Bluetoothオーディオの選び方
スマートフォンの普及に伴い、Bluetoothオーディオが急速に日本に浸透しつつあります。本当に「Bluetooth」という言葉は非常によく聞くようになりました。しかし、「Bluetooth」と同じくらい耳にする単語「Wi-Fi」とはどのように違うのでしょうか。また、Bluetoothオーディオにはどんな機器があり、どんな魅力があるのでしょうか。今回はBluetoothオーディオとはどんなものなのか、Bluetoothオーディオの魅力に迫りつつ、選び方を解説します。
1.BluetoothとWi-Fi
1-1.BluetoothとWi-Fiの7つの違い
1-1-1.規格の違い
BluetoothもWi-Fiも、どちらとも無線通信規格の一種です。
Bluetoothは、規格名がIEEE 802.15.1です。前記事(「Bluetoothオーディオは音が悪い」の真偽)で触れたように、1994年にエリクソン社のプロジェクトとして始まりました。日本で認知されるようになったのは、およそ2000年代前半からです。それから8回ものバージョンアップを経て、現在はバージョン5.0へと技術進化を遂げています。
一方、Wi-Fiの規格名はIEEE 802.11です。意外にもBluetoothよりもプロジェクトの立ち上がりは遅く、1999年にWireless Ethernet Compatibility Alliance (WECA) という団体名でスタートし、2000年3月から認定業務が開始され、その後Wi-Fiの認知度が高まってきた2002年にWi-Fi Allianceへの改名を経て現在に至ります。
「Wi-Fi」を名乗ることができるのは、このWi-Fi Allianceという団体により認証された製品のみですが、このWi-Fi規格は大まかにわけて6種類あり、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数帯と暗号化方式の組み合わせで分類されています。
1-1-2.通信速度の違い
BluetoothとWi-Fiでは、通信速度が大きく異なります。
Bluetoothの最大通信速度が24Mbpsに対し、Wi-FiはWi-Fi規格11gと11aでも54Mbps、11nなら300Mbps、11acになるとBluetoothのおよそ300倍近くの6900Mbpsという圧倒的な高速度を誇ります。
1-1-3.通信距離の違い
Wi-Fiは100mという長距離でも通信が可能です。
一方、Bluetoothは近距離通信に使用される方式で、その特性から近距離無線通信規格に分類されています。ただ、「Bluetooth機器の通信距離は最大で10m程度」というのは誤った認識です。
Bluetoothは3種類の通信距離が「Class」として規格化されていて、「Class3」は出力1mWで見通し通信距離が1m、「Class2」は出力2.5mWで見通し通信距離が10mです。そして、ほとんどのBluetooth機器は見通し距離10m程度の「Class2」です。そのため、「Bluetoothの最大通信距離は10m」との誤解が生まれているようですが、一部の機種では、出力100mWで見通し距離100mを誇る「Class1」に対応したものもあります。
したがって、利用環境や利用シーンによっては、Bluetoothトランスミッター(送信側)の「Class」にも注意が必要です。気をつけましょう。
1-1-4.安定性の違い
BluetoothもWi-Fiも、狭い空間内において、それ単体での利用であれば電波状況は安定します。
ただ、Bluetoothの周波数は2.4GHz帯です。この周波数帯は電子レンジなどにも採用されているため、同時使用による電波干渉は発生しやすい傾向にあり、その場合、通信が途切れてしまう可能性が高くなります。
一方、Wi-Fiは2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の3種類の帯域を持っているため、環境や状況に応じての周波数の使い分けが可能です。そのため、Bluetoothよりも通信は安定傾向にあり、またインターネット通信にも適していると言えます。
1-1-5.消費電力の違い
無線LAN機器におけるWi-Fi通信は、一般的に電源コンセントからの電力供給のため、あまり消費電力を気にすることはありません。しかし、スマートフォンなどでWi-Fiを利用してインターネットをすると、通信速度が高いメリットはありますが、消費電力が激しく、Wi-Fiを利用しているデバイスのバッテリーが消耗しやすいデメリットがあります。
一方、BluetoothはWi-Fiよりも省電力な方式です。したがって、乾電池やボタン電池で動く機器に適しており、モバイル型にも向いています。
1-1-6.ネットワーク構成における違い
Wi-Fiは、Wi-Fiルーターなどを親機として、複数の子機と接続し、ネットワークを構築することが可能です。
一方、Bluetoothにおいては、1対1の接続が基本です。したがって、Wi-Fiのような複雑なネットワーク環境の構築には不向きです。
1-1-7.接続における複雑さの違い
Wi-Fiには、a、b、g、n、acなどの複数の規格がありますが、異なるのは基本的には通信速度のみです。したがって、対応規格が異なる機器を接続しても、通信速度は遅くなりますが、通信そのものは可能です。
一方、Bluetoothにはプロトコルを標準化したプロファイルというものがあって、接続する機器同士が同じプロファイルに対応していないとその機能自体が利用できなくなります。
1-2.bluetoothとwi-fiの使い分け
上記のように、BluetoothとWi-Fiには大きく7つの違いがあります。
では、BluetoothとWi-Fiはどちらが利便性に優れているのでしょうか。
答えは「ケースバイケース」です。
一見、Wi-Fiの方が通信距離が長い上、通信速度も早いので利便性が高いように映ります。確かに、社内ネットワークをワイヤレスで構築するならWi-Fiを選択すべきでしょう。Wi-Fiルーターを経由すれば複数のデバイスとの接続が可能なので、電波の届く範囲内であればどこへでもデバイスの持ち運びが可能だからです。
一方、Bluetoothはネットワーク構築には不向きです。通信距離も短く、通信速度も遅い上、接続は1対1が基本だからです。
しかし、Bluetooth対応1つの機器を、近距離にあるもう1つの対応機器に接続するなら、Bluetoothは非常に適任です。また、Wi-Fiとは異なり消費電力が少ないので、ワイヤレスで長時間使用する環境にも最適です。
2.Bluetoothスピーカー
2-1.Bluetoothスピーカーのメリット
オーディオの楽しみの一つに、「いかにケーブル類をスッキリまとめ、美しい配線へと仕上げるか」があります。絶縁テープやビニールテープ、結束バンドなどを使い、多くの方がどうにかして、ゴチャゴチャした配線を自分なりに整えていることでしょう。
しかし、Bluetoothスピーカーなら、その配線問題に対し完璧な解決がもたらされます。なぜなら、Bluetoothスピーカーは無線通信技術ですから、コード類が一切不要になるからです。
また、消費電力が少ないことから、充電式や電池型のBluetoothスピーカーも多く発売されており、今まででは考えられなかったシーンでの音楽鑑賞も可能になりました。例えば、多くのBluetoothスピーカーは電源が不要なので、屋外への持ち出しはもちろん、防水型のBluetoothスピーカーならお風呂でも音楽が楽しめます。
さらに、ペアリングと呼ばれる接続方法も簡単です。
実は、Bluetoothスピーカーを選択するメリットは非常に多いのです。
2-2.Bluetoothスピーカーのデメリット
Bluetoothスピーカーを採用すれば、コード類が邪魔に感じることがなくなるというメリットはありますが、一方でデメリットも存在します。
最大のデメリットは、機器同士をあまり離して設置できないことです。
Bluetoothは近距離通信に特化した技術です。そのため、基本的には機器同士を遠くに離して使うことは考えられていません。「Class1」という最大100mまで通信可能な規格もありますが、現在市販されているBluetooth機器は、ほとんどが10m範囲内で使用を前提にしています。
また、距離が離れるほど接続が弱まり、途切れやすくなるというデメリットもあります。例えば、スマートフォンとBluetoothスピーカーを接続している最中、スマホを持って部屋から出ると接続が途切れることもあります。
さらに、障害物に弱い傾向もあります。Bluetoothの電波は直線的に機器間を飛びます。そのため、機器間に障害物があると接続がとぎれてしまいます。
その干渉度は障害物の材質によって変わり、金属類は非常に干渉度合いが高く、次いでコンクリートや強化ガラス、中程度の干渉度合いとしては水や大理石や土壁、若干程度の干渉度合いが木材やガラスです。
いずれにせよ、Bluetoothスピーカーを利用する際には、障害物がない環境での利用がお勧めです。
2-3.Bluetoothスピーカーの選び方
2-3-1.対応コーデックで選ぶ
Bluetoothで音データをワイヤレス伝送する際、データは圧縮されて伝送されます。そして、その圧縮規格がコーデックと呼ばれるもので、音質の良し悪しに非常に大きく影響します。
主なコーデックは4種類「SBC」「AAC」「aptX」「LDAC」です。
SBCは、Bluetoothの標準音声圧縮規格です。主な目的がデータの軽量化につき、以前は音質の劣化が目立ったコーデックです。
AACは、主にiPhoneなどのapple社製品に採用されているオーディオ用圧縮規格です。SBCよりは遥かに高音質です。
aptXは、アンドロイドスマホで採用されていることが多いコーデックです。AACよりも高音質と言われています。
そして、LDACは、ハイレゾ音源を扱うための高音質特化規格です。
Bluetoothスピーカーを選ぶ際には、これらコーデックのどれに対応しているかが非常に重要です。
しかし、コーデックは送信側(プレーヤー)と受信側(スピーカー)の両方で対応していなければ使えません。ですから、いくら送信側にてAACで伝送しても、スピーカーがAACに対応していなければ意味はありません。お手持ちのプレーヤーがどのコーデックに対応しているかは予め調べておきましょう。
ちなみに、BluetoothスピーカーではSBCは標準搭載されています。したがって、Bluetoothの接続が可能なら、最低でもSBCでの伝送は必ずできます。
また、SBCコーデックは音質が悪いと言われていますが、それは昔の機器での話です。
確かに、音質はビットレートが同じ場合には、コーデックの性能差が音質の差となって現れます。しかし、音質重視の最新Bluetoothスピーカーにおいては、データ転送量を調整する値「BitPool」が最高のBitPool 53(328kbps)に対応していて、例えSBCでも、AACに比べて明らかに音質が劣る印象は抱かないようになりました。
とはいえ、やはり音質のよいAAC、apt-X、あるいはハイレゾ対応のLDACがお勧めであることに違いはありません。
2-3-2.NFC対応の有無で選ぶ
NFCとは「Near Field Communication」の略で、国際標準規格の近距離無線通信技術です。無線通信が可能な点はBluetoothやWi-Fiと同様ですが、通信距離はおよそ10cm程度と、超近距離にて無線通信を行うための規格です。
Bluetoothと似ていますが、NFCはBluetoothよりも通信速度が遅く(最大424kbps)、通信可能距離が短い(1m程度まで)という特徴があります。
しかし、ワンタッチで機器認証が可能です。
Bluetooth対応の機器同士を接続する際には、パスキーを入力してペアリングという作業が必要になります。これは非常に簡単な接続方法なのですが、NFC対応ならその接続をさらに単純化できます。機器同士をタッチするだけでペアリングが完了できるのです。つまりパスキー入力の手間が省けるわけです。
NFCに期待されているのは、「ハンドオーバー」です。
ハンドオーバーとは、ペアリングと認証だけをNFCで行い、通信はWi-FiやBluetooth等の高速な規格に引き継ぐことです。複数の機器との接続、切断を行う際には非常に便利なので、今後ますます普及していくと思われます。
2-3-3.内蔵アンプの出力数で選ぶ
Bluetoothスピーカーは、基本的にはアンプが内蔵されています。そして、その音質は、コーデックはもちろん大きな影響を及ぼしますが、当然スピーカーの質、Bluetoothスピーカーにおいては特にアンプ機能の性能によっても大きく変わります。一般的には、スピーカーボックスの容積が大きく、アンプの出力が大きいほど高音質です。
高音質モデルの目安は、アンプ出力が合計10W以上の製品です。
一方、音楽さえ聴ければ良いと言う方は、3W程度あれば充分に音楽は楽しめます。
2-3-4.利用シーンで選ぶ
スマートフォンやデジタルオーディオプレーヤーの高性能化に伴い、音楽を楽しむシーンは非常に多様化しています。自宅環境はもちろん、歩行や自転車、電車による通勤時間などの移動中、あるいはキャンプやパーティーなどで仲間と音楽をシェアするなど、屋外でも音楽は手軽に楽しまれるようになりました。
そしてそれを受け、今、Bluetoothスピーカーは様々な製品がリリースされています。
従来のように音質を重視するモデルもあれば、コンパクトでバッテリー駆動のモバイルタイプも登場しています。さらに、バスルームやキッチンなど水回りでも聴けるような防水モデルも販売されています。
Bluetoothスピーカーは省電力で稼働することが特徴であり、電源に必ずしも接続しなくても利用できます。したがって、音楽は手軽にどこでも楽しめるようになりました。自分がどんな場所で使いたいのか。それを前もって把握しておけば、Bluetoothスピーカーはとても選びやすくなるでしょう。
2-3-5.バッテリーの持続時間で選ぶ
Bluetoothスピーカーは利用シーンを選ばないのが特徴です。ですから、屋外やバスルームなど、電源が使えないところでの利用も考えられる訳ですが、その場合はバッテリーの持続時間をチェックすることが大切です。特に、外出先に持っていくケースを想定している場合には、バッテリーの持続時間が長時間のモデルを選ぶとよいでしょう。
ただし、数あるBluetoothスピーカーの中には、アンプの消費電力を抑えて節電しているモデルもあります。アンプは音質に直結します。音にこだわりたい方は、バッテリーの持続時間とアンプの出力とのバランスへも配慮するようにしましょう。
2-3-6.入力の多様さで選ぶ
Bluetoothスピーカーは、基本的には無線環境で使用しますが、中には有線対応しているモデルもあります。屋外シーンではワイヤレス、屋内シーンでは有線と、Bluetoothスピーカーは使用環境により使い分けることもできます。
一般的なアナログ入力以外にも、ノイズがほとんどない光デジタル入力にも対応するBluetoothスピーカーもあります。据え置きスピーカーとしての利用も検討している方は、入力方式も確認しましょう。
2-3-7.デザインで選ぶ
モバイル型のBluetoothスピーカーは、コンパクトで気軽に持ち運べることもあって、ファッションアイテムとしての位置づけが確立しつつあります。そこでオーディオメーカー各社も、音質は当然ですが、スタイリッシュなデザインや鮮やかなカラーリングなどを用いてデザインにも非常にこだわり始めました。
キャンプやパーティーでの使用は、多くの人にも見られます。
自分らしいデザインを選ぶことも、重要なBluetoothスピーカーの選び方の一つです。
3.Bluetoothレコードプレーヤー
今、世界的にアナログレコードが人気です。CDの台頭後はさながら骨董品扱いされ、平成に入るとレコード生産をやめるレコード会社が急増。新作はリリースされなくなり、以後はクラブなどでDJが使用するか、CDに馴染めないレコード世代が中古ショップで買う程度でした。が、ここ数年でアナログレコードの売り上げは大幅に増加。最近では人気アーティストがレコード盤をリリースすることも珍しくなく、CDで育った若い世代でもアナログの魅力に虜になっている人も多いようです。
そんなアナログプレーヤーも、Bluetooth対応モデルが登場し、Bluetoothスピーカーへのワイヤレス接続が可能になりました。
電源入れ、Bluetoothボタンを押し、スピーカーをペアリング状態にしておけば接続は完了です。後はレコードをセットしてリフトアームをアナログ盤へ下ろせば、ワイヤレススピーカーからアナログサウンドが流れてきます。
さらに、USB経由でPCと接続し、アナログレコードの音源をデジタル録音することも可能な機種も多くあります。
アナログをデジタル機器で楽しむ。
今、オーディオは大きく変わろうとしています。
4.まとめ
BluetoothとWi-Fiは、両者とも同じ無線通信規格ですが、相違点がいくつかあります。Bluetoothと比較して、Wi-Fiの方が通信速度は速く、通信距離も長い傾向にあります。また、周波数帯も多くあります。しかし、それゆえにバッテリーの持続時間はBluetoothに比べると非常に短い傾向にあります。そのため、比較的近距離で接続するオーディオには、Bluetoothが浸透して来たという経緯があります。
ただ、Bluetoothオーディオは音源データを一度圧縮するため、そのコーデックにより音質は非常に変わります。したがって、以前はデータの軽量化が主な目的だったSBCコーデックがほとんどだったこともあり、音質は良くありませんした。が、今では様々なコーデックも開発され、ハイレゾ対応のものまで存在します。そればかりか、BitPool 53(328kbps)にも対応するモデルも発売され、SBCコーデックでも高音質な音楽が楽しめるような技術進化が認められます。
Bluetoothだから低音質。それは最早昔話です。これからはワイヤレスで音楽を楽しむシーンが今以上に多くなることでしょう。
しかし、一言で「Bluetoothオーディオ」と言っても、その種類は多くあります。特にBluetoothスピーカーは、色々な製品がリリースされています。
選ぶ際には、「対応コーデック」「NFC対応の有無」「内蔵アンプの出力数」「主な利用シーン」「バッテリーの持続時間」「入力の多様さ」「デザイン」などを、選択基準を明確にして購入するようにしましょう。
近頃は何でもワイヤレスでつながる時代になり、オーディオの世界でもその波は押し寄せています。特にBluetoothヘッドホンやBluetoothスピーカーは技術の進歩が素晴しく、「ワイヤレスは音質が下がる」というのは過去の話と言われています。
しかし、それは本当なのでしょうか。
「利便性」という観点で言えば、Bluetoothは非常に優れています。スマートフォンとの愛称は抜群です。ただ、「音質」という側面から検討してみると、どうしてもその能力には懐疑的になってしまいます。
そこで今回は、Bluetoothについて徹底調査。Bluetoothがどのように生まれ、最新のBluetoothはどうなのか。音質の善悪も含めご紹介いたします。
目次
- Bluetoothの概要
- Bluetoothの名称由来
2-1.名付け親はエリクソン社
2-2.モチーフはデンマーク王「ハーラル・ブロタン・ゴームソン」
2-3.ロゴデザインのデザインコンセプト - Bluetoothの歴史
3-1.沿革
3-2.バージョン - Bluetoothの「プロファイル」
4-1.プロファイルとは
4-2.代表的なプロファイル - Bluetoothの「コーデック」
5-1.「Bluetoothは低音質」と言われた理由
5-2.高音質のコーデック - まとめ
1.Bluetoothの概要
Bluetooth®(ブルートゥース)はデジタル機器用の近距離無線通信規格の1つです。Bluetooth Basic Rate/Enhanced Data Rate (BR/EDR) と Bluetooth Low Energy (LE) から構成されています。
使用する周波数チャンネルは、2.4GHz帯。スマホやパソコン関連機器、あるいはイヤホンやスピーカーなどを中心に、色々な製品で採用されています。
特に近年では、Bluetoothのイヤホンは非常に街中で見かけるようになりました。スマホで流れている音楽をケーブルなしで聴くこともできますし、Bluetoothを使えばバッグの中でイヤホンが絡まるということもなくなる、というのが普及の理由でしょう。
運転中の通話でも、Bluetoothは高い人気を誇ります。ハンズフリー通話であれば、携帯電話使用等違反に問われません。そのため、非常に手軽に使うことができるBluetoothのイヤホンマイクがとても人気です。
その他にも、ノートパソコンなどのPCのマウスやキーボードをはじめ、携帯電話、PHS、スマートフォン、タブレットにおける文字情報や音声情報など、どちらかといえば低速度のデジタル情報の無線通信を行う用途に採用されています。
2.Bluetoothの名称由来
Bluetoothは、直訳すれば「青い歯」です。
では、なぜ青い歯なのでしょう?そして、Bluetoothのあのロゴマークは、何をモチーフにしているのでしょう。
この章では、Bluetoothの名称・ロゴの由来を紹介します。
2-1.名付け親はエリクソン社
「Bluetooth」の名付けの親は、スウェーデンのエリクソン社(Telefonaktiebolaget LM Ericsson)の技術者です。スウェーデンのストックホルムに本社を構える通信機器メーカーで、世界最大の移動体通信(携帯電話)地上固定設備のメーカーとして有名な企業です。
世界17カ国で約2万人の技術者たちが研究開発に取り組んでおり、年間研究開発費は売上高の約15%を占めると言われている同社。特にGSMは世界の携帯電話の80%以上に採用され、事実上、無線通信方式の世界標準技術です。
日本にも「エリクソン・ジャパン株式会社」という日本法人があり、主にソフトバンクモバイルとイー・モバイルに地上固定設備を提供しています。そうした事情もあって、エリクソン・ジャパン株式会社は2012年度シーズン以降、福岡ソフトバンクホークスとヘルメットスポンサー契約を結んでいます。
2-2.モチーフはデンマーク王「ハーラル・ブロタン・ゴームソン」
ハーラル・ブロタン・ゴームソン (Harald Blåtand Gormsen / Haraldr blátǫnn Gormsson)は、初めてノルウェーとデンマークを交渉により無血統合し、文化の橋渡しをしたデンマーク王です。1140年頃までの間にラテン語で書かれた年代記『ロスキレ年代記(Chronicon Roskildense)』に、「青歯(デンマーク語: Blåtand、英語: Bluetooth)」とのあだ名表記があることから、青歯王と呼ばれるようになった経緯があります。
世界遺産「イェリング墳墓群」には、ハーラルによるデンマークの統一の功績を記したルーン石碑があります。そして、エリクソン社の技術者はその功績にちなみ、「産業やデバイスの違いにとらわれず、様々な分野において共通して使える無線通信規格になりますように」との想いから、ブロタン(Blåtand)の英語音訳である「Bluetooth」という名前をつけました。
2-3.ロゴデザインのデザインコンセプト
Bluetoothのロゴマークは青い歯がモチーフではなく、ハーラル・ブロタンのイニシャル「HB」があしらわれています。
ハーラルの功績をたたえるルーン石碑には、ルーン文字でハーラルのイニシャル「HB」の記載があります。そして、ルーン文字のHは*に似たカタチ、BはおおよそBなのですが、その二つを組み合わせたものがBluetoothのロゴマークとして採用されました。
3.Bluetoothの歴史
3-1.沿革
エリクソン社内のプロジェクトとして開発が始まったのは1994年。それから4年後の1998年に、エリクソン、インテル、IBM、ノキア、東芝の5社(プロモーター企業)によって「Bluetooth」は策定されました。
その後、マイクロソフト、モトローラ、3COM、ルーセント・テクノロジーの4社がプロモーター企業として加わりますが、現在は3COM、ルーセント・テクノロジーの2社が脱退し、アップル、およびNordic Semiconductorが加わって、計9社がプロモーター企業です。
3-2.バージョン
3-2-1.沿革
1999年、Bluetooth仕様書バージョン1.0が発表され、2001年にバージョン1.1が発表されます。
バージョン1.1は普及バージョンで、日本でBluetoothが普及し始めた2003年にバージョン1.2が登場。2.4GHz帯域の無線LAN(11g/b)との干渉対策が施されました。
バージョン2.0が発表されたのは2004年。Enhanced Data Rate (EDR) が追加され、EDR対応ならバージョン1.2のおよそ3倍のデータ転送速度が可能になりました。そして、さらに2007年にはバージョン2.1が発表され、ペアリングが簡略化された上、バッテリー寿命を最大5倍延長できるSniff Subrating機能が追加されました。
バージョン3.0が公開されたのは2009年。Protocol Adaptation Layer (PAL) とGeneric Alternate MAC/PHY (AMP) によって無線LAN規格IEEE 802.11のMAC/PHY層の利用が可能となり、最大通信速度が24MbpsのHigh Speed (HS) がオプションで追加できるようになりました。また、電力管理機能が強化され、省電力性も向上しています。
バージョン4.0が公開されたのは、バージョン3.0公開の約8ヶ月後でした。従来からの Bluetooth Basic Rate/Enhanced Data Rate (BR/EDR) に加え、BR/EDRと比較して大幅に省電力化を実現したBluetooth Low Energy (LE) が追加されました。
そして、2013年にはバージョン4.1が発表され、バージョン4.0の高機能化を実現。自動再接続やLTEとBluetooth機器間での通信干渉が抑制できるようなり、翌2014年発表のバージョン4.2ではセキュリティの強化と転送速度の高速化が図られました。
現在(2018年3月時点)における最新バージョンは5.0です。公開はバージョン4.0から7年も経過した2016年12月のことでした。4.0世代である程度完成されたと思われたBluetooth規格でしたが、バージョン5.0は4.0よりデータ転送速度が2倍になり、通信範囲も4倍に拡大されました。しかし、5.0はまだそれほど普及しておらず、バージョン4世代が主流という現状です。
3-2-2.バージョン3.0と4.0の互換性
バージョン4.0で追加されたBluetooth Low Energy(BLE)は、4.0以降の機器同士でないと使えません。そのため、3.0と4.0は互換性がないと言われていますが、機器によっては利用が可能です。というのも、4.0対応の機器には「BLE通信」と「3.0以前の通信方式」を兼ね揃えているものがあります。
判別はロゴにより行います。
Bluetoothのロゴの下に何の表記もないものが、バージョン3.0以前の通信方式のみを表します。
ロゴの下に「SMART」の記載があれば、それはBLE通信のみが可能であることを意味し、バージョン4.0のみの接続となります。
そして、ロゴの下に「SMART READY」とあれば、それはBLE通信方式とBluetooth3.0以前の通信方式の両方が利用できます。つまり、「SMART READY」の表記があれば、どのBluetoothでも通信が可能となります。仮にお手持ちの機器が下位バージョンであるなら、互換性を考えて「Bluetooth SMART READY」のロゴ入り製品を選びましょう。
4.Bluetoothの「プロファイル」
4-1.プロファイルとは
Bluetoothは様々なデバイスでの通信に使用されます。そのため、機器の種類ごとに策定されたプロトコルがあり、それらの使用方法を標準化する必要があります。そして、その機能や使用を規格化したものが「プロファイル (Profile)」と呼ばれ、通信機器同士が同じプロファイルを持っている場合のみ、その機能を利用した通信が可能になります。つまり、Bluetooth対応機種でも利用する機器双方が適切なプロファイルに対応していなければ通信はできません。
4-2.代表的なプロファイル
Bluetooth BR/EDR 向けのプロファイルは、現在使われているもので30種類あります。その中でも代表的なものは次の通りです。
4-2-1.GAP (Generic Access Profile)
他の全てのプロファイルの基礎として機能するプロファイルであり、A2DP(オーディオストリーミング再生機能)とVDP(ビデオストリーミング再生機能)のベースとして利用されています。機器の接続や認証、暗号化などを行います。
4-2-2.GAVDP (Generic Audio/Video Distribution Profile)
ビデオストリームやオーディオストリームを配信するためのもので、一般オーディオ/ビデオ配信プロファイルです。GAPと同様、A2DPとVDPの基礎技術として使われています。
4-2-3.A2DP (Advanced Audio Distribution Profile)
オーディオストリーミング再生機能であり、Bluetoothオーディオの最も基本的な仕組みのプロファイルです。
モノラルあるいはステレオの音声データを、ACLチャンネル上に高品質にストリーミング配信するための手順や、使用する他のBluetoothプロファイル・Bluetoothプロトコルなどが定義されています(ただし、サラウンドサウンドの配信については定義の範囲外)。
このA2DPでは、伝送に必要なカプセリング化方式のみが規定されています。したがって、ペイロードとなる音声の圧縮に使用するコーデックは自由に規定することができ、SBC(圧縮方式の一つ。Sub-Band Codec)は必須とするものの、幅広いコーデックが利用可能です。実際、今まで製品に実装されたコーデックは数多く、有名なものだけでも、MP3オーディオ、AAC(MPEG-2/4 AAC)、ATRAC、aptX、LDACなどがあります。
ヘッドホンやスピーカーなどで最も重要なプロファイルの一つです。
4-2-4.AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)
機器によって対応範囲はそれぞれですが、ボリューム・再生・停止・スキップなど、操作対象デバイスをリモコンからリモート操作するためのプロファイルです。AVRCP バージョン1.3以降は、アーティスト名やアルバム名などの情報も転送が可能になりました。
AVRCPでは、操作内容を送信する側を「CT」、操作内容を受信する側を「TG」と定義し、TGをリモートコントロールするための手順、および使用する他のBluetoothプロファイル・Bluetoothプロトコルなどが定義されています。
ただ、AVRCPの動作は、デジタルオーディオプレイヤーのリモートコントロールによる「操作内容の配信」のみです。オーディオ・ビデオファイルのストリーミングはこのプロファイルの定義範囲に含まれません。
4-2-5.VDP (Video Distribution Profile)
ビデオストリーミング再生に関わるプロファイルです。モニタ間などにおいて、ビデオデータをストリーミング配信します。
4-2-6.HSP (Headset Profile)
音声通話に必要最小限の機能を持ち、マイクとモノラル音声の双方向通信をサポートするプロファイルです。ただし、イヤホンやヘッドホンを、携帯電話やスマホのヘッドセットとして利用するには「HSP(Hands-Free Profileの略。ハンズフリー機能)」への対応が必要です。
4-2-7.HFP (Hands-Free Profile)
主に自動車内でのハンズフリー通話や機器の操作等の機能を持つプロファイルです。発信や着信操作を行うにはこの「HFP」に加え「HSP」への対応も必要ですが、現在のヘッドセットのほとんどはHSPとHFPの両方に対応しています。
5.Bluetoothの「コーデック」
5-1.「Bluetoothは低音質」と言われた理由
Bluetoothオーディオが出始めた頃は、「A2DP」で対応が必須の「SBC」という圧縮方式が主流でした。このコーデックはデータ転送レートを抑えて通信の安定性を優先したため、多くの場合、音声信号の圧縮率が高めに設定されています。
BluetoothにおいてSBCは搭載必須の標準コーデックですから、どうしても「Bluetoothオーディオの音源はすべて高圧縮」という話になり、「Bluetoothは低音質」との定説が出来上がってしまいました。
しかしそればかりではありません。
基本的にコーデックが同じ場合、ビットレートが高い方が高音質になります。反対に、ビットレートが同じ場合、コーデックの性能が音質の差となって現れます。そして、コーデックの音質序列は、高い順に「aptX」「AAC」「SBC」と言われていますが、SBCがAACやaptXに比べて低音質と言われるのは、過去においてビットレートが低い時代が長かったことによります。
ちなみに、SBCにはデータ転送量を調整する値「BitPool」というものがあり、音質重視の最新Bluetoothオーディオには、ほとんどがその最高のBitPool 53(328kbps)に対応しています。もちろんコーデックによる音質差はありますが、BitPool 53ならAACに比べて大きく劣る印象は抱かない人が多数です。一概に「SBCは低音質」という時代は過去の話であり、今のBluetoothは決して音質が悪いオーディオではありません。
5-2.高音質のコーデック
Bluetoothもバージョンアップを重ね、通信安定性は飛躍的に向上しました。また、メーカーの実装ノウハウも蓄積され、データ転送レートを充分に確保した低圧縮率での利用も可能になりました。
もともとBluetoothオーディオにおいて最も重要なプロファイル「A2DP」は、SBC対応を必須としていましたが、コーデックは自由に規定することができる仕様でした。そのため、今ではより高音質な圧縮方式「AAC」や「aptX」などに対応した機器も増えてきており、Bluetoothオーディオは新しい局面に移行しようとしています。
5-2-1.AAC
AACは「Advanced Audio Coding」の略で、不可逆式の圧縮方式です。MP3の後継フォーマットとして策定されました。一般的に、同じ程度のビットレートなら、AACはMP3より高音質と言われています。
一方、AACはSBCと同じくらいの高圧縮を行いますが、SBCとは圧縮の仕方が大きく異なります。AACはMP3と同様、人間が聞こえないと言われている帯域の周波数を間引いてデータを圧縮しています。ですから、同程度のビットレートならAACの方が高音質に聞こえるというわけです。
AACはiTunesのデフォルト圧縮方式にも採用されており、実績も十分な方式です。
5-2-2.aptX
aptX(当初は「apt-X」と表記しましたが、2010年に「aptX」へと改められました)は、1980年代に英国クイーンズ大学ベルファストにてそのアルゴリズムが開発され、ケンブリッジに本拠地を置くCSR社によって、当初は放送業界向け、その後 にBluetoothオーディオ向けに実用化された圧縮方式です。高音質だと評判も高く、近年急速に対応機器が増えています。
aptXは、AACのように聞こえない音を間引くのではなく、高度な計算により、元のデータを固定的に1/4に圧縮します。当然SBCやAACと比較すれば、圧縮効率が低くなる分ビットレートは高くなり、元データに遜色のない高音質が再現できます。
さらに、レイテンシ(遅延時間)がSBCやAACよりも短い特徴も兼ね揃えています。
5-2-3.LDAC
Bluetoothで最大96kHz/24bitのハイレゾ音楽データが扱えるコーデック「LDAC」は、ソニーが開発した最新コーデックです。最大ビットレート990kbpsはBluetoothの最大スループットに近いため、電波状況によっては音切れが起こることもあるが、いま最もハイレゾに近い存在です。
ただ、LDAC対応オーディオには、圧縮を行うため日本オーディオ協会が定めるハイレゾロゴは適用されません。
6.まとめ
Bluetoothオーディオの音質が悪いというのは、もはや昔の話です。確かに出始めの頃は音質が低かった頃もありましたが、最近は非常に音質も向上しています。
ただし、ここ十年ほどの技術なので購入時にはいくつかの注意が必要です。特にバージョンには留意しましょう。互換性の問題があります。使用する機器がいくつに対応しているのかは、必ずしっかりと確認しましょう。
オーディオは新時代に突入する様相が濃くなってきました。
古いものを大切にしつつ新しいものを取り入れて、より豊潤なオーディオライフが訪れますことを心より祈っています。