メンテが命!最近大人気「アナログプレーヤーとレコード盤」の保管方法
近年、レコードが注目されています。
1982年にCDが発売されて以降、徐々にアナログマーケットは小さくなり、1990年代にはレコードは過去のものとして扱われていました。しかし、「アナログ音源にはCDなどのデジタル音源にはない、滑らかで優しく、つやのある音質が魅力的」と評価する人が続出。人気が再燃し始めます。昔ほどのシェアは誇りませんが、その伸び率には目を見張るものがあります。
そこで今回は、人気のレコードを長く大切にするためのアナログプレーヤーのメンテナンス方法や、レコード盤の管理方法についてご紹介いたします。
1.数字で見る「アナログ盤の人気度」
1-1.アメリカのレコード人気
米国の調査会社ニールセンの調べによると、アナログレコードの販売枚数は右肩上がりで推移しており、2010年は約280万枚だったのに対し、2014年は約920万枚、2015年は前年比約129.8%の約1190万枚にまで成長しています。
ただ、この流れをつくっているのは、今の若者だけではありません。
2015年の数字で見てみると、アナログ盤のトップセールスアルバムは、アデル『25』の約11万6000枚。そして、テイラー・スウィフトの『1989』(約7万4000枚)と続きます。これはCDのトップセールスと同じで、おそらく若者の購入が推測できます。
しかし、3位以降はピンク・フロイドの『DARK SIDE OF THE MOON』(約5万枚)、ビートルズの『ABBEY ROAD』(約4万9800枚)です。復刻盤のランクインですから、きっとこれらは古いオーディオファンが購入しています。
こうして統計を見てみると、幅広い層がアナログレコードを楽しんでいることがわかります。しかし、それはアメリカに限った話ではありません。今、世界各国でその動きは顕著で、日本でもそうしたトレンドは進んでいます。実に若者から中高年に至るまで、日本でも幅広い年代の音楽ファンがレコードを買い求めています。
1-2.日本のレコード人気
日本レコード協会の調べによると、レコードの国内生産枚数は1976年から1980年にかけて約1億9000万枚前後を記録。しかし、それをピークに下降の一途をたどり、2009年には約10万2000枚にまで減少しました。ところが、最近になってその状況は一転し、最近のレコード生産数は年々増加。2015年には約66万2000枚にまで戻しています。
売上ベースでみてみると、アナログレコードのマーケットスケールは、2007年に約6億円、2009年頃には約2億円まで低迷するも、それをボトムに2016年には約15億円まで回復しています。パッケージ全体としては、マーケットスケールは2007年の約4000億円から2016年の2400億円、配信マーケットも2007年の750億円から2016年の530億円とそれぞれ縮小している中で、アナログレコードだけは小さい市場ながらも伸びているのです。
そして、アメリカと同様、日本のアナログレコード人気もまた、中年以上のオトナたちだけの話ではなく、若者にも人気なのです。
2017年の実績を見てみます。日本レコード協会の調べによると、1位はRADWIMPSが手がけた大ヒットアニメのサウンドトラックアルバム『君の名は。』です。CDは50万枚近く売れていますが、実はアナログも5000枚以上売れています。
そして、2位と3位にランクインしたのは、1990年代に渋谷系として名を馳せたCORNELIUSのシングルレコードです。また、同じく渋谷系のPIZZICATO FIVEの小西康陽が監修したアナログ復刻盤もトップ20に3作ランクインしています。
他にも大滝詠一が4位、ザ・ビートルズが11位と13位など、中高年にとってレジェンドとも言えるべきアーティスト達が上位入りしています。
「日本で売れているCDは、実は一人一人が大量購入しているCD」
「ジャニーズJr.のCDデビューが廃止」
そんなネガティブな話題が目立ち始めたCD市場ですが、それと対照的なのが日本のレコード事情なのです。何と2017年には、ソニーが29年ぶりにアナログレコードの自社生産の再開を宣言しました。
2.レコードのお手入れが重要な理由
そんな大人気のレコードは、アナログ再生です。
アナログ再生は針がレコードの音溝をトレースする、接触型メディアです。そして、接触部分には必ずノイズが発生するので、針が汚れていたり、音溝がクリアでなければ雑音はより大きくなります。そのため、リアルタイムのレコード愛好家は徹底してノイズを排除すべく、オーディオのメンテナンスに取り組んだものです。
また、最近になってアナログ盤やプレーヤーが売れていると言っても、古いものの方が圧倒的に多い状況に変わりはありません。昔の物にメンテナンスが重要なのは周知の通りです。
こうした理由から、アナログプレーヤーやレコード盤はお手入れが非常に大切なのです。
3.レコードプレーヤーの「故障かな?」
3-1.ターンテーブルが回らない
レコードプレーヤー本体で最も多い故障は、ターンテーブルが回らないことです。しかし、ベルトドライブ方式なら慌てる必要はないかもしれません。ベルトの交換で回り出すこともしばしばあるからです。ただ、プーリーが回転していない場合は問題です。プーリーとはベルトでターンテーブルを回転させるためのモーター軸です。このプーリーが故障していると専門的知識や高度な技術が必要なケースが多く、交換も含め素人では対応が困難だからです。
また、ダイレクトドライブ方式(DD方式)でターンテーブルが回転しないのも問題です。ほとんどの製品において修理用のサービスパーツが生産中止を迎えているため、修理をしようにもできないからです。
とはいえ、レコードプレーヤー本体は比較的に構造が単純です。湿気の多い環境で放置されていれば駆動モーターが故障したりすることもありますが、よほど保存状態が悪くない限り、重大な故障が起きることはあまりありません。
一方で、カートリッジはレコードプレーヤー本体と異なり非常に繊細です。日々の扱い方はもちろん、保管方法にも配慮していなければすぐに故障してしまうので注意が必要です。
3-2.レコードプレーヤーの音途切れ
「レコードプレーヤーの片チャンネルが鳴らない」
これもよくある症状です。アンプやスピーカー、それぞれの配線にも問題がないのに、なぜか片チャンネルだけならないというケースです。しかし、この場合はまず確認すべきことがあります。ひょっとすると簡単に直るかもしれないからです。
一般的なトーンアームとシェルは、4本のピンの接点同士が接触して導通しています。シェルは固定されていて、一方アームはバネでへこむようになっています。そして、シェルをねじ込むと接点同士が接触したまま止まります。これはネジで少し押し戻す力が接点にかかったまま圧着されている状態ですが、長期間その接点を放置しておくと、経年により錆びや汚れなどから接点不良がしばしば起きます。
ですから、この場合は接点クリーニングをしてやれば直るケースがほとんどです。
(接点クリーニングについては後述します)
4.レコードプレーヤーのメンテナンス
4-1.プーリーのお手入れ方法
前述の通り、プーリーの故障は対応が困難です。ですから、日々のメンテナンスが非常に重要です。そして、プーリーはある程度使用していると、どうしてもベルトのカスが付着して汚れてしまいます。したがって、クリーニングが欠かせません。
プーリーのクリーニングは、初心者はベルトを外さずに手入れをすることをお勧めします。用意するものは、綿棒と無水アルコールです。無水アルコール(無水エタノール)とは、濃度が95%程度のエタノールを脱水して製造する、水を含まないエタノールです。
その無水アルコールに綿棒を浸し、プーリーを回転させながら清浄します。案外キレイに見えても、白い綿棒を使えば汚れで綿棒が黒くなり、どれほど汚れていたかが確認できると思います。
ちなみに、プーリーのクリーニングは、ノイズ対策ばかりでなく音質向上にも高い効果が期待できます。ぜひ頃合いをみてクリーニングを実施しましょう。使用環境によって異なりますが、三ヶ月に一度くらいはお手入れすることをお勧めします。
4-2.プラッターのお手入れ方法
誰もがご存知の通り、ホコリは家電製品の天敵です。そして、言うまでもなく、精密機械であるオーディオにとってもホコリは良い影響は及ぼしません。が、レコードプレーヤーは重力によるホコリの落下だけでなく、静電気によってもホコリを引き寄せてしまいます。したがって、常日頃からホコリの除去作業は必要です。
特にプラッターはレコード盤を乗せる部分です。もしプラッターが汚れていれば、ホコリがレコード盤の裏面に付着し、硬化してノイズや音飛びの原因となります。レコードの音質を損なわないためにも、また、致命的な再生障害を防ぐためにも、プラッターはこまめにクリーニングしましょう。
そして、多くの方にとって盲点となっているのがプラッターの内部です。プラッターは大きくて重い部品ですが、真上に持ち上げれば抜けます。プラッター内部には意外とホコリがたまっています。こちらもこまめに外してホコリを取り除きましょう。
一般的なレコードプレーヤーにはダストカバーがありますが、中にはないものもあります。その場合は保護用カバーなどでプラッターを保護しましょう。
5.カートリッジのお手入れ方法
レコードはカートリッジで拾った微細なアナログ信号をアンプに送ることで再生します。その経路はCDプレーヤーとは異なり、いくつもの接点が存在します。カートリッジの4つの出力ピンやリード線、ヘッドシェルのリード線端子、トーンアームのシェルとの接合部分などです。そして、それらは電圧でライン系の100分の1程度という非常に小さな電力を扱っており、ちょっとした汚れやサビでも大きな影響を受けてしまいます。したがって、例えばその一ヶ所でも汚れや不具合による接触不良などがあれば、雑音にさらされたり、最悪の場合は音が出ないこともあるためクリーニングは必須です。中でも特に重要となる日々のメンテナンスが、アーム先端にあるカートリッジのお手入れです。
5-1.接点クリーニング
レコードプレーヤーで片チャンネルの音がでない場合、まず試すべきことでもある「接点クリーニング」。やり方は非常に簡単です。まず、シェルごとアームから抜き、それから繊維の残りづらい布や綿棒などで、シェル/カートリッジ両方の接合部分を磨くだけです。
このとき、いくら頑固な油汚れが見受けられても、洗剤の使用は控えましょう。一時的に良くなっても、油成分などが機器に残留し、それが経年劣化するとさらに音が悪くなったりする可能性があるからです。どうしても、と言う場合は、接点クリーナーを使いましょう。接点クリーナーには洗浄効果や接点復活の効果があります。
5-2.スタイラス(針先)のクリーニング
スタイラスに少しでも繊維などの糸クズが付着すると、それだけでノイズが発生したり、音が歪んでしまいます。その原因として最も考えられるのは、スタライスが音溝をトレースする際、もともとレコード盤に付着していたゴミをからめてしまうことです。が、安易に針先にからまったゴミを指先で取り払うことは避けましょう。針を傷めてしまう可能性が高いからです。スタライスのクリーニングは、やはり慎重に行うべきです。
そこでこの章では、スタライスをクリーニングする時に準備すべき物とその手順をご紹介します。
5-2-1.スタライスのクリーニングで準備すべき物
必須はスタイラスクリーナーです。乾式と湿式がありますが、両方用意しましょう。乾式は糸クズのよう大きなゴミを取るのに使用し、湿式は針先に付着した汚れを溶かすのに用います。
また、ミラーやルーペを揃えておくこともお勧めです。スタライスは非常に細かいため、肉眼ではなかなか見づらいからです。
5-2-1.スタライスのクリーニングの手順
「針先が減ってきた?」「針が滑ってしまう……」「高域のキレがなくなった?」
こうした症状が起こるのは、たいてい針先にゴミがたまっただけの場合が多いようです。したがって、すぐにクリーニングをしてメンテナンスするべきです。
手順は3つです。
【手順1】
まず、シェルをトーンアームから取り外します。取付けたままでもできなくはありませんが、外して行った方が無難です。
【手順2】
次に、乾式ブラシでクリーニングします。目的は、毛やカビの固まりなどのゴミを除去することです。
多くの方がスタライスクリーニングを日々のメンテナンスとしてやっていないようですが、もしその場合は、このクリーニングをするだけでも相当な音質向上が望めます。
ただし、一つだけ注意事項があります。ブラシを動かす方向です。必ず「カンチレバーの後方から前方へ(針元から先へ)」「優しく静かに拭く」ことです。逆方向や往復は厳禁です。振動系を痛めたりすることがあります。
【手順3】
乾式ブラシで清掃したら、今度は湿式クリーナーを使ってカビなどを除去します。このときも、必ず「針元から先へ」動かします。乾式クリーニングと同様、逆方向や往復はやめましょう。
また、湿式クリーニングを行った際は、必ず液が完全に乾いてから作動させてください。針先が十分乾燥していないと、砥石のような作用をしてレコードを痛めることがあります。
https://audio.kaitori8.com/topics/cartridge/
6.レコード盤の扱い方
6-1.レコード盤の正しい保管方法
レコード盤は必ずビニルに入れて、ビニルが開いた口がジャケットの上側になるようにしまいましょう。ビニルの下が開いていると、レコードを取り出す際に盤が落ちてしまうからです。
また、オーディオ機器全般にあてはまることですが、レコード盤も日の当たるところや湿気のあるところは避けて保管しましょう。いま普及しているレコード盤のほとんどは、材質が樹脂です。熱で曲がる素材です。また、レコード盤の黒い部分こそ水に浸しても問題ありませんが、センターレーベルは紙なので湿気も大敵です。
そして、横にして上に重ねていったり、斜めにして保管することも避けましょう。レコード盤が反ったりするからです。レコード盤は必ずレコード棚などに立てて保管しましょう。
6-2.レコード盤の正しい持ち方
レコード盤への指紋の付着はカビの原因となります。手の油や垢がバクテリアの栄養分となるからです。レコード盤はなるべく直接手で触れないようにしましょう。ちなみに、両手で盤の左右を持てば盤面に触れる可能性は激減します。
ターンテーブルへのセットは、両手で持ったレコード盤をそのままセンタースピンドルを狙って静かに、しかし迷わずセットしましょう。レコード盤のレーベルの擦り傷は「ひげ」と呼ばれ、レコードを乱暴に扱う人とみなされます。センタースピンドルでグリグリと孔を探さずに、迷わず一発でセットしましょう。
なお、B面にチェンジしたい時は、両手で持ったレコードをそのままくるりと半回転させればよいだけです。
6-3.レコード盤のクリーニング
レコード盤のクリーニングは、重要な日々のメンテナンスの一つです。ただ、その方法は色々あって、初心者向けや玄人向け、マニア向けなど本当に様々です。我流のものも多くあり、とんでもなくお金をかけている人もいます。
が、ここでは初心者でもやりやすい、さらにあまりお金もかからない、一般的なクリーニング方法をご紹介します。
6-3-1.レコード盤から汚れ・静電気を取り除く理由
冒頭で述べたように、レコードプレーヤーはレコード盤の音溝をスタライスがトレースし、振動を電気に変換してスピーカーから音を鳴らします。ですから、レコードの溝に詰まったホコリによる振動、あるいはレコードプレーヤー本体の振動など、物理的振動の全てはレコード針が拾い上げ、スピーカーでノイズとして再生してしまいます。
また、静電気はホコリを寄せ付ける性質があります。したがって、レコード盤に静電気が帯電するとホコリがよってきてしまい、結果的にレコード針がホコリの振動を拾ってノイズが発生してしまいます。
こうした理由から、レコード盤はこまめにメンテナンスを施し、ホコリや静電気を除去しましょう。
6-3-2.レコード盤のクリーニング方法
レコード盤の最も一般的なクリーニングは、ベルベット素材のレコードクリーナーを使う方法です。乾式と湿式がありますが、乾式はホコリの除去に使用し、湿式は、乾式クリーナーで汚れが除去できない、あるいは静電気が発生しやすい乾燥する冬場に使用します。
クリーナー使用時に注意すべきことは(乾式も湿式も)、とにかく「拭き方」です。必ず「溝に沿って」「大きな円を描くように」「優しく軽く」拭きます。特に拭く方向には注意が必要です。CDクリーニングのように、中心から外側へ向かって放射状に拭くことは絶対に避けましょう。ホコリが取れないばかりか、溝に傷をつけかねません。
また、あまり強くこすってしまうと、静電気が発生する原因となります。レコードのクリーニングのポイントは「溝に沿って」「大きな円を描くように」「優しく軽く」拭くことです。
6-3-2.レコード盤のカビの落とし方
レコード盤のカビ汚れは、一筋縄では落ちません。
そこで、大胆に「水洗い」することも時折あります。
今回は、国内で数少ないレコード生産会社の東洋化成㈱さんのツイートから引用しつつ、その方法をご紹介します。
準備する物は次の三つです。
「10倍に薄めた中性洗剤」「純水」「ベッチンなど、柔らかい布(3枚)」。
手順は次の6ステップです。
①水道水で流す
※このとき、センターレーベルにはあまり水がかからないように注意しましょう
②薄めた中性洗剤を布(1枚目)に染み込ませ、固く絞ります
③平らな所にレコードを置き、1枚目の布で音溝の汚れを拭き取ります
※レコードを拭く際は、決して音溝の垂直方向には拭かず、円周に沿って布を走らせます
④洗剤が残らないように水道水で洗い流します
⑤布(2枚目)に純水を染み込ませ、固く絞った上でレコードを拭きます
⑥乾いた布(3枚目)で拭きます
〈引用〉
https://twitter.com/toyokasei/status/794100820971130880
7.まとめ
アナログ再生は接触型メディアです。したがって、接触部分にホコリや汚れが付着すると、それだけで音質劣化が認められるばかりか、ノイズの発生が懸念されます。良い音を良いオーディオでいつまでも楽しむために、ぜひ毎日のメンテナンスを忘れないでください。
最大の注意点は、二つです。
一つが、スタライスのクリーニング方法です。
必ず「針元から先へ」動かします。逆方向や往復は厳禁です。
そして、もう一つがレコード盤のクリーニング方法です。
CDのように、中心から外へ向かって動かすことはNGです。溝に沿って大きな演を描くように拭きましょう。
この二つを厳守しないと、メンテナンスのつもりが故障原因をつくることになります。くれぐれもご注意ください。
が、反対に言えば、この二つさえ守っていれば、そうそうは重大な故障には至りません。しっかりメンテナンス&お手入れして、ぜひアナログレコード・アナログプレーヤーを、ずっとこれからも大切にしてください。
皆さまのアナログが、いつまでも優しいぬくもりを奏でますように。
円盤式メディアの元祖「レコード」においては、音質が変化する要素はたくさん存在します。レコード盤の状態やカートリッジの性能、トーンアームやフォノアンプなどいくつもあって、そして、それらの要素を自分で組み合わせて音質を再現します。
一方、CDプレーヤーには、音の再現に関してはほとんど要素がありません。ただ繋げるだけ。それだけで簡単にクリアな音質が再生できます。
また、レコードは人間が聞き取れる可聴域(20Hz~20,000Hz)以外の音も記録しますが、CDでは記録を最適化しており、可聴域の間の音のみを取り出してデジタル処理(サンプリング)して記録しています。
デジタル情報を記録するためのメディア「CD」。
ファイルオーディオも含め、今はアナログの振動である音の波をデジタル化し、それを楽しむのが一般的となりました。そこで今回は、音をデジタル化した最初のメディア「CD」について詳しく見てみようと思います。
目次
- CD開発の経緯
1-1.CDはソニーとフィリップスの共同開発
1-2.なぜCDは74分、12cmなのか
1-3.それでも12cmでは大きい - 世界初のCD
2-1.世界初のCDは
2-2.世界で初めて販売されたCDタイトル - 3世界初のCDプレーヤー
3-1.CDP-101
3-2.DAD-1000
3-3.DCD-2000
3-4.Lo-D「DAD-1000」のOEM - まとめ
1.CD開発の経緯
1-1.CDはソニーとフィリップスの共同開発
アメリカの発明家「ジェームス・ラッセル」。彼が音楽用光学メディア・テクノロジーの発明に成功したことからCDの歴史は始まります。1965年のことでした。そしてその数年後、フィリップスとソニーは共同開発を行う方針を固め、1979年の夏には実際に共同開発を開始します。
両者が手を組むことは大変意義のあることでした。フィリップスは光学方式のビデオディスクのリーダー的存在、ソニーはデジタルオーディオ信号処理技術を開発しています。ですから、理想的な音楽メディアが完成することは間違いありませんでした。
さらに、フィリップスにもソニーにも、自前のソフトウエア会社がありました。フィリップスにはポリグラムという世界的なレコード会社が、ソニーにも1968年に設立したCBS・ソニーレコードがあり、フィリップスもソニーも新メディアのソフト供給者には困らない状況でした。
https://audio.kaitori8.com/topics/player-select/
1-2.なぜCDは74分、12cmなのか
とはいえ、世界初の試みだったこともあり、開発は困難を極めます。まず両社の間で論議となったのが「量子化ビット数」の問題でした。
音声の伝送において、連続したアナログ信号からデジタル信号に変換する際(AD変換)、一定の時間に何個のデータ(標本)をサンプリング(抽出)するかを表すのが、サンプリング周波数と呼ばれる数値です。サンプリングレートとも呼ばれますが、この数によって、音質の良否が決定されます。また、サンプリングされた各信号のレベルを0と1の2進数で表すことを量子化といい、この2進数の桁をビットと定義しています。「ビット数が大きい」、つまり「量子化の精度が細かい」ほど、再生音のダイナミックレンジは大きくなります。
そして、ソニーは21世紀になっても通用するシステム構築のために、少々無理をしてでも「16ビット」にすべきだと考えていましたが、フィリップスはそれに猛反対。「14ビット」を主張します。14ビットは実現が容易でしたが、16ビットは技術的にも価格的にも至難の業とされていたからです。
さらに大きな壁となって立ちはだかったのが「規格」でした。「記録時間」と「ディスクの直径」の問題です。フィリップスは「記録時間は60分、ディスクの直径は11.5cm」を主張しますが、ソニーの主張は「75分、12cm」でした。
当然、こちらも両社の主張には根拠があります。
フィリップスの主張した直径11.5cmというサイズは、オーディオカセットの対角線と同じ長さで、DIN規格(ドイツ工業品標準規格)に適合します。つまり、ヨーロッパ市場でのカー・オーディオとしての将来性を見込んだわけです。
一方、ソニーは音楽ソフト面から議論を進めており、「オペラの幕が途中で切れないこと」プラス「ベートーヴェンの第九が収まること」を主張していました。その主張の中心人物は、当時ソニーの副社長で音楽家でもあった大賀典雄。彼は「クラシック音楽の95%が、75分あれば1枚のCDに収められること」、さらに「第九はおよそ65分程度であること」を調べ上げます。そして、名指揮者カラヤンの名前を引き合いに出し(実際、カラヤンも新しいメディアには第九が一枚で収まることを推奨していました)、結果、CDの時間は74分に決着します。
1-3.それでも12cmでは大きい
そうして経緯を経て、一旦は74分12cmで決着したかに見えましたが、フィリップスは別角度からソニーに反論します。「12cmでは上着のポケットに入らない」というのです。実は、新しいメディアはポケットサイズであることを前提に開発してきたのです。
が、そこはソニーの調査力です。日・米・欧の上着のポケットサイズを徹底的に調べ上げ、「ポケットのサイズは最大で14cm」と結論。そこで初めて正式に、ソニーの主張どおり最大演奏時間74分42秒、直径も12cm、サンプリング周波数44.1kz、量子化ビット数も16ビットとなりました。
2. 世界初のCD
2-1.世界初のCDは
1981年にはドイツでテストCD(カラヤン指揮によるリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲)が製造され、当初の予定通り1982年にはCDの生産が開始されました。
そして、その年の10月1日、日本でソニー、日立(Lo-Dブランド)、日本コロムビア(DENONブランド)から世界初のCDプレーヤーが発売され、さらにその同日には、CBSソニー、EPICソニー、日本コロムビアから世界初のCDソフトがおよそ50タイトル発売されました。
その中で最初に生産されたのが、ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』(CBSソニー/35DP-1)です。そのため、ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』が世界初のCDと言われていますが、それはあくまで、世界で最初に売り出されたCDの中で最初に生産されたCDだからです。
ちなみに、実際に世界で初めて生産された商用CDはABBA/The Visitorsです。西ドイツのハノーファのポリグラムの工場にて8月17日から生産がスタートしています。ただ、欧州でのCD販売は日本よりも二週間遅く、10月15日からでした。そのため、世界初のCDについては、日本人は「ビリー・ジョエル/ニューヨーク52番街」と言い、欧州人は「ABBA/The Visitors」と主張しています。
なお、世界最大のレコード販売国アメリカでは、さらに遅れること5ヶ月、1983年3月2日に初めてCDが発売されます。当時は日本と西ドイツにしかCDを製造できる工場がなかったことが最大の要因でした。
こうしてCDは世界に誕生し、誕生から5年後の1987年にはレコードのシェア率を追い抜き、さらに1991年にはカセットのシェア率を抜き去って、見事オーディオメディアにおけるシェア率第一位の座を射止めます。
2-2.世界で初めて販売されたCDタイトル
1982年10月1日に発売された最初のCDタイトルは以下の通りです。
2-2-1.クラシック by CBS・ソニー
・ベートーヴェン「運命」 シューベルト「未完成」 / マゼール:ウィーン・フィル
・ベートーヴェン「英雄」 / エータ:ニューヨーク・フィル
・モーツァルト「ハフナー」「リンク」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・モーツァルト「ブラーハ」交響曲第39番 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・モーツァルト 交響曲第40番「ジュピター」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 / クーベリック:バイエルン放送交響楽団
・チャイコフスキー 交響曲第5番 / マゼール:クリーブランド管弦楽団
・ショスタコーヴィッチ 交響曲第5番「革命」 / バーンスタイン:ニューヨーク・フィル
・チャイコフスキー 序曲「1812年」他 / マゼール:ウィーン・フィル
・R.シュトラウス 交響詩「ツァラトゥラスはかく語りき」 / メータ:ニューヨーク・フィル
・ストラヴィンスキー バレエ音楽「ベトルーシュカ」 / メータ:ニューヨーク・フィル
・ホルスト 組曲「惑星」 / マゼール:フランス国立管弦楽団
・ドヴォルザーク チェロ協奏曲 / 堤剛(Vc)、コシュラー:チェコ・フィル
・グリーグ ピアノ協奏曲他 / 中村紘子(P)、大町陽一郎:東京フィル
・新ショパン名曲集(全12曲) / 中村紘子(P)
2-2-2.ポピュラー by CBS・ソニー
・ニューヨーク52番街 / ビリー・ジョエル
・ストレンジャー / ビリー・ジョエル
・ミドルマン / ボズ・スキャッグス
・炎(あなたがここいてほしい) / ピンクフロイ
・ターン・バック / TOTO
・エスケイプ / ジャーニー
・ギルティ / バーブラ・ストライザント
・ナイト・パッセージ / ウェザー・リポート
・スーパー・ギター・トリオ・ライブ / アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリン
・ワン・オン・ワン / ボブ・ジェームス&アーム・クルー
・ヒッツ!/ボズ・スキャッグス
・TOTO IV / TOTO
・「若き緑の日々」ニューベスト / サイモン&ガーファンクル
・明日に架ける橋 / サイモン&ガーファンクル
・天空の女神 / EW & F
・ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン / マイルス・デイビス
・ハービー・ハンコック・トリオ with ロン・カーター+トニー・ウイリアムス
2-2-3.国内制作 by CBS・ソニー
・A LONG VACATION / 大滝詠一
・NIAGARA TRIANGLE Vol.2 / 佐野元春、杉真理、大滝詠一
・Pineapple / 松田聖子
・恋人よ / 五輪真弓
・Again百恵 あなたへの子守歌 / 山口百恵
・THE BEST Againキャンディーズ / キャンディーズ
・オレンジ・エクスプレス / 渡辺貞夫
・KIMIKO / 笠井紀美子
・ニューミュージック・ベスト・ヒット / オムニバス
・THE SL:SL SOUND IN DIGITAL
2-2-4.ポピュラー by EPIC・ソニー
・イザベラの瞳/フリオ・イグレシアス
・オフ・ザ・ウォール/マイケル・ジャクソン
・やさしくラブ・ミー/ノーランズ
・禁じられた夜/REO・スピードワゴン
・ゼア・アンド・バック/ジェフ・ベック
2-2-5.国内制作 by EPIC・ソニー
・SOUL SHADOWS/シャネルズ
・SOMEDAY/佐野元春
・LUNATIC MENU/IPPU-D
3.世界初のCDプレーヤーは
CDが発売された1982年10月1日と同じ日、日本ではソニー、日立(Lo-Dブランド)、日本コロムビア(DENONブランド)から世界初のCDプレーヤーが発売されます。ソニーの第1号機は「CDP-101」、日立の第1号機は「DAD-1000」、DENONの第1号機は「DCD-2000」でした。
3-1.CDP-101
ソニーが発売したCDプレイヤー第1号機「CDP-101」。試作機は外観がずんぐりしていたことから「ゴロンタ」との愛称があり、CDも垂直に入れるタイプでした。が、ソニーは発売直前に仕様を大きく変更。トレイ式を採用します。そして、これに驚いたのは他メーカーでした。各社ともびっくりして、2号機からはこぞってトレイ式を採用します。
そのほか、 前後1曲の頭出しがワンタッチでできる「AMS(オートマチック・ミュージック・センサー)機能」、 全曲/1曲/部分の3パターンをセレクトできる「リピートプレイ機能」などを搭載。定価は16万8千円とかなり高価でしたが、それなりに売れたようです。
今では「停止」は「STOP」が一般的ですが、このCDP-101では「RESET」を採用しています。ただ、他メーカーの「STOP」の方が浸透したため、その後のソニーはしばらく「STOP(RESET)」と並記していましたが、すぐに「STOP」に統一しました。
ちなみに、 別売りのRM-65を使用すればカセットデッキとのシンクロプレイが可能です。また、今ではリモコンは付属品ですが、当時は別売り(ワイヤレスリモコン RM-101)で1万円しました。
【主な仕様】
・読取り方式:非接触光学読取り(半導体レーザー使用)
・レーザー:GaAlAsダブルヘテロダイオード
・回転数:約500〜200rpm(CLV)
・演奏速度:1.2m/s〜1.4m/s(一定)
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・高調波歪率:0.004%以下(1kHz)
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測定限界以下
・出力レベル:2Vrms(MSB) /ヘッドホン出力レベル:28mW(32Ω)(MSB)
・電源:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:23W
・外形寸法:W350 x H105 x D325mm
・重量:7.6kg
3-2.DAD-1000
Lo-D(日立)が発売したCDプレイヤー第1号機「DAD-1000」。こちらもソニーのCDP-101とともに発売された世界初のCDプレーヤーです。ソニーの初号機にあるCDPは「CD-Player」ですが、Lo-Dの初号機にあるDADは「Degital Audio Disk(デジタル・オーディオ・ディスク)」の略で、レコードに代わる次世代メディアを指します。CDという名称が普及する前はよく使われていました。
ピックアップ(CDから信号を読みとるパーツ)は、自社製の3ビーム方式を搭載。オーディオ信号の安定した読取りを実現しています。また、サーボ回路はソニーを含めた各社初号機の中でも技術的レベルが一段高く、信号処理回路はLSI化。さらに、D/Aコンバーターも自社開発の16bitDACを搭載していました。
機能面では、15曲のランダムメモリー選曲、ワンタッチ選曲、スキャナプレイ、メモリーストップ、オートリピートなどを搭載。さらに特筆すべき点として、今ではお目にかかれない、ピックアップ位置がひと目でわかるロケーションインジケーターが装備されていました。
この「DAD-1000」の販売にあたって、Lo-Dはカタログや広告を使った技術的特徴や機能などのPRはしませんでした。あくまで推測ですが、CDプレーヤーはそれまでのオーディオと全く異なる技術を採用していたため、耳慣れない用語を使うことで既存ユーザーの混乱を避けたのかもしれません。ただ、次のDAD-800からは自社製のピックアップやサーボ回路などを十分にアピールしています。
定価は18万9千円。
【主な仕様】
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・高調波歪率:0.03%以下
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測測定限界(±0.001%W.Peak)以下
・出力電圧: 2.0Vrms
・電源電圧:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:24W
・外形寸法:W320 x H145 x D234mm
・重量:5.6kg
3-3.DCD-2000
実は、Lo-Dの「DAD-1000」は、DENONとの共同開発です。DENONではDCD-2000の名称で販売されました。定価は同じ18万9千円。さらに、仕様も全く同じで、Lo-Dのモデルはシルバー、DENONのモデルはブラックでした。
しかし、この「DCD-2000」は「DENONミュージアム」に掲載されていません。ひょっとすると、共同開発とは名ばかりで、この世界初のCDプレーヤーの開発はLo-Dがメインだったことが関係あるのかもしれませんが・・・・・・とにかく、DENON(日本コロンビア)が持っていたPCM(Pulse Code Modulation)技術と、Lo-Dブランドで培ったオーディオ技術とが融合して、DCD-2000は完成しました。
※仕様はLo-D「DAD-1000」と全く同じのため割愛。
3-4.Lo-D「DAD-1000」のOEM
3-4-1.Lo-DがOEM供給できた理由
Lo-Dの技術提供はDENON「DCD-2000」だけではありません。そのほか多くの海外メーカーにもOEM供給しています。
ちなみに、1982年当時では、こうしたプレーヤーを一社単独で作ることは非常に困難でした。ソニーの「CDP-101」も、半導体レーザーはシャープ製です。しかし、当時の日立はメインフレームと呼ばれる大型コンピューターやオフィスコンピューター、ミニコンピューターなども製造していました。また、LSIなどの半導体の分野でも、自社工場を持つなど優れたエレクトロニクス技術を保持。さらに、モーターや半導体レーザーなど、CDプレーヤーの主要パーツを自社でまかなうことができたため、そこにLo-Dブランドで培ったオーディオ技術が加わって、一社単独での生産が可能になりました。
3-4-2.ビクター「XL-V1」
ビクターのCDプレーヤー第1号機「XL-V1」も、DAD-1000のOEMです。
ただ、DENON「DCD-2000」とは違って、Lo-D「DAD-1000」と全く同じというわけではありません。DAS-90デジタルオーディオシステムやAHD、VHDシステムの開発を通して得られた技術をミックスして完成させています。
ピックアップには半導体レーザーダイオードによる光学式ピックアップシステムを、デジタル信号処理回路にはMOS-LSIを、メカニズムの駆動モーターには低振動・ハイトルクのコアレスモーターを採用しています。また、D/A変換動作にて正確さを増すため、D/Aコンバーター自身に校正機能を搭載。これにより温度変化の影響や素子のバラツキを低減し、安定した音質を再現しています。
操作状態を確認できるFLディスプレイを搭載し、さらに、ピックアップの位置が確認できるロケーションインジケーターも搭載しています。
【主な仕様】
・周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
・ダイナミックレンジ:90dB以上
・ワウ・フラッター:測定限界(±0.001%W.Peak、EIAJ)以下
・出力レベル:2Vrms
・電源:AC100V 50Hz/60Hz
・消費電力:21W
・外形寸法:W322 x H147 x D245mm
・重量:5.6kg
4. .まとめ
ジェームス・ラッセルが音楽用光学メディア・テクノロジーの発明に成功して始まった、新たなメディア「CD」の歴史。その研究結果を元に、実際に商用として開発したのが「フィリップス」と「ソニー」でした。二社は細かい規格についての激論を重ねながら、1981年にドイツでテストCDを製造し、1982年には予定通りCDの生産を開始します。
しかし、新しい規格への挑戦とあって、既存のマーケットは開発に対して前向きではありませんでした。
「ユーザーはこれほどまでレコードに満足しているのに、なぜ新しいメディアをわざわざつくる必要があるのかね。反対だ」
それが大方の意見でした。
それでも、フィリップスとソニーはまわりを徐々に説得することに成功し、とうとう1982年、念願の新しい音楽メディアCDは誕生します。そして、その誕生から5年後にはレコードのシェア率を追い抜き、発売から10年も経たないうちにカセットのシェア率を抜き去って、見事オーディオメディアにおけるシェア率第一位に輝きます。
近年では売上が急激に下がっているようですが、それでもまだまだ音楽メディアの主役であるCDには、多くの名曲が収められているメディアです。
美しい音で、美しい曲を。
これからも、ハードであるオーディオと共に、ソフトのCDももっと大切にしなければと、そう私は思うのですが、いかがでしょうか。
オーディオ「audio」はラテン語の「audire(聴く)」に由来し、英語の原語としては、人間が聴き取れる「可聴周波の」という形容詞です。つまり、オーディオ「audio」は、もともとは可聴周波数「audio frequency」のことで、人間の耳が聴き取れる周波数「20~2万 Hz」の範囲を意味しました。
しかし、それがいつからか、私たちはその周波数帯域「audio frequency」の音を記録・再生するための機器一般を「オーディオ」と呼ぶようになり、そして今では誰もが、それら装置を「オーディオ」として認識するに至っています。
では、オーディオはどんな歴史をたどって進化してきたのでしょう。
また、オーディオにはどんな装置があり、どんなメディアがあるのでしょう。
今回から数回に渡って、オーディオについて解説しようと思います。
目次
- 音と
1-1.大きさ
1-2.高さ
1-3.音色 - 音楽メディアの変遷
- レコード誕生の経緯
3-1.始まりは「再生できない録音機」
3-2.レコードの技術は電話から生まれた - 音楽メディアの「レコード」
4-1.レコードの形状
4-2.レコードの材質
4-3.レコードの溝 - まとめ
1.音とは
音とは空気の振動です。その振動が人間の鼓膜を振動させ、人間はそれを音として感じます。
音には様々な種類があります。その違いを表す要素として、「大きさ」「高さ」「音色」があります。
1-1.大きさ
音の大きさは、空気の圧力の変化量によって決定され、この変化する圧力を「音圧」といいます。そのため、音の強弱を表す単位は「Pa(パスカル)」です。しかし、人が聞くことのできる音圧の範囲は非常に広いため、分かりやすくするためにも「dB(デシベル)」を採用しています。dBは数値が大きいほど大きな音を意味します。一般的に、普通の会話は40~60dB、電車の中は80~100dB程度といわれています。
1-2.高さ
音の高さは、1秒間に空気が振動する回数です。周波数の単位「Hz(ヘルツ)」で表し、1秒間に1回の振動が1Hzです。人間が聞き取れる周波数は20Hzから2万Hzまでです。そして、音の高さは「ドレミファシソラシ」のような音階名で表現され、音階において1オクターブ高い音は周波数が倍になり、1オクターブ低い音は周波数が半分になります。一般的に、男性の声の基本周波数は100Hz、女性の基本周波数は200Hz、NHKの時報(プ・プ・プ)は440Hzと言われています。
1-3.音色
同じ大きさや同じ高さの音を聴いても、ピアノとバイオリンの音は明らかに違います。これはどんな「倍音」が含まれているかによって音色が異なるからです。倍音とは、周波数の整数倍の振動です。音は基本の倍音が重なることで「音色」が構成されます。倍音が多くなると明るい音になり、逆に少ないと暗い音として聞こえます。
2.音楽メディアの変遷
人類最古の録音と言えば、トーマス・エジソンが発明した蓄音機を思い浮かべる方も多いことでしょう。しかし、現代の解釈では、世界最古の録音は1857年にエドワール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィル(Édouard-Léon Scott de Martinville) が発明した「フォノトグラフ」というのが一般的です。
つまり音楽メディアの歴史は
フォノトグラフ→蓄音機→レコード→カセットテープ→CD→DAT→MD→MP3
と流れていきます。
フォノトグラフは音声を波形図に変換して記録する装置です。再生機能はありません。
一方、蓄音機はフォノトグラフと近い基本構造の録音機ですが、再生機能を有していました。エジソンによる発明品で、フォノトグラフより20年遅れた1877年に、この世に誕生した製品です。錫箔を張った銅製のシリンダーを手で回転させ、振動板に直結した録音針を錫箔に押し当て、音の強さに応じて溝の深さを変化させることで録音します。
蓄音機がさらに進化し、量産可能となったのが円盤式蓄音機「グラモフォン」です。いわゆるレコードの原型です。1887年、エミール・ベルリナーが発明しました。初期レコードは5分程度しか録音できませんでしたが、1948年にはLP(Long Play)レコードが実用化され、片面で20分の録音が可能となりました。
1962年に入ると、カセットテープが発売されました。音声を磁気に変換し、テープに記録するものです。そして、1979年にはヘッドフォンステレオが発売され、それまで家で聞くものだった音楽は外に持ち出せるようになりました。これにより、爆発的にカセットテープの需要は拡大。音楽カルチャーは劇的に変化しました。
さらに音楽業界を変えたのが、1982年に発売されたCD(Compact Disc)です。原盤をプレスし、物理的に凹凸をつけてデジタルデータを記録し、レーザー光を当てて反射光を読み取り再生します。最大収録時間は74分。このCDというメディアは長く音楽メディアの主流となります。
一方、1987年にはDAT(Digital Audio Tape)が発売されます。DATは業務用として広く使われたメディアです。見た目はカセットテープですが、音をアナログからデジタルに変換して記録し、再生時に再びデジタルからアナログに変換します。かなり高性能でしたが、一般にはあまり普及しませんでした。
その後、1992年にはMDが登場します。CDをさらに小型化した「Mini Disc」です。カセットテープのように自分で録音できた上、文字入力が可能だったので曲名などを編集することができました。
そして現代。
これまでのメディアを決定的に変化させ、革命ともいえる「音の圧縮技術」が発明されます。正確には「メディア」というよりデジタルデータそのものですが、代表的なMP3では、音質劣化を防ぎつつ、従来の10分の1程度の容量に音楽ファイルが圧縮できます。こうした音楽ファイルをデジタルオーディオプレイヤーに入れて持ち運ぶのが現代のスタイルです。また、今までは、音楽はメディアに録音して発売されてきましたが、この圧縮技術の発明により、音楽データそのものをダウンロード販売するという手法も一般に広く普及しました。
3.レコード誕生の経緯
3-1.始まりは「再生できない録音機」
人類が音を録音できるようになったのは、1857年からです。最初の録音装置は、フランス人のエドワール=レオン・スコットが発明したフォノトグラフ。ススを塗布した紙の上に樽状の箱を設置し、その箱の底が音により振幅したものを針に伝え、その針で紙を引搔いて音声を記録します。
フォノトグラフはエジソンの発明したフォノグラフと異なり、「録音専用機」です。音の振幅具合を波形の強弱によって表すのみで、音の記録を読み取ることはできませんでした。しかし、これは再生機能の開発失敗ではありません。フォノトグラフ開発の目的は録音装置の発明であって、再生装置の発明ではなかったからです。19世紀後半の当時では、音声を記録すると言えば「速記」を意味しました。速記とは、速記者が音や声を聴き、速記文字や速記符号とよばれる特殊な記号を用いて言葉を簡単な符号に変換し、人の発言等を記録する方法です。スコットはこの役割だけを機械化しようと考えたのです。
とはいえ、再生できない録音装置はまるで意味をなしません。ですから、今まではこのフォノトグラフは録音装置として認められていませんでした。
が、2008年のことです。いよいよ21世紀の技術と米国の音声史学者、録音技師、科学者などの知恵を結集させ、紙に刻まれたわずかな溝をデジタル画像で処理してその音の再生に成功します。録音されていた内容は、フランス民謡「Au Claire de la Lune(月の光)」。女性の声で約10秒間にわたり録音されていました。
この取り組みはアメリカのFirst Sounds協力の下に行われたのですが、長期間失われていた初期の録音を蘇らせるプロジェクトを推進してきた同団体は、「まさかスコットも、この録音が再生されるとは夢にも思わなかっただろう」との声明を出しています。
3-2.レコードの技術は電話から生まれた
レコードの原型を発明したのは、エミール・ベルリナーです。1851年、ドイツのハノーファーで、ユダヤ系の商人で学者の父とアマチュアの音楽家である母との間に生まれました。そして1870年に両親とアメリカに移住し、クーパー研究所の物理学と電気工学の夜間講座に出席。その後は電気技術者としての腕を磨きますが、当時、評判になっていたアレクサンダー・グラハム・ベルの電話機に興味を持ち、その改良案で送話器に関する特許を取得します。
一方、その頃のベルは、電話機の発明の一部がエジソンの特許に抵触する可能性があり、それを避ける方策を探していました。そこで白羽の矢がたったのがベルリナーだったのですが、彼自身と彼の改良案が開発チームに加わったことで、ベルはエジソンとの電話機における特許争いに勝利。最終的な特許を確定させます。そして、グレアム・ベルが電話機を発明したことにより再生の目処がつくと、多くの研究者が再生可能なレコードの発明に取りかかります。
エジソンもその一人で、電話機の特許争いに敗れた彼はレコードの分野での反撃を試みます。そして1877年12月6日、最初の錫箔円筒式蓄音機「フォノグラフ」を発表します。
この蓄音機は「話す機械」として宣伝され、大いに評判を呼び、また、世界で初めて再生可能なレコードが誕生したとして、現在では12月6日が「音の日」となっています(しかし、実はエジソンよりも約4ヶ月前の1877年4月に、フランス人のシャルル・クロスが円盤を使ったほぼ同機構の録音装置に関する論文を発表しています。エジソンが先に実物を完成させたため、「録音装置の発明はエジソン」となっていますが)。
このように、エジソンの発明した蓄音機「フォノグラフ」はとても高く評価されますが、実は評判のわりに性能が低く、実用化にはほど遠いものでした。
そこでその後、ベルリナーはベルの研究所から独立。蓄音機の実用化に向け改良を重ね、1887年のことです。レコードプレーヤーの原型である円盤式蓄音機「グラモフォン」を完成させます。
このグラモフォン最大の特徴は、水平なターンテーブルに載せて再生する円盤式であることです。発端こそエジソンの円筒式レコード特許を回避するためでしたが、結果として円盤式は円筒式より収納しやすく、原盤を用いた複製も容易になりました。また、中央部分にレーベルを貼付できることも円筒式にはない特長で、CDやDVD、BDにつながる円盤型メディアの歴史はここから始まっているといえます。
さらに、ベルリナーは記録面に対し針が振動する向きを、従来の垂直から水平に変更。これにより音溝の深さが一定になり、既存よりかなりの音質向上に成功しています。
4.音楽メディアの「レコード」
4-1.レコードの形状
レコードの形状はいくつかありますが、SPとLP、EPの3種類が代表的です。
SPは1887年にベルリナーが発明した円盤式グラモフォンが元祖です。
LPレコードは1948年にアメリカ・コロムビア社から発売され、EPレコードはその翌年の1949年にRCAビクターから発売されました。当初はLPとEPは競合でした。しかし、どちらも人気が出たため、やがて両者は歩み寄るようになります。
4-1-1.SP(Standard Play)レコード
SPレコードのSPとはスタンダード・プレイの意味です。直径は25cmと30cmの2種類(ラジオ放送用マスターなど、一部の用途では16インチ盤も使用されました)で、回転数は初期こそバラツキがあったものの(ただし、その頃の蓄音機は手回し式なので特に問題はありませんでした)、1920年代に78回転に統一されます。
また、録音についても、1920年頃までは集音ラッパに吹き込むアコースティック録音でしたが、その頃からマイクロフォンとアンプを使った電気録音が主流となり始めました。
収録時間は30cm盤でも片面4分30秒程度と短く、シェラック盤と呼ばれる固い素材でできているため、割れやすくキズも付きやすいのが特徴でした。
正しく再生するためには専用プレーヤー(蓄音機やレーザ方式のプレーヤーなど)が必要で、仮にターンテーブルが78回転対応のプレーヤーでも、カートリッジを専用品に交換していなければ適切に再生できません。
1963年に生産は終了しています。
4-1-2.LP(Long Play) レコード
1948年、アメリカのコロムビアから初めて発売されたレコードです。長時間録音ができるためLP(long play)盤と呼ばれています。
もともとはSP盤が主流の1925年に、イギリスのウオルドというメーカーがLP盤の原型ともいえる長時間レコード(回転数はLPとほぼ同じで、片面約20分再生可能)を開発しました。しかし、4年も経たずにウオルドは撤退。製造は打ち切られ、普及には至りませんでした。それでもその後、新しい盤質として塩化ビニールなどの技術開発が進み、コロムビアがLPレコードの量産、商品化に成功。米英を始め、各国のレコード会社がこれに続いて普及が進み、やがて世界のアナログ盤の標準メディアの1つとなり、今に至ります。
30cmサイズのLPレコードの多くは33回転のステレオ盤とモノラル盤ですが、45回転LPというものもあって、これは主にオーディオファン向けの高音質盤です。また、昔は25cm盤もありましたが、これはSP盤の主流が25cmだったことの名残です。そして、80年代には12インチシングルという30cmの両面に2曲から4曲程度を収録したレコードも登場しますが、こちらは今もクラブDJ向けに少数の生産があります。
SPが非常に割れやすかったことから、初期のLPレコードには「割れない」を強調する為「Unbreakable」との表示がありました。また、33回転(3分で100回転)の由来は、無声映画のフィルム1巻15分の間に500回転することによります。
4-1-3.EP(Extended Play)レコード
1949年、RCAビクターが発売した17cmサイズのレコードがEPレコードです。「収録時間がLP(フル・アルバム)よりは短いが、シングルよりは長い」という「Extended Play」の略です。基本的には45回転ですが、60~70年代初頭はLPが高価だったため、33回転で両面に4曲程度を収録し、若者でも購入しやすくした「コンパクト盤」といわれるものも登場しました。
ジュークボックスのオートチェンジャー用に丸い大きな穴が中央に空いているものが多く、「ドーナツ盤」とも呼ばれていて、その大きな穴のため、再生にはシングル(EP)用アダプタが必要です。
LPよりも回転数が早く、独特の迫力ある音が楽しめると人気の形状でした。
4-2.レコードの材質
4-2-1.ビニール盤(ヴァイナル盤)
SP盤で使用されていたシェラックに比べ、弾性があり割れにくく丈夫。その上薄くて軽い。それがヴァイナル盤の特徴です。また、素材にポリ塩化ビニールを採用することで細密な記録が可能となり、宝石製永久針の使用+カートリッジの軽量化などにより、さらなる長時間再生・音質向上が実現されました。
1940年代以前に作られた多くのSP盤と比較して、耐久性や記録音質がとても高く、レコードの普及に一役買ったヴァイナル盤。しかし、そればかりではありません。現在一般に流通しているレコードも、実はこのヴァイナル盤です。
ヴァイナル盤には長い歴史がありますが、基本的なプレス方法の流れは今も昔も変わりません。
まず最初に、マスター音源を調整した音をカッティングマシンで刻み込み(凹盤)金属メッキをします。次に、そのメッキを剥がして製作したマザースタンパー(凸盤)を使ってプレスします。
ちなみに、レコード盤は外側から内側に向かって高域周波数帯が減衰する特性があります。そのため、レコードの外側の溝と内側の溝では、外側の方が音質が良くなります。A面、B面それぞれのオープニング曲がレコードの最外周から始まるのはこのためです。また、33回転よりも45回転の方が回転が早いため、録音時に優位な状態となります。そのため、回転数の高い45回転の方が一般的には高音質と言われています。
4-2-2.ソノシート
1958年、フランスのS.A.I.P.というメーカーで開発されたソノシートは、非常に薄いレコード盤です。通常のLP、EPレコードのように硬質ではなく、フィルムのようなもので作られいてペラペラしているのが特徴です。
大きさはほとんどがEPサイズの17cm盤ですが、8cm程度の小型盤も存在します(後者は専用のプレイヤーで聴くものが多数)。色は赤または青が多く、ビニール盤よりも音質の面では劣るものの安価に制作できるため、雑誌の付録などに使用されていました。
ちなみに、「ソノシート」は元々は朝日ソノラマの商標だったため、「フォノシート」や「シートレコード」と言い換えられたこともありましたが、現在ではソノシートという呼び名が一般的です。
4-2-3.ピクチャー盤
ピクチャー盤は真っ黒なレコードの盤面に、アーティストの写真や画像などの絵がコーディングされているレコード盤です。LP盤とEP盤の2種類がありますが、EP盤の数は少なく、ほとんどがLP盤です。通常のレコードより重く、音質も鮮明さの面で劣ります。
レコードのビジュアル面を追究したレコードです。
4-2-4.100%pureLP
レコード盤と言えば、一般的には黒色です。なぜなら、レコードは再利用を前提に作られているからです。
昔、レコード店は売れた委託分だけを支払い、売れなかったレコードはメーカーに戻していました。一方、メーカーは返品されたレコードを材料に戻し、リサイクル利用していました。つまり、レコード盤はカーボンなどの染料を添加して、いくら混じっても色の濁りを小さくするため、あえて黒色にしているのです。
しかし、2012年、ユニバーサル・ミュージックが発売したレコード盤「100%pureLP」では、そうした音に影響を与える着色物をすべて排除。新配合無着色ヴァージン・ヴィニールを用い、ダイレクト・カッティングをすることで高音質化を目指しています。
4-3.レコードの溝
4-3-1.モノラル盤
モノラル録音のレコードでは、溝は左右で同じ形状に掘られています。そのため、音は横方向の振動で記録されます。
しかし、1952年にアメリカのクック社が開発したバイノーラル盤では、モノラルLPレコードの外周と内周の半分ずつに左右別々となるチャンネルの音溝が刻まれています。そのため、2本の枝分かれしたピックアップで再生することでステレオ効果が得られます。ただ、再生時間が短く、レコード特有の内周歪みによって左右で音質が変化しやすい、さらには針の置き位置を定めにくいなどのデメリットも多く、ステレオ盤が普及する前に廃れてしまいました。
ちなみに、モノラル・レコードの再生専用カートリッジは、縦方向の振動感度において鈍く設計されています。ですから、ステレオ・レコードに使用すると盤面を損なう場合もあります。注意しましょう。
4-3-2.ステレオ盤(45-45方式)
レコード盤面に対し、音溝を左右斜め45°づつに分けてカッティングし、ステレオのLch/Rchを記録。原理は1931年、イギリスのコロムビア社の技術者アラン・ブラムレインが開発。45-45方式は、1950年代半ばにアメリカのウエスタン・エレクトリック(ウエストレック)社が規格・実用化しました。
左右で音溝の形状が異なるため、レコードの針は上下左右に振動します。
世界初のステレオ盤は、米オーディオ・フィディリティー社から1958年1月に、日本初は同じく1958年の8月1日に日本ビクターから発売されました。
4-3-3-.4チャンネルステレオ盤
通常のステレオ2ch(L/R)にリアスピーカー2chを追加し、4chを記録した方式です。別名はクワドラフォニック盤。ステレオ・レコードよりも高周波数帯を記録しています。
ディスクリート方式とマトリックス方式と呼ばれる互換性のない2つの方式があります。
日本ビクターが1970年に開発したCD-4(ディスクリート方式)と、ソニーが開発したSQマトリクスです。
いずれもあまり普及しませんでしたが、その開発技術はカードリッジの性能向上に大きく寄与し、後のマルチチャンネル開発への大きな糧となりました。
5.まとめ
人間が聴き取れる周波数を表す可聴周波数「audio frequency」が語源のオーディオ。
その歴史は、フォノトグラフ→蓄音機→レコード→カセットテープ→CD→DAT→MD→MP3 と変遷し、今回はレコードの詳細を見てみました。
再び注目を集めているアナログ・レコード。
今、CDの売上は激しく落ち込み始めていますが、レコードの売上は近年増加しています。また、CDは可聴周波数である20~2万Hzの部分のみを切り出して収録していますが、アナログは「カットせずに全ての周波数を収録しているから音質が良い」という意見もあります。あなたはレコードに対し、どんなイメージを抱いていますか。
次回は「レコードプレーヤーについて」です。
レコードプレーヤーとは。
レコードプレーヤーはどんなパーツで構成されているのか。
是非是非ご期待ください。
じぇじぇじぇ。
2013年の流行語大賞にもなったこの言葉、誰もが一度は耳にしたことがあることでしょう。思い返せば、この年の流行語大賞は史上最多の4つもあり(「倍返し!」「今でしょ」「お・も・て・な・し」、そして「じぇじぇじぇ」)、「一つに絞るのが選考委員の仕事だろう」と批判が相次いだことも記憶に新しいかと思います。
「あまちゃん」は、2013年度(平成25年度)に放送されたNHKの連続テレビ小説・第88シリーズテレビドラマ作品です。脚本は宮藤官九郎、主演は能年玲奈。放送終了後には、登場人物が子ども・親・祖父母の3世代にまたがっていてファン層が広かったこともあり、「あまロス」と呼ばれる深い喪失感を覚えた人が多いことも話題となりました。
物語前半(故郷編)の舞台は、岩手県三陸海岸沿いにある架空の町「北三陸市」。東京の女子高生だった天野アキ(能年玲奈)が、夏休みに母の故郷・北三陸で祖母の後を追って海女となるものの、ひょんなことから地元のアイドルとなる姿が描かれています。
物語後半(東京編)では、アキは地元アイドルたちを集めたアイドルグループのメンバーとしてスカウトされ、東京でアイドルを目指します。が、東日本大震災をきっかけに再び北三陸にもどり、地元アイドルとして北三陸復興に奮起する姿が描かれていました。
アキの母親・天野春子を演じたのは「小泉今日子」。そして、劇中ではアイドルの話題など1980年代の様子が多く取り扱われており、懐かしい驚きがいくつもあったものでした。
じぇじぇ。
あれは、あのアイドルの名盤レコード!
じぇじぇじぇ。
あのオーディオは、名機○○!
社会現象ともなった「あまちゃん」。
あの、底抜けに明るいオープニングテーマ曲を思い浮かべながら、今日は「あまちゃん」に登場したオーディオを一緒に見てみましょう!
目次
1.オーディオが登場した回
オーディオが登場したのは、第13週「おら、奈落に落ちる」の第76話。
この回はアキが語り手に回り、物語はアキの母・天野春子の若かりし頃が中心でした。
時は1984年、夏。春子はアイドルになる日を夢見ながら、竹下通りを一本入った場所にあった「純喫茶アイドル」で、時給550円でアルバイトをしていました。マスターの甲斐さんは春子をとても可愛がり、なぜ春子がアイドルになれないのか、と世の中を不思議がっています。
たとえば、店内に「セーラー服を脱がさないで」が流れると、甲斐さんはこう言います。
「6番とか9番とか微妙だろ?歌だって、4番より春ちゃんの方が上手いしさ。まあ……そこそこカワイイんだけどね」
じぇじぇじぇ。
おニャン子6番は樹原亜紀、9番は名越美香……確かに微妙です。そして、4番は新田恵理ですが、彼女は自身のブログでこう言っています。
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そりゃ、確かに上手いとは口が裂けても言えないが…
私のソロは2番だし、私とどっこいどっこいのメンバーは沢山いたぞっ
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そんな優しい顔した辛口マスターが切り盛りしていた純喫茶アイドル。
今回ご紹介したいのは、そんな喫茶店で使われていたオーディオです。
2.登場したプレーヤー
純喫茶アイドルのプレーヤーは、パイオニアが1979年に発売した「PL-70」です。
引用元:オーディオの足跡
パイオニアはスピーカーから始まったブランドながら、かねてよりアナログプレーヤーの分野でも目を見張る活躍をしていました。中でも、1978年発表の超弩級機「P3」は、その優れた性能で高評価を獲得。当時は雲の上の製品(当時の価格は650,000円)として羨望の的となった商品でしたが、今でも素晴しいプレーヤーとして人気があります。
そして、そんな「P-3」の後継機が「PL-70」です。
技術やデザインのイメージを継承し、より一般向けの高級機として発売された「PL-70」。ターンテーブルは、直径31cm、慣性質量480kg-㎠いう重量級。そして、そんな重量級ターンテーブルを駆動するモーターは、2kg-cm起動トルクをもつ、ハイトルク・クォーツPLLDCサーボ・ホールモーター。
さらに特筆すべきは、従来のワウ・フラッターの限界を大幅に超え、桁ちがいの回転精度0.009%以下を実現した「SH・ローーター方式駆動部」と、低域共振を抑え混変調歪みを大幅に低減させた「レベル可変型オイル制動方式」を採用している点です。
1981年には「PL-70LⅡ」が後継機として発表されますが、「PL-70」の方がアーム部などの仕上がりが良かったとの声もあったりするほどで、「PL-70」は今なお根強い人気を誇る機種です。
当時の価格は150,000円でした。
【主要規格】
〈フォノモーター部〉
モーター形式:リニアトルクDCホールモーター
軸受構造:SHローター方式
駆動方式:ダイレクトドライブ
制御方式:クォーツPLL
回転数:33 1/3 45rpm
回転数精度:0.001%
S/N:95dB(DIN-B)
〈トーンアーム部〉
型名:PA-70
型式:可変型オイル制動方式スタティックバランスS字型パイプアーム
〈総合〉
電源:AC100V、50Hz/60Hz
消費電力:9W
外形寸法W550 × H214 × D440 mm
重量:23kg
3.登場したアンプ
純喫茶アイドルのアンプは「Pioneer SA-620」。
引用元:オーディオの足跡
SAシリーズの中では廉価な入門機にあたりますが、充分な機能と確かな音質を確保したモデルです。
抵抗やコンデンサに高精度部品を採用し、レコードの録音特性を忠実に再現。また、イコライザーアンプには低雑音タイプをさらに選別したトランジスタによる2段直結回路を採用し、S/Nの改善を実現しています。
Phono端子は2系統、テープデッキ用の端子も2組搭載。また、2系統のスピーカー端子を搭載しており、それぞれでの駆動や同時駆動が可能。さらに、2台のテープデッキの同時接続が可能です。
発売は1972年。定価は35,500円。
【主要規格】
<パワーアンプ部>
回路方式:差動1段全段直結準コンプリメンタリーOCL方式
高調波歪率:実効出力時:0.5%以下
周波数特性:15Hz~80000Hz +0 -1dB
入力感度/インピーダンス:Power Amp In:500mV/50kΩ
S/N:90dB以上(IHF、ショートサーキットAネットワーク)
<プリアンプ部>
回路方式:
イコライザーアンプ;2段直結NFB型
コントロールアンプ;NFB型
SN比:
Phono;75dB以上
MIC;80dB以上
Tuner、AUX、Tape Mon;90dB以上
〈総合〉
外形寸法:W415 × H132 × D328 mm
重量:7.9kg
消費電力:定格45W 最大110W
4.登場したチューナー
プレーヤー、アンプとパイオニアで揃えていた純喫茶アイドルですが、チューナーだけはパイオニアではないようです。メーカーは1969年に日立製作所の音響ブランドとして誕生した「Lo-d」。読みは「ローディ」です。
型番は1977年発売の、FM/AMチューナー「FT-440」。
引用元:オーディオの足跡
チューニングシグナル2メーター、電子式ミューティング機能、ハイブレンドスイッチを搭載。また、位相特性に特化した2素子3段セラミックフィルターを採用しており、低歪、高セパレーションを実現。さらに、RECレベルチェックスイッチを完備しており(440Hz、FM50%変調)、録音レベルの設定が可能です。
定価は43,800円
【主要規格】
外形寸法:W435 × H166 × D377 mm
重量:7kg
5.登場したレコード
純喫茶アイドルは、その名の通りアイドルが好きな店主が経営する喫茶店です。そして、そんなお店の棚には、3枚のシングル盤レコードが飾られています。
一番右は、「セイントフォー / 不思議TOKYOシンデレラ」。
セイントフォーは、1982年「あなたもスターに!」というダイレクトメール形式のオーディションに応募した3万人の中から、板谷裕三子、浜田範子、鈴木幸恵、岩間沙織の4人が選ばれ、1984年11月にデビュー。アクロバットなど派手なダンスパフォーマンスと、それまでの女性アイドルと一線を画した曲調で注目を浴びた四人組のアイドルグループです。
そして「不思議TOKYOシンデレラ」はセイントフォーのデビュー曲にして、映画「ザ・オーディション」の主題歌です。オリコンチャートは最高35位、売上枚数は53,000万枚。余談ですが、彼女達のプロモーションには40億円かかったとの噂もあります。
中央のレコードは、「松田聖子/ ハートのイヤリング」。
聖子ちゃんの19枚目のシングルで、リリースは1984年11月1日。作曲は「Holland Rose」こと「佐野元春」。この「Hollnad Rose」という名前は、佐野が当時DJを務めていたラジオ番組に、リスナーの小学生が「ホール&オーツ(ダリル・ホール&ジョン・オーツ)」を「ホーランド・ローズ」と書き間違えて投稿してきたのがきっかけと言われています。それにしても、洒落てます。「ホーランド・ローズ」は日本語では「オランダのバラ」。「オランダのチューリップ」より、絶対ステキですよね。
ちなみに、この曲のヒットにより、聖子ちゃんのシングル総売上枚数は1000万枚を突破します。
そして、一番左のレコードは、「クラッシュギャルズ / 炎の聖書」。
この一枚だけ、なぜかリリースが11月ではありません。リリースは8月21日です。そして、アイドルでもありません。女子プロレスラーです。
クラッシュギャルズは、長与千種とライオネス飛鳥が結成したタッグです。デビュー曲「炎の聖書」を皮切りに、1984年から解散する1990年までの間に8枚のシングルを発表しています。しばしばビューティ・ベアと比較されますが、その話題は機会があればいずれ。
いずれにせよ、純喫茶アイドルの一番左のレコードは、クラッシュギャルズの「炎の聖書」でした。
6.まとめ
それにしても、さすがNHKです。
オーディオは全て国産。年代も、設定の1984年より前の製品を導入していて、細部にまで矛盾が生じないよう配慮しています。ひょっとすると全部をパイオニアにしなかったのは、変な噂が立たないように気を遣った結果なのかもしれません。ただ、個人的には、プレーヤーに650,000円の「P3」、アンプに185,000円の「SA-9900」、チューナーに140,000円の「TX-9900」(これが「Lo-d FT-440」と外観がそっくり)と、パイオニアの高級品で揃えて欲しかったですが。
じぇじぇ。
いま気づいたのですが、純喫茶アイドルのスピーカーは何なんでしょう。そう言えば、一度も映りませんでした。ひょっとすると、国産のスピーカーが手配できなかったから、あえて映していないのかもしれませんね。あるいは、パイオニア「S-9500」(1984年発売)を手配したつもりが「S-9500 DV」(1985年発売)で、時代背景に1年そぐわなかったのか。
じぇじぇじぇ。
さらに、たったいま気づきました。
時代設定は1984年夏なのに、飾られていたレコードの二つは11月リリースと秋。あれ?どうしたNHK。全部のオーディオが1984年以前だったのも、実はたまたまだったとか?
いずれにせよ、皆さんのオーディオライフが、「あまちゃん」より甘いスィートなオーディオライフになることを祈っています。