CDなのにハイレゾ?「MQA」「MQA-CD」とは

CDなのにハイレゾ?「MQA」「MQA-CD」とは

MQAがオーディオ業界でとても話題になっています。

今までは、ハイレゾといえばほとんどがハイレゾ音源配信サイトで楽曲をダウンロードし、PCなどで楽しむしかありませんでした。ハイレゾとはCD以上のスペックを持つ音源を意味し、その情報量の多さからCDでは対応できなかったからです。そのため、CDプレーヤーでハイレゾを楽しむことなど考えられませんでした。

しかし、MQAの登場により状況は一転。CDでもハイレゾ音源の試聴が可能になりました。

CDなのにハイレゾ?

にわかには信じがたい話です。
繰り返しになりますが、ハイレゾとはCDスペックを超えたものと定義されているので、CDはハイレゾになりえません。

しかし、ハイレゾCDは存在します。
「MQA-CD」。
それがハイレゾCDです。

今回はそのハイレゾCD「MQA-CD」について一緒にみてみましょう。

1.ハイレゾの課題

1-1.ハイレゾを楽しむには

ハイレゾを楽しむには、ハイレゾの定義から以下の環境が必要です。

a)アナログ系
1.録音マイクの高域周波数性能において、40kHz以上が再生可能であること。
2.アンプ高域再生において、40kHz以上が再生可能であること。
3.スピーカー・ヘッドホン高域再生において、40kHz以上が再生可能であること。

b)デジタル系
1.録音フォーマットにおいて、FLACもしくはWAV96kHz/24bit以上が可能であること。
2.入出力I/Fにおいて、96kHz/24bit以上が可能であること。
3.ファイル再生において、FLAC/WAV 96kHz/24bit以上に対応可能であること。ただし、レコーダーはFLAC/WAVどちらかのみで可。
4.信号処理において、96kHz/24bit以上が可能であること。
5.デジタル・アナログ変換において、96kHz/24bit以上の信号処理性能が可能であること。

これらの条件を満たしたオーディオがハイレゾ対応オーディオです。そして、ハイレゾ音源を視聴するには上記環境が推奨されています。したがって、CDプレーヤーは44.1kHz/16bitまでしか対応できないので、CDでハイレゾを聞くことは今まではありえない話でした。

1-2.ハイレゾの課題

ハイレゾは音質面においては非常に高評価ですが、手軽さには難があります。その最大の要因は「容量の大きさ」です。たいていは1曲あたり150Mを超え、192kHz/24bitなら300Mではおさまらないことも多くあります。つまり10曲なら1Gは超える計算です。ものによっては3Gを超え、1時間の音楽容量が2時間映画のDVDに迫る勢いです。

確かにハイレゾオーディオへの認知は非常に拡大してきました。ハイレゾ対応のオーディオ機器(ハード)も音源(ソフト)も数が揃い始めています。しかし、ハイレゾ音源のデータ量は途方もなくサイズが大きく、ハンドリングしづらいという課題はまるで解決に至っていませんでした。

1-3.MQA誕生の背景

オーディオ関係者は、「オーディオ機器を通して、ミュージシャンの演奏をありのままの臨場感とともに再現する」というハイレゾ本来の目的から遠ざかっている傾向が少なからず認められます。サンプリング周波数やビット数など、ハイレゾの音質を数値化することばかり先行させている感も否めず、そのため音源のデータボリュームは減るばかりか増える一方です。

また、日本人はCDで音楽を楽しむ文化が特に強い民族です。そのため、ハイレゾの音質には憧れるがどうしても手を出す気にならない。そんな人が多いという課題もありました。

そんな環境下で発表されたのが「MQA」です。原音再生と利便性の両立をコンセプトとしており、実際に音質面はハイレゾと認められ、データ容量は従来のハイレゾと比較して1/10程度。したがって2014年に発表されて以降、認知度は日に日に増し、今やCDの最終進化形とまで言われるに至っています。

2. MQA概要

2-1.概略

今までのハイレゾ音源のデータ形式は、基本的にはPCM形式を元にしたWAVやFLACが主でした。最近ではPCMとは全く異なる方式のDSDもハイレゾに認められましたが、いずれにせよ主流はこの二つでした。

そんな中でまた一つ新しい形式が登場しましたが、それが「MQA」です。正式には「Master Quality Authenticated」。イギリスのメリディアン・オーディオ(Meridian Audio)が開発しました。しかし、現在はMQA形式はメリディアンとは独立した組織「MQA Ltd」がライセンスを管理しており、メリディアンオーディオとは別法人となります。そのため、同じ社屋に入居してはいるものの、メリディアンオーディオの従業員はMQAのオフィスにアクセスすることはできません。

MQAが提唱されたのは2014年。開発したのはメリディアンオーディオの創設者の一人「ボブ・スチュアート」でした。

2-2.メリディアン・オーディオ

メリディアン・オーディオは1977年、工業デザイナーのアラン・ブースロイドと、ロンドン・インペリアル・カレッジ出身のボブ・スチュアートにより設立されました。本社および自社工場はケンブリッジ近郊のハンディンドン市内にあります。

プロダクトデザイナーのアラン・ブースロイドは、設立当初よりその才能をいかんなく発揮します。そして、彼が生み出すオーディオはエレガントなプロダクトとして数多くの高い評価を獲得。そのため、設立して間もなくにはメリディアンはオーディオ業界で世界的なリーダーとして広く認められるようになりました。

もちろん、昔も今もプロフェッショナルのハンドメイドによるオーディオづくりは続けられ、創業以来メリディアンのコンセプト「最高のパフォーマンスでリスナーを魅了する、妥協のないホームエンターテイメントシステムをデザインする」は徹底されています。

実績は本当に華やかです。

1983年にはイギリスで最初にCDプレーヤーを製造すると、世界初の民生用デジタルサラウンドコントローラ、さらにはブルーレイディスクに採用されているMLP(Meridian Lossless Packing;メリディアン・ロスレス・パッキング)システムを開発。この技術はBlu-rayおよびHD DVDで使われているドルビーTrueHDに採用されています。

さらに近年では、オーディオ事業で培ったノウハウを活かし、ジャガー、レンジローバー、マクラーレンなどのカーオーディオDSP開発事業も展開しています。

2-3.ボブ・スチュアート

メリディアン・オーディオ創設者の一人「ボブ・スチュアート」は、CDプレーヤーやアンプの製造開発で知られ、「20世紀の英国におけるオーディオの巨人」とも評される人物です。オーディオのハードウェアを手がけつつもデジタル信号処理の研究も行い、1990年代にロスレスコーデック「MLP(Meridian Lossless Packing)」を開発したのもボブ・スチュアートです。

MLPは「Packed PCM」とも呼ばれ、PCMオーディオデータを圧縮するプロプライエタリな可逆圧縮技法です。DVDオーディオでの可逆圧縮規格としても使用されています。

ボブ・スチュアートは様々なコーデックなどを開発する理由について、以下のように述べています。

「アナログレコードの時代には良質な音がたくさん聞けた。しかし、デジタルになって音が不自然になったり、硬くなった。実際そのような声をたくさん聞いた。だから新しいオーディオコーデックを開発しようと決意し、MQAは1980年代から考えていたことの1つの集大成だ」。

ボブ・スチュアートもまた、アナログの音を心から愛する一人でした。

3.MQAの特徴

3-1.音楽のおりがみ

MQAはその特徴をの3つの言葉で表現できます。

「クオリティ (高音質)」「コンビニエンス (利便性)」「コンパティビリティ (互換性)」です。

つまり、ハイレゾの高音質を維持しつつ、ファイルサイズをWAVなどよりごく小さく抑え、保存や伝送が手軽にできるようにする。かつ、MQAに対応していないプレーヤーでもCD相当以上の音質での再生が可能。これがMQAの特徴です。

そして、ファイルサイズを小さくする仕組みが、ボブ・スチュワートの言う「音楽のおりがみ」です。

MQAではまず、音楽の主なパートを占める低周波、それと高周波に分離します。例えば192kHzのPCM音楽をMQAに変換する場合、(A)24kHzまで、(B)24~48kHz、(C)48kHz〜の3つに分けます。つまり、(A)はCD相当のデータ領域、(B)はPCM 96kHzのハイレゾデータの領域、「C」は192kHzのハイレゾデータ領域です。

そして、最初に(C)の領域から(B)を省いた、48kHz~96kHzまでの高周波データを分離。この高周波にある音楽信号だけをロスレスで圧縮して、(B)の領域の中でも人間の耳に聞こえないノイズの領域(演奏を録音した音楽ファイルには、音楽の信号と共に人間の耳には聞こえないレベルから聞こえるレベルまでのノイズも収録されています)に移動させます。

次に、(B)の領域にある音楽信号もロスレスで圧縮し、(A)の耳に聞こえないノイズ領域に移動させます。

つまり、音楽を「0~24kHzまでのCD相当の音楽信号」と「それよりも高周波な音楽信号」に分離させ、折り紙を折りたたむように高周波な信号をおりたたみ、「0~24kHzまでのCD相当の音楽信号」の中でも耳に聞こえないレベルのノイズ信号の中に移動させる、というイメージです。これにより、192kHzのPCMデータが、48kHzのPCMデータ程度のサイズにカプセル化されるというわけです。

一方、MQAに対応していないプレーヤーで再生した場合は、48kHzのPCMデータとして認識されるので問題なく再生されます。CDの中には高周波の音楽データも含まれてはいますが、それは耳に聞こえないノイズ領域に移動しているので再生しても聞こえず、不自然な音にはなりません。

これがMQAの特徴の、ファイル容量を小さくして扱いやすくする「コンビニエンス(利便性)」と、再生互換性を維持する「コンパティビリティ(互換性)」です。具体的には、192kHz/24bitのファイルは48kHz/24bitとして、176.4kHz/24bitのファイルは44.1kHz/24bitとして再生されます。

3-2.MQAは可逆圧縮?非可逆圧縮?

音楽の圧縮技術にのいては、圧縮したものを復元した際、完全にデータが同じになる「可逆圧縮(ロスレス)」と、同じにはならない「非可逆圧縮」があります。

では、MQAの場合はどちらなのでしょう。

MQAは耳に聞こえないノイズの部分を含めれば、復元時には元データと完全には同じになりません。ですから正確には「非可逆圧縮」です。しかし、人間に知覚できる音楽信号に関してはロスレスで圧縮し、展開しています。ですから、音質の面ではロスレスと言えるので、「MQAは非可逆圧縮であり、可逆圧縮でもある」と開発者のボブ・スチュアートは表現しています。

3-3.新しい概念「音源のクリーニング」

MQAには新しいオーディオ概念として「音源のクリーニング」と言うべき特徴があります。開発者のボブ・スチュアートは以下のような旨を述べています。

「神経工学では、人間は周波数ではなく時間軸の方の情報に対して遥かに高い感度を示すことが判明した。時間軸の解像度が高いと音の鳴る場所との距離感や方向などがわかりやすく、解像度が低いと歪のような音のボケ、あるいは音のにじみが生まれ、1つ1つの音がどこから来ているのか聞き取れなくなる」。

例えば、鋭く短い「パンッ!」という音をデジタルで録音した場合、波形は鋭い山が一つだけしかできないはずですが、実際には山の前後になだらかな小さな山ができたりします。当然、自然界では音が発生する前に存在しない音が鳴ることはありません。ですから、この響きは不自然な音です。そして、その不自然な響きは「プリエコー」、後ろに付帯する不自然な音は「ポストエコー」と呼ばれ、音質を低下させている原因になります。

しかし、MQAではそれを時間軸の分解能において10μ秒をターゲットに処理することで解決しています。

4.MQA-CDとは

4-1.MQA-CD誕生の経緯

MQAの技術をCD再生に応用したものが「MQA-CD」です。しかし、MQAの形式をCDに応用したのはメリディアンでもMQA ltd.でもありません。日本のレコード・レーベル「UNAMAS」と、録音機材を取り扱う独RMEの代理店「シンタックスジャパン」です。

UNAMASの代表・沢口真生と、シンタックスジャパン代表取締役・村井清二の二人は、MQAの折りたたんだ情報量とCDの情報量は同じになることに着目。MQA-CDを発想します。そして、実際に制作に取りかかると通常のCDプレーヤーで再生ができ、MQAデコーダーを通せばMQAのハイレゾサウンドが再生できました。

こうしてMQA-CDは誕生し、MQA開発者のボブ・スチュアートを驚かせます。というのも、彼自身MQAはストリーミングでの使用を想定していて、CD化は予想していなかったからです。

4-2.UNAMAS

UNAMASレーベルは2004年、ハイレゾ音楽制作を目的として沢口真生が立ち上げました。そして2007年からは高品質音楽配信による制作を行なっています。「UNA MAS」はスペイン語で、英語では「Once More」、日本語で「もう一度」の意味です。

レーベルを立ち上げたのは沢口真生。1971年に千葉工業大学の電子工学科を卒業後、NHKに入局。放送センター制作技術局ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など数々の受賞作を担当。2005に年NHK制作技術センター長を最後に定年しますが、2005年から2010年までパイオニア技術顧問を務め、そのサラウンド制作への取り組みから海外では「サラウンド将軍」と敬愛される人物です。

同レーベルは東京三鷹にて本格派LIVE BARも運営しています。

4-3.シンタックスジャパン

シンタックスジャパンは、シンタックス・グループの日本法人です。グループとしてはドイツを本拠地に、日本以外にイギリス、アメリカ、香港、北京に支社を持ちます。

シンタックスジャパンは2006年に設立され、ドイツRME社製の録音/編集/再生、放送局等向けのオーディオインターフェイス、AD.DA.DDコンバーター、マイクプリアンプ等を販売しています。

ヘッドオフィスは長野県長野市。松本市にはテックオフィスを持ち、東京にもオフィスを構えています。

そして、その代表が村井 清二です。

5.MQA非対応での音質は?

5-1.時間軸情報の制度向上

結論から言うと、MQA非対応のプレーヤーでも音質は向上します。その理由は上述の「音源のクリーニング」です。

今までは、帯域を拡張することで高音質化を図りました。そのため高音質になればなるほど情報量は増加。結局データ量も膨大になっていきました。

しかし、MQAでは音の時間軸解像度に注目。時間軸とはどれほど細かな単位で音を認識できるかという尺度ですが、これが2000年代以降に今までの常識がくつがえります。

今までは人間は1ミリに50マイクロ秒の単位で時間軸の変化が認識できるとされていましたが、2000年代以降はさらに細かい10マイクロ秒の精度を持つことが判明したのです。そして、その一方でCDの時間軸解像度は4000マイクロ秒で人間と比べると400倍も鈍いことがわかり、CDの音が硬く不自然に感じるのはそのためであるとの結論が得られました。ちなみにハイレゾの時間軸解像度は数百マイクロ秒程度。CDと比較すればかなり改善されていますが、人が持つ解像力にはほど遠い状況です。

以上から、MQA-CDはMQA非対応プレーヤーで視聴しても豊かな音質だと実感できるのです。

5-2.UHQCD

こうしたMQAの特長を強力にサポートするのが、素材系高音質CDの最新型「UHQCD」です。その特徴は①CD規格に準拠し、既存プレーヤーで再生が可能であり、②新しく開発された製法により、従来の高音質ディスク以上に原盤に忠実な音が再現できるため、最高性能のクリスタルディスkに迫る高音質が手軽に楽しめる点です。

実際、CD製造工程は抜本的に見直されています。

既存のCDはインジェクション成形という方法を採用していて、ポリカーボネートにデータのピット(ミゾ)を記録していました。音源データのピットが記録された原盤「スタンパー」を金型として使用し、高熱で溶かしたポリカーボネートを流し込んでスタンパー上のピット模様を転写します。

この手法は生産性を非常にあげる手法ですが、スタンパー原盤のピットを正確かつ完全に転写することはできません。ポリカーボネートは溶けたプラスチックです。ですから、粘り気があるためスタンパーの細かいピットの隅々まで完全に入れ込むことが不可能です。液晶パネルで使用される高品質ポリカーボネートを用いて細かい模様を再現する試みもありましたが、完全な転写は成功には至りませんでした。

そこで、UHQCDではポリカーボネートではなくフォトポリマーを採用してスタンパーのピットを転写。フォトポリマーは通常では液体ですが、特定の波長の光を当てると固まる特性を持ちます。そして、この特性を利用することで従来のポリカーボネートでは難しかった細かいピットの完全な転写を実現。液体状態のフォトポリマーはスタンパーの微細なミゾに入り込み、その凹凸をハイレベルで再現します。

こうして従来の製法ではほぼ具可能なレベルでの原盤転写・再現を実現。CDプレーヤーが情報を読み取る際の精度を飛躍的に向上させています。

6.まとめ

デコーダーを通せばリニアPCM以上の高音質で再生でき、MQA非対応のCDプレーヤーで聞いてもCDを大きく上回る音質を再現する「MQA-CD」は、ハードウェアの改良以上に高音質化が期待されています。そのため、今後はすべてのCDがMQA-CDに移行する可能性もあります。

実際、このMQA-CDは「ハイレゾCD」と名付けられ、ユニバーサルミュージックからも発売されています。また、価格も税別3000円(2枚組は4000円)と、通常のCDとほぼ変わらない価格であることもメリットの一つです。

日本最大級のオーディオイベント「OTOTEN2018」でも注目を集めた「MQA-CD」。手軽にハイレゾが楽しめる時代はすぐそこまで来ています。まずはお手持ちのオーディオで、MQA-CDをお試ししてはいかがでしょう。MQA非対応のオーディオでも、きっと驚きのサウンドに心が震えるはずですよ!

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