「Bluetoothオーディオは音が悪い」の真偽

「Bluetoothオーディオは音が悪い」の真偽

近頃は何でもワイヤレスでつながる時代になり、オーディオの世界でもその波は押し寄せています。特にBluetoothヘッドホンやBluetoothスピーカーは技術の進歩が素晴しく、「ワイヤレスは音質が下がる」というのは過去の話と言われています。

しかし、それは本当なのでしょうか。

「利便性」という観点で言えば、Bluetoothは非常に優れています。スマートフォンとの愛称は抜群です。ただ、「音質」という側面から検討してみると、どうしてもその能力には懐疑的になってしまいます。

そこで今回は、Bluetoothについて徹底調査。Bluetoothがどのように生まれ、最新のBluetoothはどうなのか。音質の善悪も含めご紹介いたします。

目次

  1. Bluetoothの概要
  2. Bluetoothの名称由来
    2-1.名付け親はエリクソン社
    2-2.モチーフはデンマーク王「ハーラル・ブロタン・ゴームソン」
    2-3.ロゴデザインのデザインコンセプト
  3. Bluetoothの歴史
    3-1.沿革
    3-2.バージョン
  4. Bluetoothの「プロファイル」
    4-1.プロファイルとは
    4-2.代表的なプロファイル
  5. Bluetoothの「コーデック」
    5-1.「Bluetoothは低音質」と言われた理由
    5-2.高音質のコーデック
  6. まとめ

1.Bluetoothの概要

Bluetooth®(ブルートゥース)はデジタル機器用の近距離無線通信規格の1つです。Bluetooth Basic Rate/Enhanced Data Rate (BR/EDR) と Bluetooth Low Energy (LE) から構成されています。

使用する周波数チャンネルは、2.4GHz帯。スマホやパソコン関連機器、あるいはイヤホンやスピーカーなどを中心に、色々な製品で採用されています。

特に近年では、Bluetoothのイヤホンは非常に街中で見かけるようになりました。スマホで流れている音楽をケーブルなしで聴くこともできますし、Bluetoothを使えばバッグの中でイヤホンが絡まるということもなくなる、というのが普及の理由でしょう。

運転中の通話でも、Bluetoothは高い人気を誇ります。ハンズフリー通話であれば、携帯電話使用等違反に問われません。そのため、非常に手軽に使うことができるBluetoothのイヤホンマイクがとても人気です。

その他にも、ノートパソコンなどのPCのマウスやキーボードをはじめ、携帯電話、PHS、スマートフォン、タブレットにおける文字情報や音声情報など、どちらかといえば低速度のデジタル情報の無線通信を行う用途に採用されています。

2.Bluetoothの名称由来

Bluetoothは、直訳すれば「青い歯」です。
では、なぜ青い歯なのでしょう?そして、Bluetoothのあのロゴマークは、何をモチーフにしているのでしょう。

この章では、Bluetoothの名称・ロゴの由来を紹介します。

2-1.名付け親はエリクソン社

「Bluetooth」の名付けの親は、スウェーデンのエリクソン社(Telefonaktiebolaget LM Ericsson)の技術者です。スウェーデンのストックホルムに本社を構える通信機器メーカーで、世界最大の移動体通信(携帯電話)地上固定設備のメーカーとして有名な企業です。

世界17カ国で約2万人の技術者たちが研究開発に取り組んでおり、年間研究開発費は売上高の約15%を占めると言われている同社。特にGSMは世界の携帯電話の80%以上に採用され、事実上、無線通信方式の世界標準技術です。

日本にも「エリクソン・ジャパン株式会社」という日本法人があり、主にソフトバンクモバイルとイー・モバイルに地上固定設備を提供しています。そうした事情もあって、エリクソン・ジャパン株式会社は2012年度シーズン以降、福岡ソフトバンクホークスとヘルメットスポンサー契約を結んでいます。

2-2.モチーフはデンマーク王「ハーラル・ブロタン・ゴームソン」

ハーラル・ブロタン・ゴームソン (Harald Blåtand Gormsen / Haraldr blátǫnn Gormsson)は、初めてノルウェーとデンマークを交渉により無血統合し、文化の橋渡しをしたデンマーク王です。1140年頃までの間にラテン語で書かれた年代記『ロスキレ年代記(Chronicon Roskildense)』に、「青歯(デンマーク語: Blåtand、英語: Bluetooth)」とのあだ名表記があることから、青歯王と呼ばれるようになった経緯があります。

世界遺産「イェリング墳墓群」には、ハーラルによるデンマークの統一の功績を記したルーン石碑があります。そして、エリクソン社の技術者はその功績にちなみ、「産業やデバイスの違いにとらわれず、様々な分野において共通して使える無線通信規格になりますように」との想いから、ブロタン(Blåtand)の英語音訳である「Bluetooth」という名前をつけました。

2-3.ロゴデザインのデザインコンセプト

Bluetoothのロゴマークは青い歯がモチーフではなく、ハーラル・ブロタンのイニシャル「HB」があしらわれています。

ハーラルの功績をたたえるルーン石碑には、ルーン文字でハーラルのイニシャル「HB」の記載があります。そして、ルーン文字のHは*に似たカタチ、BはおおよそBなのですが、その二つを組み合わせたものがBluetoothのロゴマークとして採用されました。

3.Bluetoothの歴史

3-1.沿革

エリクソン社内のプロジェクトとして開発が始まったのは1994年。それから4年後の1998年に、エリクソン、インテル、IBM、ノキア、東芝の5社(プロモーター企業)によって「Bluetooth」は策定されました。

その後、マイクロソフト、モトローラ、3COM、ルーセント・テクノロジーの4社がプロモーター企業として加わりますが、現在は3COM、ルーセント・テクノロジーの2社が脱退し、アップル、およびNordic Semiconductorが加わって、計9社がプロモーター企業です。

3-2.バージョン

3-2-1.沿革

1999年、Bluetooth仕様書バージョン1.0が発表され、2001年にバージョン1.1が発表されます。
バージョン1.1は普及バージョンで、日本でBluetoothが普及し始めた2003年にバージョン1.2が登場。2.4GHz帯域の無線LAN(11g/b)との干渉対策が施されました。

バージョン2.0が発表されたのは2004年。Enhanced Data Rate (EDR) が追加され、EDR対応ならバージョン1.2のおよそ3倍のデータ転送速度が可能になりました。そして、さらに2007年にはバージョン2.1が発表され、ペアリングが簡略化された上、バッテリー寿命を最大5倍延長できるSniff Subrating機能が追加されました。

バージョン3.0が公開されたのは2009年。Protocol Adaptation Layer (PAL) とGeneric Alternate MAC/PHY (AMP) によって無線LAN規格IEEE 802.11のMAC/PHY層の利用が可能となり、最大通信速度が24MbpsのHigh Speed (HS) がオプションで追加できるようになりました。また、電力管理機能が強化され、省電力性も向上しています。

バージョン4.0が公開されたのは、バージョン3.0公開の約8ヶ月後でした。従来からの Bluetooth Basic Rate/Enhanced Data Rate (BR/EDR) に加え、BR/EDRと比較して大幅に省電力化を実現したBluetooth Low Energy (LE) が追加されました。

そして、2013年にはバージョン4.1が発表され、バージョン4.0の高機能化を実現。自動再接続やLTEとBluetooth機器間での通信干渉が抑制できるようなり、翌2014年発表のバージョン4.2ではセキュリティの強化と転送速度の高速化が図られました。

現在(2018年3月時点)における最新バージョンは5.0です。公開はバージョン4.0から7年も経過した2016年12月のことでした。4.0世代である程度完成されたと思われたBluetooth規格でしたが、バージョン5.0は4.0よりデータ転送速度が2倍になり、通信範囲も4倍に拡大されました。しかし、5.0はまだそれほど普及しておらず、バージョン4世代が主流という現状です。

3-2-2.バージョン3.0と4.0の互換性

バージョン4.0で追加されたBluetooth Low Energy(BLE)は、4.0以降の機器同士でないと使えません。そのため、3.0と4.0は互換性がないと言われていますが、機器によっては利用が可能です。というのも、4.0対応の機器には「BLE通信」と「3.0以前の通信方式」を兼ね揃えているものがあります。

判別はロゴにより行います。

Bluetoothのロゴの下に何の表記もないものが、バージョン3.0以前の通信方式のみを表します。

ロゴの下に「SMART」の記載があれば、それはBLE通信のみが可能であることを意味し、バージョン4.0のみの接続となります。

そして、ロゴの下に「SMART READY」とあれば、それはBLE通信方式とBluetooth3.0以前の通信方式の両方が利用できます。つまり、「SMART READY」の表記があれば、どのBluetoothでも通信が可能となります。仮にお手持ちの機器が下位バージョンであるなら、互換性を考えて「Bluetooth SMART READY」のロゴ入り製品を選びましょう。

4.Bluetoothの「プロファイル」

4-1.プロファイルとは

Bluetoothは様々なデバイスでの通信に使用されます。そのため、機器の種類ごとに策定されたプロトコルがあり、それらの使用方法を標準化する必要があります。そして、その機能や使用を規格化したものが「プロファイル (Profile)」と呼ばれ、通信機器同士が同じプロファイルを持っている場合のみ、その機能を利用した通信が可能になります。つまり、Bluetooth対応機種でも利用する機器双方が適切なプロファイルに対応していなければ通信はできません。

4-2.代表的なプロファイル

Bluetooth BR/EDR 向けのプロファイルは、現在使われているもので30種類あります。その中でも代表的なものは次の通りです。

4-2-1.GAP (Generic Access Profile)

他の全てのプロファイルの基礎として機能するプロファイルであり、A2DP(オーディオストリーミング再生機能)とVDP(ビデオストリーミング再生機能)のベースとして利用されています。機器の接続や認証、暗号化などを行います。

4-2-2.GAVDP (Generic Audio/Video Distribution Profile)

ビデオストリームやオーディオストリームを配信するためのもので、一般オーディオ/ビデオ配信プロファイルです。GAPと同様、A2DPとVDPの基礎技術として使われています。

4-2-3.A2DP (Advanced Audio Distribution Profile)

オーディオストリーミング再生機能であり、Bluetoothオーディオの最も基本的な仕組みのプロファイルです。

モノラルあるいはステレオの音声データを、ACLチャンネル上に高品質にストリーミング配信するための手順や、使用する他のBluetoothプロファイル・Bluetoothプロトコルなどが定義されています(ただし、サラウンドサウンドの配信については定義の範囲外)。

このA2DPでは、伝送に必要なカプセリング化方式のみが規定されています。したがって、ペイロードとなる音声の圧縮に使用するコーデックは自由に規定することができ、SBC(圧縮方式の一つ。Sub-Band Codec)は必須とするものの、幅広いコーデックが利用可能です。実際、今まで製品に実装されたコーデックは数多く、有名なものだけでも、MP3オーディオ、AAC(MPEG-2/4 AAC)、ATRAC、aptX、LDACなどがあります。

ヘッドホンやスピーカーなどで最も重要なプロファイルの一つです。

4-2-4.AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)

機器によって対応範囲はそれぞれですが、ボリューム・再生・停止・スキップなど、操作対象デバイスをリモコンからリモート操作するためのプロファイルです。AVRCP バージョン1.3以降は、アーティスト名やアルバム名などの情報も転送が可能になりました。

AVRCPでは、操作内容を送信する側を「CT」、操作内容を受信する側を「TG」と定義し、TGをリモートコントロールするための手順、および使用する他のBluetoothプロファイル・Bluetoothプロトコルなどが定義されています。

ただ、AVRCPの動作は、デジタルオーディオプレイヤーのリモートコントロールによる「操作内容の配信」のみです。オーディオ・ビデオファイルのストリーミングはこのプロファイルの定義範囲に含まれません。

4-2-5.VDP (Video Distribution Profile)

ビデオストリーミング再生に関わるプロファイルです。モニタ間などにおいて、ビデオデータをストリーミング配信します。

4-2-6.HSP (Headset Profile)

音声通話に必要最小限の機能を持ち、マイクとモノラル音声の双方向通信をサポートするプロファイルです。ただし、イヤホンやヘッドホンを、携帯電話やスマホのヘッドセットとして利用するには「HSP(Hands-Free Profileの略。ハンズフリー機能)」への対応が必要です。

4-2-7.HFP (Hands-Free Profile)

主に自動車内でのハンズフリー通話や機器の操作等の機能を持つプロファイルです。発信や着信操作を行うにはこの「HFP」に加え「HSP」への対応も必要ですが、現在のヘッドセットのほとんどはHSPとHFPの両方に対応しています。

5.Bluetoothの「コーデック」

5-1.「Bluetoothは低音質」と言われた理由

Bluetoothオーディオが出始めた頃は、「A2DP」で対応が必須の「SBC」という圧縮方式が主流でした。このコーデックはデータ転送レートを抑えて通信の安定性を優先したため、多くの場合、音声信号の圧縮率が高めに設定されています。

BluetoothにおいてSBCは搭載必須の標準コーデックですから、どうしても「Bluetoothオーディオの音源はすべて高圧縮」という話になり、「Bluetoothは低音質」との定説が出来上がってしまいました。

しかしそればかりではありません。

基本的にコーデックが同じ場合、ビットレートが高い方が高音質になります。反対に、ビットレートが同じ場合、コーデックの性能が音質の差となって現れます。そして、コーデックの音質序列は、高い順に「aptX」「AAC」「SBC」と言われていますが、SBCがAACやaptXに比べて低音質と言われるのは、過去においてビットレートが低い時代が長かったことによります。

ちなみに、SBCにはデータ転送量を調整する値「BitPool」というものがあり、音質重視の最新Bluetoothオーディオには、ほとんどがその最高のBitPool 53(328kbps)に対応しています。もちろんコーデックによる音質差はありますが、BitPool 53ならAACに比べて大きく劣る印象は抱かない人が多数です。一概に「SBCは低音質」という時代は過去の話であり、今のBluetoothは決して音質が悪いオーディオではありません。

5-2.高音質のコーデック

Bluetoothもバージョンアップを重ね、通信安定性は飛躍的に向上しました。また、メーカーの実装ノウハウも蓄積され、データ転送レートを充分に確保した低圧縮率での利用も可能になりました。

もともとBluetoothオーディオにおいて最も重要なプロファイル「A2DP」は、SBC対応を必須としていましたが、コーデックは自由に規定することができる仕様でした。そのため、今ではより高音質な圧縮方式「AAC」や「aptX」などに対応した機器も増えてきており、Bluetoothオーディオは新しい局面に移行しようとしています。

5-2-1.AAC

AACは「Advanced Audio Coding」の略で、不可逆式の圧縮方式です。MP3の後継フォーマットとして策定されました。一般的に、同じ程度のビットレートなら、AACはMP3より高音質と言われています。

一方、AACはSBCと同じくらいの高圧縮を行いますが、SBCとは圧縮の仕方が大きく異なります。AACはMP3と同様、人間が聞こえないと言われている帯域の周波数を間引いてデータを圧縮しています。ですから、同程度のビットレートならAACの方が高音質に聞こえるというわけです。

AACはiTunesのデフォルト圧縮方式にも採用されており、実績も十分な方式です。

5-2-2.aptX

aptX(当初は「apt-X」と表記しましたが、2010年に「aptX」へと改められました)は、1980年代に英国クイーンズ大学ベルファストにてそのアルゴリズムが開発され、ケンブリッジに本拠地を置くCSR社によって、当初は放送業界向け、その後 にBluetoothオーディオ向けに実用化された圧縮方式です。高音質だと評判も高く、近年急速に対応機器が増えています。

aptXは、AACのように聞こえない音を間引くのではなく、高度な計算により、元のデータを固定的に1/4に圧縮します。当然SBCやAACと比較すれば、圧縮効率が低くなる分ビットレートは高くなり、元データに遜色のない高音質が再現できます。

さらに、レイテンシ(遅延時間)がSBCやAACよりも短い特徴も兼ね揃えています。

5-2-3.LDAC

Bluetoothで最大96kHz/24bitのハイレゾ音楽データが扱えるコーデック「LDAC」は、ソニーが開発した最新コーデックです。最大ビットレート990kbpsはBluetoothの最大スループットに近いため、電波状況によっては音切れが起こることもあるが、いま最もハイレゾに近い存在です。

ただ、LDAC対応オーディオには、圧縮を行うため日本オーディオ協会が定めるハイレゾロゴは適用されません。

6.まとめ

Bluetoothオーディオの音質が悪いというのは、もはや昔の話です。確かに出始めの頃は音質が低かった頃もありましたが、最近は非常に音質も向上しています。

ただし、ここ十年ほどの技術なので購入時にはいくつかの注意が必要です。特にバージョンには留意しましょう。互換性の問題があります。使用する機器がいくつに対応しているのかは、必ずしっかりと確認しましょう。

オーディオは新時代に突入する様相が濃くなってきました。

古いものを大切にしつつ新しいものを取り入れて、より豊潤なオーディオライフが訪れますことを心より祈っています。