ハイレゾCDの「MQA」?その前に、まずは「ハイレゾ」を理解しよう

数年前なら、オーディオファンなら誰もが「ハイレゾCD」と聞いただけで耳を疑うことでしょう。そもそもハイレゾとはCD以上のスペックを持ち、CD以上の音質を誇る音楽ファイルを意味します。ですから、「CDでハイレゾ」などとはありえないわけで、それは言ってみれば「アナログのCD」が存在するのと同じくらい違和感があることです。

しかし今、オーディオの技術進歩は目覚ましく、CDでもハイレゾを楽しむことが可能になりました。それが「MQA」と言われるものです。

そこで今回は「MQA」のお話をと思ったのですが、その前に皆さまは「ハイレゾ」を正しく理解していますか?ハイレゾを理解していなければMQAの素晴らしさは伝わりません。というわけで、MQAがなぜここまで注目されているのかを正確に認識するために、今回は「ハイレゾ」についておさらいをしたいと思います。

1.ハイレゾよりデジタルより、アナログ

1-1.音はアナログ

生の音声はアナログです。人の声もピアノの演奏も、すべて音はアナログです。そして、それをどれほど忠実に再現できるか。それがオーディの歴史であり、今なお続いているオーディオメーカーの挑戦です。

まず最初に誕生したのはアナログ録音でした。音は波形で表すことができますが、アナログ録音とはその波形をそのまま記録する方法です。波形をそのまま記録するので、もちろん理論上は音質は最高です。しかし、アナログデータは再現するプロセスにおいて劣化が生じ、ノイズが混じってしまいます。

また、レコードやカセットテープなどアナログの記録媒体に録音しても、経年により必ず変質します。レコードならレコード針の摩耗によるノイズや、材質である塩ビ(ポリ塩化ビニル)の経年劣化。カセットテープも同様で、再生ヘッドによる摩耗やテープの伸び、あるいは切断は避けられません。

こうした「劣化」という課題を解決するため、デジタルオーディオが登場します。

1-2.デジタル化とは、アナログに近づけること

上述の通り、音は波形で表せます。そして、アナログ音は一本の曲線で連続的な変化として表せますが、デジタルは連続から切り離され、離散的です。ですから、どうしてもデジタル録音では生のアナログ音と全く同じように記録することは不可能です。

いくら高性能なコピー機でも、手書きの絵とまったく同じにコピーはできません。
それと同じです。

要するに、音のデジタル化とは、どれだけアナログ音に近づけることができるか。
それが一番の課題なのです。

2.CDの限界

2-1.解像度

連続的な変化を離散的な手法で再現するには、その精密さが重要となってきます。つまり解像度です。

映像の場合では、高解像度という言葉はよく耳にすると思います。解像度が高くなればなるほど「美しい画像」になります。

いま最も普及しているテレビはフルハイビジョン(2K)です。解像度は1920×1080ピクセル。これが数年後には4Kや8Kが主流になるわけですが、4Kとはフルハイビジョンの4倍の3840×2160ピクセルで、8Kは7680×4320ピクセルです。そして、解像度が高くなればなるほど映像は鮮明になり美しくなります。家電売り場のテレビコーナーに行けば、フルハイビジョンの2Kと4Kや8Kの違いは一目瞭然でしょう。

音も同様です。解像度が高くなればなるほど音質は良くなります。

2-2.サンプリング周波数と量子化ビット

音の解像度はサンプリング周波数と量子化ビットにより決まります。

本来、自然の音はアナログです。したがって、量の変化は連続的に表されます。しかし、デジタル化とは量を離散的に表すことなので、どの情報量で原音を切り出すかを決める必要があります。そして、その単位が「サンプリング周波数(kHz)」と「量子化ビット数(bit)」で、サンプリング周波数が大きければ大きいほどより高い音域までが再現でき、量子化ビット数が大きければ大きいほどより小さく細かい音まで再現できます。

ちなみに、CDはサンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数が16ビットです。

2-2-1.サンプリング周波数

サンプリング周波数とは、単位時間あたりに標本(サンプル)を採る頻度のことです。音のアナログ波形をデジタルデータに変換するために必要な処理であり、「標本化」とも言われています。単位には一般的にHzが使用されますが、sps (sample per second) が用いられることもあります。

CDを例に見てみます。CDはサンプリング周波数が44.1kHzです。したがって、1秒間で44,100回の速さで記録する計算になります。

また、アナログ信号をデジタル信号に変換する際、アナログ信号に含まれる最大周波数の2倍以上の周波数で信号をサンプリングしないと、もとのアナログ信号の連続波形は再現できません。

これは標本化定理と呼ばれており、1928年にハリー・ナイキストによって予想され、1949年にクロード・E・シャノンと日本の染谷勲によってそれぞれ独立に証明されたため、「ナイキスト定理」や「ナイキスト・シャノンの定理」あるいは「シャノン・染谷の定理」とも呼ばれています。

そのため、CDのサンプリングレートは44.1kHzですから、22.05kHzまでの音声波形は損なわずにサンプリングできる計算になります。

2-2-2.量子化ビット数

サンプリングにより1秒間で何回記録するのかが決められたら、次はその値をどんな精度で記録するかを決めます。それが量子化ビットです。ビットとはコンピュータが扱う情報の最小単位です。そして、1ビットで2つの状態の表現が可能ですから、1ビットで量子化を行えば振幅は2段階、2ビットなら4段階となり、ビット数が増えるに従い細かく振幅を表わせます。

そして、CDの量子化ビット数は16ビットですから、2の16乗の65,536段階の細かさで記録することになります。

2-3.CDでは再現できない領域

CDのサンプリング周波数は44.1ですから、22.05kHzまでの音声波形を損なわずにサンプリングできることは先述の通りです。しかし、言い換えれば22.05kHzより上はサンプリングできないことになります。

また、最近でこそ、そのぎりぎりの22kHzまで音が出せるようになってきましたが、古いものになると20kHz前後のカットオフ特性が選ばれることが多く、最低18kHzあたりから急激に減衰し、21kHz付近ではほぼ音は出ませんでした。

しかし、生の音は限界が22.05kHzではありません。
つまり、CDは音の解像度を抑えて記録しているので、音声の情報が全て入っているわけではないのです。

3. ハイレゾリューション

3-1.ハイレゾとCDの違い

ハイレゾとは「ハイレゾリューション=High(高) Resolution(解像度)」の略です。直訳すれば「高解像度」です。

CDにおいては、サンプリングレートは44.1kHz、ビット数は16bitと決められていて、その規格に合うように感知しづらい音の情報を間引いています。ですから、音の太さや繊細さ、あるいは奥行きや圧力、それに表現力といったものは、CDと生音とではどうしても異なります。アーティストの息づかいやライブの空気感、あるいはディテールやニュアンスは感じ取りづらいものです。

しかし、ハイレゾならこうした情報を間引く必要がないため、より原音に近い音が聴けます。実際、情報量は桁違いです。ハイレゾの情報量は、実にCDの6.5倍ほどなのです(サンプリングレートが192kHz/24bitのハイレゾ音源の場合)。これはアーティストがレコーディングスタジオで聴いている音質と、ほぼ同等のクオリティーといわれています。

では、ハイレゾとはどのように定義されているのでしょう。
実は二つの団体がそれぞれ定義しています。

3-2.JEITAによる定義

3-2-1.JEITAとは

JEITAは一般社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association)の略称です。

2000年11月1日に日本電子工業振興協会(Japan Electronic Industry Development Association、略称JEIDA、ジェイダ)と日本電子機械工業会(EIAJ)が統合して誕生しました。

歴代の会長には「株式会社日立製作所」「松下電器産業株式会社(パナソニック株式会社)」「三菱電機株式会社」「日本電気株式会社」「ソニー株式会社」「株式会社東芝」「富士通株式会社」「シャープ株式会社」から選出されている団体です。

3-2-2.JEITAによる定義の背景

JEITAは2014年3月26日、「ハイレゾオーディオの呼称について」を発表します。そして、これがJEITAによる「ハイレゾの定義」となるわけですが、その背景には、それまでは「ハイレゾ」については特に明確な基準がなく、各社が自社製品の仕様に応じてそれぞれの解釈により「ハイレゾ」という言葉を使用していたことがあります。そこで、44.1kHz や 48kHz、96kHz、192kHz などの音源が混在する中で、マーケットの混乱を避けるためにJEITAが定義しました。

3-2-3.詳細

JEITAの定めた「ハイレゾ」は、デジタルオーディオに用いられるPCM方式のデータにおける定義です。

PCMとは、音声などのアナログ信号をデジタルデータに変換する方式の一つです。信号を一定時間ごとにサンプリングし、規定のビット数の整数値に量子化して記録します。

JEITAの定義は次の通りです。

「ハイレゾオーディオ」と呼称をする場合、”CDスペックを超えるディジタルオーディオ“であることが望ましい」

ちなみに、JEITA のいうCDとは、CDが採用している44.1kHz /16bitばかりでなく、DVDやDATが採用する48kHz/16bit の音源も含みます。

そして、LPCM換算で「サンプリング周波数」と「量子化ビット数」のいずれかがCDスペックを超えていればハイレゾオーディオに該当するも、いずれかがCDスペック未満であればハイレゾには該当しないとしています。

つまり、44.1kHz/24bit ならサンプリング周波数は同じでも量子化ビット数がCDスペックを上回るのでハイレゾになりますが、96kHz /12bit では、サンプリング周波数はCDスペックを超えますが量子化ビット数が足らないためハイレゾではないことになります。

なお、JEITAは以下のような例をあげて説明しています。

(例)
・48kHz/24bit → ハイレゾオーディオ(サンプリング周波数はCD同等で、量子化ビット数が高い))
・96kHz/16bit → ハイレゾオーディオ (サンプリング周波数はCDより高く、量子化ビット数は同等)
・96kHz/24bit → ハイレゾオーディオ(サンプリング周波数も量子化ビット数もCDより高い)
・48kHz/16bit → 非ハイレゾ(サンプリング周波数も量子化ビット数もCDと同等)
・96kHz/12bit → 非ハイレゾ(サンプリング周波数はCDより高いが量子化ビット数が低い)
・32kHz/24bit → 非ハイレゾ(量子化ビット数はCDより高いがサンプリング周波数が低い)

3-3.日本オーディオ協会による定義

3-3-1.日本オーディオ協会とは

日本オーディオ協会は、1952年10月4日、フランス分各社の中島健蔵や、盛田昭夫とともにソニーの創業者の一人である井深大の尽力により設立された一般社団法人です。英語表記の「Japan Audio Society」から「JAS」との略称でも呼ばれています。

国内最大級のオーディオの祭典「OTOTEN」を主催しています。

3-3-2.詳細

日本オーディオ協会の定義では、JEITAの定義を原則支持しています。

その上で、さらに独自に「アナログ信号に関わること」「デジタル信号に関わること」「聴感に関わること」を追加して定めています。

a)アナログ信号に関わること
録音マイクの高域周波数性能において、40kHz以上が可能であること。
アンプ高域再生性能において、40kHz以上が可能であること。
スピーカー・ヘッドホン高域再生性能において、40kHz以上が可能であること。

b)デジタル信号に関わること
録音フォーマットは、FLACまたはWAVファイル96kHz/24bitが可能であること。
入出力I/Fは、96kHz/24bitが可能であること。
ファイル再生が、FLAC/WAVファイル96kHz/24bitに対応可能であること。 ただし、自己録再機はFLACまたはWAVのどちらかのみでもハイレゾとする)
信号処理は、96kHz/24bitの信号処理性能が可能であること。
デジタル・アナログ変換においては、96kHz/24bitが可能であること。

c)聴感に関わること
生産または販売責任において、聴感評価が確実に行われていること。
各社の評価基準に基づき、聴感評価を行い「ハイレゾ」に相応しい商品と最終判断されていること。

3-3-3.ロゴ

日本オーディオ協会は、協会が定義するハイレゾの基準を満たした商品については「ハイレゾロゴ」の使用を認めています。当初は、推奨ロゴマークは3種類ありました。ソニー、パナソニック、JVCケンウッドの3種類です。

しかし現在はソニーが譲渡したロゴマークにほぼ統一されています。

4.ハイレゾフォーマット

ハイレゾオーディオにはいくつかのフォーマットが存在します。主な形式は「WAV」「AIFF」「FLAC」「ALAC」「DSD」などです。

4-1.WAV

WAVはマイクロソフトとIBMにより開発されたフォーマットです。拡張子は「.wav」。

リニアPCMのコンテナフォーマットとして普及していて、ハイレゾ配信サイトでも豊富な採用実績があります。リニアPCMは非圧縮のためファイルサイズは大きくなりますが、デコード処理が不要です。そのため、ほとんどのデジタルオーディオ機器で再生は可能ですが、音源情報(アーティスト名やアルバム画像)などの表示は得意ではないという弱点があります。

サンプリング周波数が352.8kHz(44.1KHzの8倍)あるいは384KHz(48kHzの8倍)、かつ量子化ビット数が24bit以上のリニアPCMは、特に「DXD」(Digital eXtreme Definition)とも呼ばれています。当初はDSDが編集に適さないため、SACDの制作を目的としたフォーマットでしたが、現在では上述の通り配信用フォーマットとしても非常に普及しています。

4-2.AIFF

AIFF (Audio Interchange File Format) は、アップルにより開発されたフォーマットです。WAV形式と同じく非圧縮で、性格も似ていてコンテナフォーマットです。

拡張子は、「.aiff」「.aif」「.aifc」「.afc」。

4-3.FLAC

FLAC(Free Lossless Audio Codec)は、ハイレゾ音源を代表する形式です。Losslessとありますが、非圧縮ではありません。ただし、圧縮されたデータを元に戻すせば、圧縮前のデータと全く同じになる可逆圧縮方式が採用されています。

オープンソースのフリーソフトウェアとして開発、配布。また、使用時にロイヤリティも発生しないことから非常に普及しており、ハイレゾ対応のオーディオ機器であればほぼ確実にサポートされています。そのため、どのフォーマットを選ぶか迷った時には、この「FLAC」を選んでおけばまず失敗はありません。

拡張子は「.flac」。

4-4.ALAC

ALAC(Apple Lossless Audio Codec)は、Appleが開発したフォーマットです。こちらもFLAC同様Losslessを含みますが、元の音のデータを全く損なわない可逆圧縮方式が採用されています。

ここ数年でALACをサポートするオーディオ機器は増え、一部のハイレゾ配信サイトでも取り扱いはあります。しかし、Apple製品では手厚くサポートされているものの、FLACの方がより多くのソフト/ハードにサポートされているのが現状です。

拡張子は、「.mov」「.m4a」「.alac」。

4-5.DSD

DSD(Direct Stream Digital, DSD)は、SACD(スーパーオーディオCD)がアナログ音声をデジタル信号化する際の方式です。ソニーとフィリップスにより命名されました。ここ数年で対応ハード/ソフトが増え、ハイレゾ配信サイトにおける取り扱いも急増しています。

FLACなどとは全く異なる概念でデジタル化されるため、よりアナログっぽい音の再現が可能と言われています。

日本オーディオ協会にもハイレゾとして取り扱われている形式で、拡張子は「.dsd」「.dsf」。

4-6.ハイレゾ相当「DSEE」

DSEE(Digital Sound Enhancement Engine)は、ソニーが開発した非可逆圧縮音楽ファイル用の音質向上技術です。MP3、ATRAC3、AAC、WMAなどの非可逆圧縮音楽ファイルを解析し、圧縮によって失われた高域の音を予測して自動補完。音質をアップスケーリングして、ハイレゾ相当の音を実現します。

しかし、非可逆圧縮をアップスケーリングしていることから、厳密にはハイレゾではなく、「ハイレゾ相当」と表現されます。

DSEE HXも同様です。

5.まとめ

いま最も普及しているフルハイビジョンのテレビは2K(1920×1080ピクセル)です。これが数年後には4K(3840×2160ピクセル)や8K(7680×4320ピクセル)へ進化するわけですが、これはテレビの高解像度化を意味していて、解像度が上がれば上がるほど映像の美しさが際立ちます。

音質も同様で、解像度が上がれば上がるほど音質は良くなります。そして、ハイレゾとは「ハイレゾリューション=High(高) Resolution(解像度)」の略で、直訳すれば「高解像度」です。つまり、音の解像度を高めているから「ハイレゾ」の音質はCDより良いのです。

ハイレゾの情報量はCDとは桁違いです。

音の解像度はサンプリング周波数と量子化ビットにより決定されますが、CDにおいてはサンプリングレートは44.1kHz・ビット数は16bitと決められています。一方、ハイレゾの情報量は、サンプリングレートが192kHz/24bitのハイレゾ音源の場合、およそCDの6.5倍です。

これが、ハイレゾ音源の音が美しい理由です。

ちなみに、ハイレゾの定義はJEITAおよび日本オーディオ協会は「ハイレゾオーディオ」と呼称をする場合、”CDスペックを超えるディジタルオーディオ“であることが望ましい」としています。

つまり、サンプリング周波数が44.1kHzあるいはビット数が16bit以上(ただし、サンプリング周波数またはビット数がCDのスペックを下回ってはならない)がハイレゾに値するというわけです。

さて、これを踏まえて、次回は新しいハイレゾ「MQA」についてお話しさせていただきます。
ご期待ください。

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MQAがオーディオ業界でとても話題になっています。

今までは、ハイレゾといえばほとんどがハイレゾ音源配信サイトで楽曲をダウンロードし、PCなどで楽しむしかありませんでした。ハイレゾとはCD以上のスペックを持つ音源を意味し、その情報量の多さからCDでは対応できなかったからです。そのため、CDプレーヤーでハイレゾを楽しむことなど考えられませんでした。

しかし、MQAの登場により状況は一転。CDでもハイレゾ音源の試聴が可能になりました。

CDなのにハイレゾ?

にわかには信じがたい話です。
繰り返しになりますが、ハイレゾとはCDスペックを超えたものと定義されているので、CDはハイレゾになりえません。

しかし、ハイレゾCDは存在します。
「MQA-CD」。
それがハイレゾCDです。

今回はそのハイレゾCD「MQA-CD」について一緒にみてみましょう。

1.ハイレゾの課題

1-1.ハイレゾを楽しむには

ハイレゾを楽しむには、ハイレゾの定義から以下の環境が必要です。

a)アナログ系
1.録音マイクの高域周波数性能において、40kHz以上が再生可能であること。
2.アンプ高域再生において、40kHz以上が再生可能であること。
3.スピーカー・ヘッドホン高域再生において、40kHz以上が再生可能であること。

b)デジタル系
1.録音フォーマットにおいて、FLACもしくはWAV96kHz/24bit以上が可能であること。
2.入出力I/Fにおいて、96kHz/24bit以上が可能であること。
3.ファイル再生において、FLAC/WAV 96kHz/24bit以上に対応可能であること。ただし、レコーダーはFLAC/WAVどちらかのみで可。
4.信号処理において、96kHz/24bit以上が可能であること。
5.デジタル・アナログ変換において、96kHz/24bit以上の信号処理性能が可能であること。

これらの条件を満たしたオーディオがハイレゾ対応オーディオです。そして、ハイレゾ音源を視聴するには上記環境が推奨されています。したがって、CDプレーヤーは44.1kHz/16bitまでしか対応できないので、CDでハイレゾを聞くことは今まではありえない話でした。

1-2.ハイレゾの課題

ハイレゾは音質面においては非常に高評価ですが、手軽さには難があります。その最大の要因は「容量の大きさ」です。たいていは1曲あたり150Mを超え、192kHz/24bitなら300Mではおさまらないことも多くあります。つまり10曲なら1Gは超える計算です。ものによっては3Gを超え、1時間の音楽容量が2時間映画のDVDに迫る勢いです。

確かにハイレゾオーディオへの認知は非常に拡大してきました。ハイレゾ対応のオーディオ機器(ハード)も音源(ソフト)も数が揃い始めています。しかし、ハイレゾ音源のデータ量は途方もなくサイズが大きく、ハンドリングしづらいという課題はまるで解決に至っていませんでした。

1-3.MQA誕生の背景

オーディオ関係者は、「オーディオ機器を通して、ミュージシャンの演奏をありのままの臨場感とともに再現する」というハイレゾ本来の目的から遠ざかっている傾向が少なからず認められます。サンプリング周波数やビット数など、ハイレゾの音質を数値化することばかり先行させている感も否めず、そのため音源のデータボリュームは減るばかりか増える一方です。

また、日本人はCDで音楽を楽しむ文化が特に強い民族です。そのため、ハイレゾの音質には憧れるがどうしても手を出す気にならない。そんな人が多いという課題もありました。

そんな環境下で発表されたのが「MQA」です。原音再生と利便性の両立をコンセプトとしており、実際に音質面はハイレゾと認められ、データ容量は従来のハイレゾと比較して1/10程度。したがって2014年に発表されて以降、認知度は日に日に増し、今やCDの最終進化形とまで言われるに至っています。

2. MQA概要

2-1.概略

今までのハイレゾ音源のデータ形式は、基本的にはPCM形式を元にしたWAVやFLACが主でした。最近ではPCMとは全く異なる方式のDSDもハイレゾに認められましたが、いずれにせよ主流はこの二つでした。

そんな中でまた一つ新しい形式が登場しましたが、それが「MQA」です。正式には「Master Quality Authenticated」。イギリスのメリディアン・オーディオ(Meridian Audio)が開発しました。しかし、現在はMQA形式はメリディアンとは独立した組織「MQA Ltd」がライセンスを管理しており、メリディアンオーディオとは別法人となります。そのため、同じ社屋に入居してはいるものの、メリディアンオーディオの従業員はMQAのオフィスにアクセスすることはできません。

MQAが提唱されたのは2014年。開発したのはメリディアンオーディオの創設者の一人「ボブ・スチュアート」でした。

2-2.メリディアン・オーディオ

メリディアン・オーディオは1977年、工業デザイナーのアラン・ブースロイドと、ロンドン・インペリアル・カレッジ出身のボブ・スチュアートにより設立されました。本社および自社工場はケンブリッジ近郊のハンディンドン市内にあります。

プロダクトデザイナーのアラン・ブースロイドは、設立当初よりその才能をいかんなく発揮します。そして、彼が生み出すオーディオはエレガントなプロダクトとして数多くの高い評価を獲得。そのため、設立して間もなくにはメリディアンはオーディオ業界で世界的なリーダーとして広く認められるようになりました。

もちろん、昔も今もプロフェッショナルのハンドメイドによるオーディオづくりは続けられ、創業以来メリディアンのコンセプト「最高のパフォーマンスでリスナーを魅了する、妥協のないホームエンターテイメントシステムをデザインする」は徹底されています。

実績は本当に華やかです。

1983年にはイギリスで最初にCDプレーヤーを製造すると、世界初の民生用デジタルサラウンドコントローラ、さらにはブルーレイディスクに採用されているMLP(Meridian Lossless Packing;メリディアン・ロスレス・パッキング)システムを開発。この技術はBlu-rayおよびHD DVDで使われているドルビーTrueHDに採用されています。

さらに近年では、オーディオ事業で培ったノウハウを活かし、ジャガー、レンジローバー、マクラーレンなどのカーオーディオDSP開発事業も展開しています。

2-3.ボブ・スチュアート

メリディアン・オーディオ創設者の一人「ボブ・スチュアート」は、CDプレーヤーやアンプの製造開発で知られ、「20世紀の英国におけるオーディオの巨人」とも評される人物です。オーディオのハードウェアを手がけつつもデジタル信号処理の研究も行い、1990年代にロスレスコーデック「MLP(Meridian Lossless Packing)」を開発したのもボブ・スチュアートです。

MLPは「Packed PCM」とも呼ばれ、PCMオーディオデータを圧縮するプロプライエタリな可逆圧縮技法です。DVDオーディオでの可逆圧縮規格としても使用されています。

ボブ・スチュアートは様々なコーデックなどを開発する理由について、以下のように述べています。

「アナログレコードの時代には良質な音がたくさん聞けた。しかし、デジタルになって音が不自然になったり、硬くなった。実際そのような声をたくさん聞いた。だから新しいオーディオコーデックを開発しようと決意し、MQAは1980年代から考えていたことの1つの集大成だ」。

ボブ・スチュアートもまた、アナログの音を心から愛する一人でした。

3.MQAの特徴

3-1.音楽のおりがみ

MQAはその特徴をの3つの言葉で表現できます。

「クオリティ (高音質)」「コンビニエンス (利便性)」「コンパティビリティ (互換性)」です。

つまり、ハイレゾの高音質を維持しつつ、ファイルサイズをWAVなどよりごく小さく抑え、保存や伝送が手軽にできるようにする。かつ、MQAに対応していないプレーヤーでもCD相当以上の音質での再生が可能。これがMQAの特徴です。

そして、ファイルサイズを小さくする仕組みが、ボブ・スチュワートの言う「音楽のおりがみ」です。

MQAではまず、音楽の主なパートを占める低周波、それと高周波に分離します。例えば192kHzのPCM音楽をMQAに変換する場合、(A)24kHzまで、(B)24~48kHz、(C)48kHz〜の3つに分けます。つまり、(A)はCD相当のデータ領域、(B)はPCM 96kHzのハイレゾデータの領域、「C」は192kHzのハイレゾデータ領域です。

そして、最初に(C)の領域から(B)を省いた、48kHz~96kHzまでの高周波データを分離。この高周波にある音楽信号だけをロスレスで圧縮して、(B)の領域の中でも人間の耳に聞こえないノイズの領域(演奏を録音した音楽ファイルには、音楽の信号と共に人間の耳には聞こえないレベルから聞こえるレベルまでのノイズも収録されています)に移動させます。

次に、(B)の領域にある音楽信号もロスレスで圧縮し、(A)の耳に聞こえないノイズ領域に移動させます。

つまり、音楽を「0~24kHzまでのCD相当の音楽信号」と「それよりも高周波な音楽信号」に分離させ、折り紙を折りたたむように高周波な信号をおりたたみ、「0~24kHzまでのCD相当の音楽信号」の中でも耳に聞こえないレベルのノイズ信号の中に移動させる、というイメージです。これにより、192kHzのPCMデータが、48kHzのPCMデータ程度のサイズにカプセル化されるというわけです。

一方、MQAに対応していないプレーヤーで再生した場合は、48kHzのPCMデータとして認識されるので問題なく再生されます。CDの中には高周波の音楽データも含まれてはいますが、それは耳に聞こえないノイズ領域に移動しているので再生しても聞こえず、不自然な音にはなりません。

これがMQAの特徴の、ファイル容量を小さくして扱いやすくする「コンビニエンス(利便性)」と、再生互換性を維持する「コンパティビリティ(互換性)」です。具体的には、192kHz/24bitのファイルは48kHz/24bitとして、176.4kHz/24bitのファイルは44.1kHz/24bitとして再生されます。

3-2.MQAは可逆圧縮?非可逆圧縮?

音楽の圧縮技術にのいては、圧縮したものを復元した際、完全にデータが同じになる「可逆圧縮(ロスレス)」と、同じにはならない「非可逆圧縮」があります。

では、MQAの場合はどちらなのでしょう。

MQAは耳に聞こえないノイズの部分を含めれば、復元時には元データと完全には同じになりません。ですから正確には「非可逆圧縮」です。しかし、人間に知覚できる音楽信号に関してはロスレスで圧縮し、展開しています。ですから、音質の面ではロスレスと言えるので、「MQAは非可逆圧縮であり、可逆圧縮でもある」と開発者のボブ・スチュアートは表現しています。

3-3.新しい概念「音源のクリーニング」

MQAには新しいオーディオ概念として「音源のクリーニング」と言うべき特徴があります。開発者のボブ・スチュアートは以下のような旨を述べています。

「神経工学では、人間は周波数ではなく時間軸の方の情報に対して遥かに高い感度を示すことが判明した。時間軸の解像度が高いと音の鳴る場所との距離感や方向などがわかりやすく、解像度が低いと歪のような音のボケ、あるいは音のにじみが生まれ、1つ1つの音がどこから来ているのか聞き取れなくなる」。

例えば、鋭く短い「パンッ!」という音をデジタルで録音した場合、波形は鋭い山が一つだけしかできないはずですが、実際には山の前後になだらかな小さな山ができたりします。当然、自然界では音が発生する前に存在しない音が鳴ることはありません。ですから、この響きは不自然な音です。そして、その不自然な響きは「プリエコー」、後ろに付帯する不自然な音は「ポストエコー」と呼ばれ、音質を低下させている原因になります。

しかし、MQAではそれを時間軸の分解能において10μ秒をターゲットに処理することで解決しています。

4.MQA-CDとは

4-1.MQA-CD誕生の経緯

MQAの技術をCD再生に応用したものが「MQA-CD」です。しかし、MQAの形式をCDに応用したのはメリディアンでもMQA ltd.でもありません。日本のレコード・レーベル「UNAMAS」と、録音機材を取り扱う独RMEの代理店「シンタックスジャパン」です。

UNAMASの代表・沢口真生と、シンタックスジャパン代表取締役・村井清二の二人は、MQAの折りたたんだ情報量とCDの情報量は同じになることに着目。MQA-CDを発想します。そして、実際に制作に取りかかると通常のCDプレーヤーで再生ができ、MQAデコーダーを通せばMQAのハイレゾサウンドが再生できました。

こうしてMQA-CDは誕生し、MQA開発者のボブ・スチュアートを驚かせます。というのも、彼自身MQAはストリーミングでの使用を想定していて、CD化は予想していなかったからです。

4-2.UNAMAS

UNAMASレーベルは2004年、ハイレゾ音楽制作を目的として沢口真生が立ち上げました。そして2007年からは高品質音楽配信による制作を行なっています。「UNA MAS」はスペイン語で、英語では「Once More」、日本語で「もう一度」の意味です。

レーベルを立ち上げたのは沢口真生。1971年に千葉工業大学の電子工学科を卒業後、NHKに入局。放送センター制作技術局ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など数々の受賞作を担当。2005に年NHK制作技術センター長を最後に定年しますが、2005年から2010年までパイオニア技術顧問を務め、そのサラウンド制作への取り組みから海外では「サラウンド将軍」と敬愛される人物です。

同レーベルは東京三鷹にて本格派LIVE BARも運営しています。

4-3.シンタックスジャパン

シンタックスジャパンは、シンタックス・グループの日本法人です。グループとしてはドイツを本拠地に、日本以外にイギリス、アメリカ、香港、北京に支社を持ちます。

シンタックスジャパンは2006年に設立され、ドイツRME社製の録音/編集/再生、放送局等向けのオーディオインターフェイス、AD.DA.DDコンバーター、マイクプリアンプ等を販売しています。

ヘッドオフィスは長野県長野市。松本市にはテックオフィスを持ち、東京にもオフィスを構えています。

そして、その代表が村井 清二です。

5.MQA非対応での音質は?

5-1.時間軸情報の制度向上

結論から言うと、MQA非対応のプレーヤーでも音質は向上します。その理由は上述の「音源のクリーニング」です。

今までは、帯域を拡張することで高音質化を図りました。そのため高音質になればなるほど情報量は増加。結局データ量も膨大になっていきました。

しかし、MQAでは音の時間軸解像度に注目。時間軸とはどれほど細かな単位で音を認識できるかという尺度ですが、これが2000年代以降に今までの常識がくつがえります。

今までは人間は1ミリに50マイクロ秒の単位で時間軸の変化が認識できるとされていましたが、2000年代以降はさらに細かい10マイクロ秒の精度を持つことが判明したのです。そして、その一方でCDの時間軸解像度は4000マイクロ秒で人間と比べると400倍も鈍いことがわかり、CDの音が硬く不自然に感じるのはそのためであるとの結論が得られました。ちなみにハイレゾの時間軸解像度は数百マイクロ秒程度。CDと比較すればかなり改善されていますが、人が持つ解像力にはほど遠い状況です。

以上から、MQA-CDはMQA非対応プレーヤーで視聴しても豊かな音質だと実感できるのです。

5-2.UHQCD

こうしたMQAの特長を強力にサポートするのが、素材系高音質CDの最新型「UHQCD」です。その特徴は①CD規格に準拠し、既存プレーヤーで再生が可能であり、②新しく開発された製法により、従来の高音質ディスク以上に原盤に忠実な音が再現できるため、最高性能のクリスタルディスkに迫る高音質が手軽に楽しめる点です。

実際、CD製造工程は抜本的に見直されています。

既存のCDはインジェクション成形という方法を採用していて、ポリカーボネートにデータのピット(ミゾ)を記録していました。音源データのピットが記録された原盤「スタンパー」を金型として使用し、高熱で溶かしたポリカーボネートを流し込んでスタンパー上のピット模様を転写します。

この手法は生産性を非常にあげる手法ですが、スタンパー原盤のピットを正確かつ完全に転写することはできません。ポリカーボネートは溶けたプラスチックです。ですから、粘り気があるためスタンパーの細かいピットの隅々まで完全に入れ込むことが不可能です。液晶パネルで使用される高品質ポリカーボネートを用いて細かい模様を再現する試みもありましたが、完全な転写は成功には至りませんでした。

そこで、UHQCDではポリカーボネートではなくフォトポリマーを採用してスタンパーのピットを転写。フォトポリマーは通常では液体ですが、特定の波長の光を当てると固まる特性を持ちます。そして、この特性を利用することで従来のポリカーボネートでは難しかった細かいピットの完全な転写を実現。液体状態のフォトポリマーはスタンパーの微細なミゾに入り込み、その凹凸をハイレベルで再現します。

こうして従来の製法ではほぼ具可能なレベルでの原盤転写・再現を実現。CDプレーヤーが情報を読み取る際の精度を飛躍的に向上させています。

6.まとめ

デコーダーを通せばリニアPCM以上の高音質で再生でき、MQA非対応のCDプレーヤーで聞いてもCDを大きく上回る音質を再現する「MQA-CD」は、ハードウェアの改良以上に高音質化が期待されています。そのため、今後はすべてのCDがMQA-CDに移行する可能性もあります。

実際、このMQA-CDは「ハイレゾCD」と名付けられ、ユニバーサルミュージックからも発売されています。また、価格も税別3000円(2枚組は4000円)と、通常のCDとほぼ変わらない価格であることもメリットの一つです。

日本最大級のオーディオイベント「OTOTEN2018」でも注目を集めた「MQA-CD」。手軽にハイレゾが楽しめる時代はすぐそこまで来ています。まずはお手持ちのオーディオで、MQA-CDをお試ししてはいかがでしょう。MQA非対応のオーディオでも、きっと驚きのサウンドに心が震えるはずですよ!

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