面では、ランダム・サーチ、フレーズ指定、スキッププレイ、インデックス・スキャン、リピート再生、プログラム機能、トータルキー表示などを装備。また、当時としては珍しく、専用イジェクトモーターを採用しているCDプレーヤーでした。

価格 198,000円
D/Aコンバーター 16bit バーブラウン PCM51JG-V
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz〜20kHz±0.5dB
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 36W
サイズ 幅420×高さ140×奥行330mm
重さ 12.1kg

 

8.Aurex「XR-Z90」

「XR-Z90」は東芝のオーディオブランド「オーレックス」のCDプレーヤー第1号機で、1982年11月に発売されました。TRIO(KENWOOD)と共同開発したCDプレーヤーですが(TRIOの製品は「L-03DP」)、開発のメインは東芝が担当しています。
このオーレックス「XR-Z90」は、ALPINEやLuxmanにもOEMとして供給され、ALPINE「AD-100」、Luxman「DX-104」の名前で海外に輸出されました。
ピックアップは自社製の1ビームタイプを搭載。サーボ回路は時間差検出トラッキングサーボと、2重のエラー訂正回路。機能面ではダイレクト選曲やインデックスサーチを備えたCDプレーヤーでした。

価格 225,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz ±0.3dB
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 50W
サイズ 幅420×高さ135×奥行340mm
重さ 9.7kg

 

9.TRIO(KENWOOD)「L-03DP」

TRIO(KENWOOD;ケンウッド)「L-03DP」は、1982年12月1日、東芝のオーディオブランド「Aurex(オーレックス)」との共同開発により発売された同社初のCDプレーヤーです。
オーレックス「XR-Z90」との外観上の相違点はフロントパネルです。また、内部においてはアナログ部分に違いがあります。トリオ「L-03DP」にはケンウッド独自のΣドライブが装備されていました。ただ、レーザーピックアップを初めとするトランスポート部及びDAコンバーター部は、共同開発機であるオーレックス「XR-Z90」と同じです。
キーの操作状態が聴感的にもチェックできるよう、CHIRPオンの発生装置を内蔵。操作キーを押すと「ピッ」と電子音が鳴る珍しい機能を備えていました。

価格 240,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 50W
サイズ 幅440×高さ135×奥行340mm
重さ 9.9kg

 

10.DIATONE「DP-101」

DIATONEのCDプレイヤー1号機。発売は1982年11月21日。
操作制御中枢部に8bitマイコンを2個搭載している上、基板が7枚、基板ラックでマザーボードにつながるという、当時ではモンスター級のオーディオでした。
また、当時はリモコンはオプション扱いで、各社別売りが基本でした。しかし、各メーカーの1号機でリモコンを付属にした企業は二つあり、それがNECのCD-803と、ダイヤトーンDP-101です。

価格 248,000円
D/Aコンバーター 16bit INTECH A3036
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 40W
サイズ サイズ:幅424×高さ145×奥行312mm
重さ 10.5kg

 

11.KENWOOD(TRIO)「L-03DP」

L-03DPは、ケンウッド(当時はトリオ・ケンウッド株式会社)が1982年に発売した、同社の第1号機CDプレーヤー。関係の深かったオーレックス(東芝)との共同開発機です。
レーザーピックアップを筆頭に、トランスポート部及びDAコンバーター部は、共同開発機オーレックス「XR-Z90」と同一のものです。しかし、アナログ部分はオリジナル技術である「Σドライブ」を使用。これにより、L-03DPと接続されるアンプの間において、電源トランスの1次側では電源コードによって、2次側では交流的に結合され大きなループが形成されるのを予防。相互干渉を抑えています。
精悍なデザインも好評で、第1世代機の中でも魅力的な1台として高い人気を誇りました。

価格 240,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz
ダイナミックレンジ 90dB以上
SN比 90dB以上
消費電力 50W
サイズ 幅420×高さ135×奥行340mm
重さ 9.9kg

 

12.YAMAHA「CD-1」

CDが誕生した年の12月に発売された、ヤマハCDプレーヤーの第一号機。ローディングは各メーカー第一号機では珍しく水平で、ディスク装填はドライブメカごとスライドアウトするタイプでした。
リニア16bitツインD/Aコンバーターやデジタル/アナログ分離のセパレート電源を搭載し、左右の振り分けはデジタル段階で処理するため、アナログ信号のスイッチングは不要。制御系を中心に、技術的な独自性が光るモデルでした。
また、正面のドライブ部分は演奏中のディスクをミラー越しに眺めることができるため、アナログレコードと同じような感覚で音楽が楽しめるのも大きな特徴でした。

価格 250,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX890 X2
ローディング 水平
周波数特性 10Hz~20kHz
高調波歪率 0.005%
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 45W
サイズ 幅435×高さ116×奥行357mm
重さ 13.5kg

 

13.Technics「SL-P10」

CDが誕生した当時、CDプレーヤーは全く新しい領域の製品だったため、従来のオーディオ系技術だけでなく、デジタル関係の技術や半導体技術など、各社は多岐にわたる技術を結集して開発する必要がありました。しかし、それでも自社単独で製品化するのは難しく、大半の会社は共同開発であったりパーツを仕入れたりして対応しました。
が、そんな中、総合電機メーカーである松下電器(現パナソニック)を母体にもつブランド「テクにクス」は、メカニズム系からデジタル系の半導体に至るまで、ほぼ自社開発。テクニクスの同社第一号機CDプレーヤー「SL-P10」は、まさに機能性も操作性も優れれた名作でした。
発売は1982年10月。

価格 198,000円
D/Aコンバーター 16bit 松下 AN6806
ローディング 垂直
周波数特性 4Hz~20kHz
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 48W
サイズ 幅430×高さ145×奥行333mm
重さ 10.0kg

 

14.Victor「XL-V1」

ビクター「XL-V1」は、DENONとの共同開発によりLo-D(日立)が発売したCDプレイヤー第1号機「DAD-1000」のOEMです。
なお、ビクターは「XL-V1-N」というモデルも発売していますが、それはビクターのCDプレーヤー第一号機ではありません。第一号機は1982年発売の「XL-V1」です。XL-V1-Nは1995年発売のモデルです。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 16bit 日立 HA16633P
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz
高調波歪率 0.004%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 21W
サイズ 幅322×高さ147×奥行245mm
重さ 5.6kg

 

15. SHARP「DX-3」

1970年代、シャープはオーディオ用のブランド「オプトニカ」を立ち上げます。しかし、売上げが思うように伸ばせず、1981年にごく一部の製品を除いて撤退。それでも、1982年にCDが誕生すると、他のオーディオメーカーと足並みをそろえるように、第一号機「DX-3」を発表します。
しかし、結局はなかなかヒットが出せず、その後、オプトニカはオーディオ業界から完全に撤退することとなります。

価格 165,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz
高調波歪率 0.01%
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 23W
サイズ 幅330×高さ150×奥行230mm
重さ 8.2kg

 

16. OTTO「DAD-03」

OTTOはサンヨー電機のオーディオブランドです。1970年代末頃には、かなりオーディオに注力していましたが、音質よりも低価格をウリにしたメーカでした。
CDプレーヤーは他社と同様、1982年に1号機を発表。それが「DAD-03」です。しかし、このモデルのセールスは低調で、その後も売り上げはかんばしくなく、後に「FISHER」名義で、販売拠点をアメリカとヨーロッパに移します。

価格 178,000円
D/Aコンバーター 16bit SONY CX20017
ローディング 垂直
周波数特性 5Hz~20kHz±
高調波歪率 0.01%
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 30W
サイズ サイズ:幅335×高さ140×奥行270mm
重さ 6.8kg

 

17.AKAI「CD-01」

AKAIは他社と同様に、1982年にCDプレーヤー1号機「CD-01」を発売します。ただ、赤井電機はもともとテープ・デッキを得意としていたため、このモデルは京セラ「DA-01」のOEMです。
また、AKAIはその後、当時のオーディオ業界に押し寄せたCDに代表されるデジタル化の波に乗り切れず、デジタル製品への転向が遅れ、経営不振に陥りました。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 14bit フィリップス TAD1540D X2
ローディング 垂直
周波数特性 20Hz~20kHz
高調波歪率 0.005%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 30W
サイズ 幅440×高さ132×奥行320mm
重さ 8.0kg

 

18.KYOCERA「DA-01」

DA-01は京セラ初となるCDプレーヤーです。
DAはDigital Audioの略で、CD誕生当時は、CDプレーヤーよりデジタルオーディオの方が浸透していました。
DA-01はAKAIとの共同開発ですが、ほとんどは京セラ単独開発による製品で、AKAI「CD-01」は京セラ「DA-01のOEMとして扱われました。発売は1982年。

価格 189,000円
D/Aコンバーター 14bit フィリップス TAD1540D X2
ローディング 垂直
周波数特性 20Hz~20kHz
高調波歪率 0.005%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
消費電力 30W
サイズ 幅440×高さ132×奥行320mm
重さ 8.0kg

 

 

 

円盤式メディアの元祖「レコード」においては、音質が変化する要素はたくさん存在します。レコード盤の状態やカートリッジの性能、トーンアームやフォノアンプなどいくつもあって、そして、それらの要素を自分で組み合わせて音質を再現します。

一方、CDプレーヤーには、音の再現に関してはほとんど要素がありません。ただ繋げるだけ。それだけで簡単にクリアな音質が再生できます。

また、レコードは人間が聞き取れる可聴域(20Hz~20,000Hz)以外の音も記録しますが、CDでは記録を最適化しており、可聴域の間の音のみを取り出してデジタル処理(サンプリング)して記録しています。

デジタル情報を記録するためのメディア「CD」。

ファイルオーディオも含め、今はアナログの振動である音の波をデジタル化し、それを楽しむのが一般的となりました。そこで今回は、音をデジタル化した最初のメディア「CD」について詳しく見てみようと思います。

目次

  1. CD開発の経緯
    1-1.CDはソニーとフィリップスの共同開発
    1-2.なぜCDは74分、12cmなのか
    1-3.それでも12cmでは大きい
  2. 世界初のCD
    2-1.世界初のCDは
    2-2.世界で初めて販売されたCDタイトル
  3. 3世界初のCDプレーヤー
    3-1.CDP-101
    3-2.DAD-1000
    3-3.DCD-2000
    3-4.Lo-D「DAD-1000」のOEM
  4. まとめ

1.CD開発の経緯

1-1.CDはソニーとフィリップスの共同開発

アメリカの発明家「ジェームス・ラッセル」。彼が音楽用光学メディア・テクノロジーの発明に成功したことからCDの歴史は始まります。1965年のことでした。そしてその数年後、フィリップスとソニーは共同開発を行う方針を固め、1979年の夏には実際に共同開発を開始します。

両者が手を組むことは大変意義のあることでした。フィリップスは光学方式のビデオディスクのリーダー的存在、ソニーはデジタルオーディオ信号処理技術を開発しています。ですから、理想的な音楽メディアが完成することは間違いありませんでした。

さらに、フィリップスにもソニーにも、自前のソフトウエア会社がありました。フィリップスにはポリグラムという世界的なレコード会社が、ソニーにも1968年に設立したCBS・ソニーレコードがあり、フィリップスもソニーも新メディアのソフト供給者には困らない状況でした。

1-2.なぜCDは74分、12cmなのか

とはいえ、世界初の試みだったこともあり、開発は困難を極めます。まず両社の間で論議となったのが「量子化ビット数」の問題でした。

音声の伝送において、連続したアナログ信号からデジタル信号に変換する際(AD変換)、一定の時間に何個のデータ(標本)をサンプリング(抽出)するかを表すのが、サンプリング周波数と呼ばれる数値です。サンプリングレートとも呼ばれますが、この数によって、音質の良否が決定されます。また、サンプリングされた各信号のレベルを0と1の2進数で表すことを量子化といい、この2進数の桁をビットと定義しています。「ビット数が大きい」、つまり「量子化の精度が細かい」ほど、再生音のダイナミックレンジは大きくなります。

そして、ソニーは21世紀になっても通用するシステム構築のために、少々無理をしてでも「16ビット」にすべきだと考えていましたが、フィリップスはそれに猛反対。「14ビット」を主張します。14ビットは実現が容易でしたが、16ビットは技術的にも価格的にも至難の業とされていたからです。

さらに大きな壁となって立ちはだかったのが「規格」でした。「記録時間」と「ディスクの直径」の問題です。フィリップスは「記録時間は60分、ディスクの直径は11.5cm」を主張しますが、ソニーの主張は「75分、12cm」でした。

当然、こちらも両社の主張には根拠があります。

フィリップスの主張した直径11.5cmというサイズは、オーディオカセットの対角線と同じ長さで、DIN規格(ドイツ工業品標準規格)に適合します。つまり、ヨーロッパ市場でのカー・オーディオとしての将来性を見込んだわけです。

一方、ソニーは音楽ソフト面から議論を進めており、「オペラの幕が途中で切れないこと」プラス「ベートーヴェンの第九が収まること」を主張していました。その主張の中心人物は、当時ソニーの副社長で音楽家でもあった大賀典雄。彼は「クラシック音楽の95%が、75分あれば1枚のCDに収められること」、さらに「第九はおよそ65分程度であること」を調べ上げます。そして、名指揮者カラヤンの名前を引き合いに出し(実際、カラヤンも新しいメディアには第九が一枚で収まることを推奨していました)、結果、CDの時間は74分に決着します。

 

1-3.それでも12cmでは大きい

そうして経緯を経て、一旦は74分12cmで決着したかに見えましたが、フィリップスは別角度からソニーに反論します。「12cmでは上着のポケットに入らない」というのです。実は、新しいメディアはポケットサイズであることを前提に開発してきたのです。

が、そこはソニーの調査力です。日・米・欧の上着のポケットサイズを徹底的に調べ上げ、「ポケットのサイズは最大で14cm」と結論。そこで初めて正式に、ソニーの主張どおり最大演奏時間74分42秒、直径も12cm、サンプリング周波数44.1kz、量子化ビット数も16ビットとなりました。

2. 世界初のCD

2-1.世界初のCDは

1981年にはドイツでテストCD(カラヤン指揮によるリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲)が製造され、当初の予定通り1982年にはCDの生産が開始されました。

そして、その年の10月1日、日本でソニー、日立(Lo-Dブランド)、日本コロムビア(DENONブランド)から世界初のCDプレーヤーが発売され、さらにその同日には、CBSソニー、EPICソニー、日本コロムビアから世界初のCDソフトがおよそ50タイトル発売されました。

その中で最初に生産されたのが、ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』(CBSソニー/35DP-1)です。そのため、ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』が世界初のCDと言われていますが、それはあくまで、世界で最初に売り出されたCDの中で最初に生産されたCDだからです。

ちなみに、実際に世界で初めて生産された商用CDはABBA/The Visitorsです。西ドイツのハノーファのポリグラムの工場にて8月17日から生産がスタートしています。ただ、欧州でのCD販売は日本よりも二週間遅く、10月15日からでした。そのため、世界初のCDについては、日本人は「ビリー・ジョエル/ニューヨーク52番街」と言い、欧州人は「ABBA/The Visitors」と主張しています。

なお、世界最大のレコード販売国アメリカでは、さらに遅れること5ヶ月、1983年3月2日に初めてCDが発売されます。当時は日本と西ドイツにしかCDを製造できる工場がなかったことが最大の要因でした。

こうしてCDは世界に誕生し、誕生から5年後の1987年にはレコードのシェア率を追い抜き、さらに1991年にはカセットのシェア率を抜き去って、見事オーディオメディアにおけるシェア率第一位の座を射止めます。

2-2.世界で初めて販売されたCDタイトル

1982年10月1日に発売された最初のCDタイトルは以下の通りです。

2-2-1.クラシック by CBS・ソニー

・ベートーヴェン「運命」 シューベルト「未完成」 / マゼール:ウィーン・フィル
・ベートーヴェン「英雄」 / エータ:ニューヨーク・フィル
・モーツァルト「ハフナー」「リンク」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・モーツァルト「ブラーハ」交響曲第39番 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・モーツァルト 交響曲第40番「ジュピター」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・チャイコフスキー 交響曲第5番 / マゼール:クリーブランド管弦楽団
・ショスタコーヴィッチ 交響曲第5番「革命」 / バーンスタイン:ニューヨーク・フィル
・チャイコフスキー 序曲「1812年」他 / マゼール:ウィーン・フィル
・R.シュトラウス 交響詩「ツァラトゥラスはかく語りき」 / メータ:ニューヨーク・フィル
・ストラヴィンスキー バレエ音楽「ベトルーシュカ」 / メータ:ニューヨーク・フィル
・ホルスト 組曲「惑星」 / マゼール:フランス国立管弦楽団
・ドヴォルザーク チェロ協奏曲 / 堤剛(Vc)、コシュラー:チェコ・フィル
・グリーグ ピアノ協奏曲他 / 中村紘子(P)、大町陽一郎:東京フィル
・新ショパン名曲集(全12曲) / 中村紘子(P)

2-2-2.ポピュラー by CBS・ソニー

・ニューヨーク52番街 / ビリー・ジョエル
・ストレンジャー / ビリー・ジョエル
・ミドルマン / ボズ・スキャッグス
・炎(あなたがここいてほしい) / ピンクフロイ
・ターン・バック / TOTO
・エスケイプ / ジャーニー
・ギルティ / バーブラ・ストライザント
・ナイト・パッセージ / ウェザー・リポート
・スーパー・ギター・トリオ・ライブ / アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリン
・ワン・オン・ワン / ボブ・ジェームス&アーム・クルー
・ヒッツ!/ボズ・スキャッグス
・TOTO IV / TOTO
・「若き緑の日々」ニューベスト / サイモン&ガーファンクル
・明日に架ける橋 / サイモン&ガーファンクル
・天空の女神 / EW & F
・ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン / マイルス・デイビス
・ハービー・ハンコック・トリオ with ロン・カーター+トニー・ウイリアムス

2-2-3.国内制作 by CBS・ソニー

・A LONG VACATION / 大滝詠一
・NIAGARA TRIANGLE Vol.2 / 佐野元春、杉真理、大滝詠一
・Pineapple / 松田聖子
・恋人よ / 五輪真弓
・Again百恵 あなたへの子守歌 / 山口百恵
・THE BEST Againキャンディーズ / キャンディーズ
・オレンジ・エクスプレス / 渡辺貞夫
・KIMIKO / 笠井紀美子
・ニューミュージック・ベスト・ヒット / オムニバス
・THE SL:SL SOUND IN DIGITAL

2-2-4.ポピュラー by EPIC・ソニー

・イザベラの瞳/フリオ・イグレシアス
・オフ・ザ・ウォール/マイケル・ジャクソン
・やさしくラブ・ミー/ノーランズ
・禁じられた夜/REO・スピードワゴン
・ゼア・アンド・バック/ジェフ・ベック

2-2-5.国内制作 by EPIC・ソニー

・SOUL SHADOWS/シャネルズ
・SOMEDAY/佐野元春
・LUNATIC MENU/IPPU-D

3.世界初のCDプレーヤーは

CDが発売された1982年10月1日と同じ日、日本ではソニー、日立(Lo-Dブランド)、日本コロムビア(DENONブランド)から世界初のCDプレーヤーが発売されます。ソニーの第1号機は「CDP-101」、日立の第1号機は「DAD-1000」、DENONの第1号機は「DCD-2000」でした。

3-1.CDP-101

ソニーが発売したCDプレイヤー第1号機「CDP-101」。試作機は外観がずんぐりしていたことから「ゴロンタ」との愛称があり、CDも垂直に入れるタイプでした。が、ソニーは発売直前に仕様を大きく変更。トレイ式を採用します。そして、これに驚いたのは他メーカーでした。各社ともびっくりして、2号機からはこぞってトレイ式を採用します。

そのほか、 前後1曲の頭出しがワンタッチでできる「AMS(オートマチック・ミュージック・センサー)機能」、 全曲/1曲/部分の3パターンをセレクトできる「リピートプレイ機能」などを搭載。定価は16万8千円とかなり高価でしたが、それなりに売れたようです。

今では「停止」は「STOP」が一般的ですが、このCDP-101では「RESET」を採用しています。ただ、他メーカーの「STOP」の方が浸透したため、その後のソニーはしばらく「STOP(RESET)」と並記していましたが、すぐに「STOP」に統一しました。

ちなみに、 別売りのRM-65を使用すればカセットデッキとのシンクロプレイが可能です。また、今ではリモコンは付属品ですが、当時は別売り(ワイヤレスリモコン RM-101)で1万円しました。

【主な仕様】
・読取り方式:非接触光学読取り(半導体レーザー使用)
・レーザー:GaAlAsダブルヘテロダイオード
・回転数:約500〜200rpm(CLV)
・演奏速度:1.2m/s〜1.4m/s(一定)
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・高調波歪率:0.004%以下(1kHz)
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測定限界以下
・出力レベル:2Vrms(MSB) /ヘッドホン出力レベル:28mW(32Ω)(MSB)
・電源:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:23W
・外形寸法:W350 x H105 x D325mm
・重量:7.6kg

3-2.DAD-1000

Lo-D(日立)が発売したCDプレイヤー第1号機「DAD-1000」。こちらもソニーのCDP-101とともに発売された世界初のCDプレーヤーです。ソニーの初号機にあるCDPは「CD-Player」ですが、Lo-Dの初号機にあるDADは「Degital Audio Disk(デジタル・オーディオ・ディスク)」の略で、レコードに代わる次世代メディアを指します。CDという名称が普及する前はよく使われていました。

ピックアップ(CDから信号を読みとるパーツ)は、自社製の3ビーム方式を搭載。オーディオ信号の安定した読取りを実現しています。また、サーボ回路はソニーを含めた各社初号機の中でも技術的レベルが一段高く、信号処理回路はLSI化。さらに、D/Aコンバーターも自社開発の16bitDACを搭載していました。

機能面では、15曲のランダムメモリー選曲、ワンタッチ選曲、スキャナプレイ、メモリーストップ、オートリピートなどを搭載。さらに特筆すべき点として、今ではお目にかかれない、ピックアップ位置がひと目でわかるロケーションインジケーターが装備されていました。

この「DAD-1000」の販売にあたって、Lo-Dはカタログや広告を使った技術的特徴や機能などのPRはしませんでした。あくまで推測ですが、CDプレーヤーはそれまでのオーディオと全く異なる技術を採用していたため、耳慣れない用語を使うことで既存ユーザーの混乱を避けたのかもしれません。ただ、次のDAD-800からは自社製のピックアップやサーボ回路などを十分にアピールしています。

定価は18万9千円。

【主な仕様】
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・高調波歪率:0.03%以下
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測測定限界(±0.001%W.Peak)以下
・出力電圧: 2.0Vrms
・電源電圧:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:24W
・外形寸法:W320 x H145 x D234mm
・重量:5.6kg

3-3.DCD-2000

実は、Lo-Dの「DAD-1000」は、DENONとの共同開発です。DENONではDCD-2000の名称で販売されました。定価は同じ18万9千円。さらに、仕様も全く同じで、Lo-Dのモデルはシルバー、DENONのモデルはブラックでした。

しかし、この「DCD-2000」は「DENONミュージアム」に掲載されていません。ひょっとすると、共同開発とは名ばかりで、この世界初のCDプレーヤーの開発はLo-Dがメインだったことが関係あるのかもしれませんが・・・・・・とにかく、DENON(日本コロンビア)が持っていたPCM(Pulse Code Modulation)技術と、Lo-Dブランドで培ったオーディオ技術とが融合して、DCD-2000は完成しました。

※仕様はLo-D「DAD-1000」と全く同じのため割愛。

3-4.Lo-D「DAD-1000」のOEM

3-4-1.Lo-DがOEM供給できた理由

Lo-Dの技術提供はDENON「DCD-2000」だけではありません。そのほか多くの海外メーカーにもOEM供給しています。

ちなみに、1982年当時では、こうしたプレーヤーを一社単独で作ることは非常に困難でした。ソニーの「CDP-101」も、半導体レーザーはシャープ製です。しかし、当時の日立はメインフレームと呼ばれる大型コンピューターやオフィスコンピューター、ミニコンピューターなども製造していました。また、LSIなどの半導体の分野でも、自社工場を持つなど優れたエレクトロニクス技術を保持。さらに、モーターや半導体レーザーなど、CDプレーヤーの主要パーツを自社でまかなうことができたため、そこにLo-Dブランドで培ったオーディオ技術が加わって、一社単独での生産が可能になりました。

3-4-2.ビクター「XL-V1」

ビクターのCDプレーヤー第1号機「XL-V1」も、DAD-1000のOEMです。

ただ、DENON「DCD-2000」とは違って、Lo-D「DAD-1000」と全く同じというわけではありません。DAS-90デジタルオーディオシステムやAHD、VHDシステムの開発を通して得られた技術をミックスして完成させています。

ピックアップには半導体レーザーダイオードによる光学式ピックアップシステムを、デジタル信号処理回路にはMOS-LSIを、メカニズムの駆動モーターには低振動・ハイトルクのコアレスモーターを採用しています。また、D/A変換動作にて正確さを増すため、D/Aコンバーター自身に校正機能を搭載。これにより温度変化の影響や素子のバラツキを低減し、安定した音質を再現しています。

操作状態を確認できるFLディスプレイを搭載し、さらに、ピックアップの位置が確認できるロケーションインジケーターも搭載しています。

【主な仕様】
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測定限界(±0.001%W.Peak、EIAJ)以下
・出力レベル:2Vrms
・電源:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:21W
・外形寸法:W322 x H147 x D245mm
・重量:5.6kg

4. .まとめ

ジェームス・ラッセルが音楽用光学メディア・テクノロジーの発明に成功して始まった、新たなメディア「CD」の歴史。その研究結果を元に、実際に商用として開発したのが「フィリップス」と「ソニー」でした。二社は細かい規格についての激論を重ねながら、1981年にドイツでテストCDを製造し、1982年には予定通りCDの生産を開始します。

しかし、新しい規格への挑戦とあって、既存のマーケットは開発に対して前向きではありませんでした。
「ユーザーはこれほどまでレコードに満足しているのに、なぜ新しいメディアをわざわざつくる必要があるのかね。反対だ」
それが大方の意見でした。

それでも、フィリップスとソニーはまわりを徐々に説得することに成功し、とうとう1982年、念願の新しい音楽メディアCDは誕生します。そして、その誕生から5年後にはレコードのシェア率を追い抜き、発売から10年も経たないうちにカセットのシェア率を抜き去って、見事オーディオメディアにおけるシェア率第一位に輝きます。

近年では売上が急激に下がっているようですが、それでもまだまだ音楽メディアの主役であるCDには、多くの名曲が収められているメディアです。

美しい音で、美しい曲を。

これからも、ハードであるオーディオと共に、ソフトのCDももっと大切にしなければと、そう私は思うのですが、いかがでしょうか。