「スピーカーの種類ごとにおける名機」オーディオ解説書その9

エンクロージャーは「低音をどのように響かせるか」という点で非常に大きな役割を果たしています。そして、スピーカーシステムは、そのエンクロージャーという視点から「平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)」「密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)」「バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)」「パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)」「ASW型(ケルトン型)」「共鳴管方式」「バックロードホーン型」「フロントロードホーン型」の8つに大きく分類できます。

そこで今回は、それぞれ8つのスタイルごとにお勧めの機種やこぼれ話などをまとめてみました。

「スピーカーの種類ごとにおける名機2」オーディオ解説書その10

目次

  1. 密閉型とバスレフ型の違い
    1-1.バスレフ型誕生の背景
    1-2.密閉型とバスレフ型との相違点
    1-3.総括
  2. 平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)
    2-1.概要
    2-2.平面バッフルと言えば、江川三郎
    2-3.ダイポール型と言えば、B&W
    2-4.MONITOR AUDIO(モニターオーディオ)のダイポール型
    2-5.KEFのダイポール型
  3. 密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)
    3-1.概要
    3-2.密閉型と言えば、日本製なら「クリプトン」
    3-3.密閉型の希代の名作「Electro-Voice Patrician 800」

1.密閉型とバスレフ型の違い

スピーカーシステムは先述の通り、大きく8つに分類できます。

  • 平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)
  • 密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)
  • バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)
  • パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)
  • ASW型(ケルトン型)
  • 共鳴管方式
  • バックロードホーン型
  • フロントロードホーン型

です。

ただし、現在の市販品においては、主流は「密閉型」と「バスレフ型」です。ほぼこの二つしかお目にかかれません。というわけで、まずは改めて「密閉型」と「バスレフ型」の違いをおさらいしたいと思います。

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1-1.バスレフ型誕生の背景

平面バッフルから進化した密閉型では、閉じ込められた空気がバネの役割を果たし、スピーカーの動きを制御します。そのため、タイトでダンピングのいい、締まった低音が得やすくなる傾向があります。また、密閉型は低音増強効果は小さいものの、低音がだらだら下降しながら伸びるため、一般的に「自然な低音」と表現されます。

しかし、密閉型で充分な低音を得ようとすると、非常に大きな容積が必要になります。そこで開発されたのが、ポートを設けた「バスレフ型」と呼ばれるタイプです。例えば50HZの同じ低音を出すにも、バスレフ型なら密閉型の60%のサイズでまかなうことができ、同容積なら0.6倍まで低音を伸ばすことができます。

1-2.密閉型とバスレフ型との違い

1-2-1.方式

密閉型は密閉された空気がバネの作用をしてスピーカーをコントロールします。
一方、バスレフ型はバスレフポートにより、低音を増強して再生します。

1-2-2.音の特徴

密閉型はタイトでキレのいい低音が特徴です。締まりが良く、キレのいい低音を好む人にはお勧めです。
一方、バスレフ型は豊かで伸びのある低音が特徴です。締まりよりリッチさを好む人にはお勧めです。ちなみに、低域レンジは密閉型より伸びる傾向にあります。

1-2-3.その他

密閉型の中でも完全に密閉したものを「エアサスペンション型」と呼びますが、いずれにせよ、密閉型で低音を出すにはある程度の容積が必要です。
一方、バスレフ型は、ポートの位置によって「フロントダクト方式」「リアダクト方式」と分類することもあります。

1-3.総括

市販品においては、主流は「密閉型」と「バスレフ型」の二つです。しかし、スピーカーには他に種類がたくさんあります。自作スピーカーも多く存在します。そこで次の章からは、スピーカーの種類ごとにおける名機・名作やこぼれ話などを紹介します。

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2.平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)

2-1.概要

平面バッフル型はバッフル板にユニットを取り付けることにより、後面に放出された低音が前面に回折するのを遮断する方式です。しかし、より低い帯域の後面の低音はバッフル板を回り込んで前面の音と打ち消し合うため、低音再生能力は他の方式と比較すると劣ってしまいます。

低音再生能力はバッフルの面積次第で決定されます。ただ、あまりに面積を大きくすると扱いが難しくなるため、一枚の板ではなく四隅を折り曲げたもの(背面がない箱)もあり、これは「後面開放型」あるいは「ダイポール型」とも呼ばれています。

ユニットの動作を抑えることなく、伸び伸びと鳴り、微小な信号の再生能力に優れているという特徴がありますが、そうした同じ特徴を持つバックロードホーン型との比較では、単純な構造と吸音材の使用に制約がないため、音質に独特のクセがないのも長所と言われています。

構造が複雑でないことから容易に自作に取り組めるとあって、そうしたスピーカーユニットも数多く市販されており、入手しやすい状況にあります。ちなみに、平面バッフルと言えば、オーディオ評論家の江川三郎氏が特に有名です。

2-2.平面バッフルと言えば、江川三郎

江川三郎(1932-2015)は、日本のオーディオ評論家です。「JBLバラゴンの左右連結は、音質向上のための必然」「生け花用の剣山を、カーペットに突き刺せ」などの名言も有名ですが、1975年に「ケーブルによって音質は変わる」と訴えたことはオーディオ界では伝説となっています。

自作スピーカーを数多く残していますが、ボーカル帯域の再生を特に重視。そのため、低音再生を切り捨てたスピーカーづくりが特徴で、平面バッフルと後面開放型(ダイポール型)をこよなく愛していました。

自作スピーカーの分野で同じく人気だった長岡鉄男(オーディオ評論家;1926-2000)とは真逆の考え方で、江川三郎は自分の方向性を「ナチュラルサウンド」、長岡鉄男の方向性を「アーティフィシャルサウンド」と表現。一方、長岡は江川の方向性を「京懐石料理」、自分の方向性を「漁師料理、あるいは猪の丸焼き」と表現し、互いに自分の方向性が原音(自然な音)に近く、相手の方向性を人工的だと批判していました。が、方向性では真逆でしたが、二人は親友だったと伝えられています。

2-3.ダイポール型と言えば、B&W(Bowers & Wilkins)

日本製オーディオでは住宅環境の観点からほとんど製造されていないダイポール型スピーカーですが、海外ではいくつか発表されています。その中でも、B&Wのダイポール型は有名です。

B&W DS3は、モノポール・モードとダイポール・モードが選べるスピーカーです。従来のモノポール・モードで作動させれば、音の拡散を抑制して側面または背面からのサウンドの位置を正確に再現させることができ、ダイポール・モードで作動させれば大きな空間の観客席全体を包み込む効果を発揮します。

どちらのモードを選択しても、130mmケブラーコーン・バス/ミッドレンジ・ユニット、ツイン・ミッドレンジ/高周波ユニット、およびノーチラスチューブ搭載トゥイーターが高品質のサウンドが味わえます。

【B&W DS3 の主な仕様】

引用:http://www.bowers-wilkins.jp/Speakers/Home_Audio/600_Series/DS3.html

■方式:2ウェイ ダイポール/モノポール選択式密閉型サラウンド・システム
■使用ユニット:
・1 x φ25mmアルミニウム・ドーム・トゥ イーター
・2 x φ80mmミッドレンジ/トゥ イーター
・1 x φ130mmウォーブン・ケブラーコーン・バス/ミッドレンジ
■公称インピーダンス: 8Ω(最低3.3ohm)
■クロスオーバー周波数: 4kHz (モノポール時)、250Hz(ダイポール時)
■外形寸法:W387 × H249 × D186 mm
■重量:5.2kg

一方、「DS8S」は、B&Wのスピーカーの中でも特に人気の高い「805S」と同等の18cmのミッドウーファーを1基、10cmのケブラーミッドハイを2基、2.5cmアルミドームを3基搭載したダイポール型の壁掛け対応スピーカーで、サラウンドやリアチャネルでの使用を想定したモデルです。

モノポール式とダイポール式に切換えが可能で、モノポールモードでは正面のユニットが作動、ダイポールモードでは側面の2組のユニットが作動します。多方向に音を発生させることで、壁や天井などの部屋からの反射音が増え、包み込まれるような音場を作り出すことができます。

【B&W DS8S の主な仕様】

■方式:2ウェイ ダイポール/モノポール選択式密閉型サラウンド・システム
■使用ユニット:
・1×φ165mmバランスドライブ方式ウォーブン・ケブラーコーン・ミッド/ウーファー
・2×φ100mmミッド/ハイドライバー
・3×φ25mmチューブローディング・アルミニウムドーム・トゥイーター
■公称インピーダンス: 8Ω(最低4.4Ω)
■クロスオーバー周波数: 4kHz(モノポール時)、250Hz,4kHz(ダイポール時)
■外形寸法:W622 × H360 × D205 mm
■重量:15kg

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2-4.MONITOR AUDIO(モニターオーディオ)のダイポール型

モニターオーディオは、イギリスのスピーカーメーカです。創業は1972年。ロンドンから約一時間の東海岸Raylightに拠点を置き、約半世紀の歴史を持ちます。フラグシップの「Platinumu」を筆頭に、上から「Gold」「Silver」「Bronze」とスピーカーをラインナップしています。

その中でも、ゴールド・ラインのダイポール型が、ゴールドリファレンス「GRFX」です。ツイーターが左右に2つ採用されていて、それぞれのユニットも流れてくる信号に合わせて特別なチューニングが施されています。

価格は、チェリーが280,000円(ペア)。ブラック、ローズマホガニー、ナチュラルオーク、ホワイト は受注品で320,000円(ペア)。

【MONITOR AUDIO Gold Reference GRFX の主な仕様】

■方式:2ウェイ3ユニット・密閉型(防磁)
■使用ユニット:
〈ツイーター〉25mm Gold Dome C-CAM Tweeter featuring low resonance rear chamber×2

〈ウーファー〉160mm RST Bass range ×1
■入力インピーダンス: 6Ω
■再生周波数: 55Hz – 22KHz(±3dB)
■外形寸法:W360 × H225 × D180 mm
■重量:9kg

このモニターオーディオが誇る傑作ダイポール型スピーカー「ゴールドリファレンス GRFX」で得たノウハウと共に、C-CAMユニットの威力を遺憾なく発揮させたリアスピーカーが「Silver Studio FX 」です。Silverラインのダイポール型スピーカーです。

方式は2ウェイ・3スピーカー、使用ユニットは、2x25mmゴールドドーム、C-CAMトウィーター、150mm C-CAMミッド・バスユニット。寸法はW31.1xH25xD14.3cm、重量は5.1Kg、金額は78,000円/台。

そして、その次のグレードであるブロンズ・ラインのダイポール型が「Bronze BXFX」です。方式は2ウェイ・3スピーカー・密閉型(防磁)、使用ユニットは2x25mmゴールドドーム、C-CAMトウィーター、140mmC-CAMバスミッドレンジドライバー。寸法はW276xH287xD105mm、重量は3.62Kg/ペア、金額は52,500円。

2-5.KEFのダイポール型

KEFは1961年に設立されたイギリスのオーディオ・メーカーです。革新的なテクノロジーと現代的なデザインで、顕著な音と映像体験を実現しています。

中でも、自然かつ正確な表現力が特徴の「Qシリーズ」は、1991年に初登場し、数々の賞を獲得した最も人気の高い高解像度スピーカーです。そして、そんなQシリーズのダイポール型スピーカーが「Q800ds」です。

リスナーの左右にQ800dsを追加すれば、両脇の壁全体がスピーカー群となり、それぞれのスピーカーに取り付けられた2つの130mm径 Uni-Qによる逆相効果がサウンドを拡散。音がリスニングエリア全体に広がります。

金額は99,000円。

【KEF Q800ds の主な仕様】

引用:http://jp.kef.com/q800ds

■方式:3ウェイ
■使用ユニット:
・2 × 130mm (5.25in.) aluminium Uni-Q
・2 × 25mm (1in.) vented aluminium dome HF
■クロスオーバー周波数: 300Hz, 2.5kHz
■外形寸法:W348 × H180 × D180 mm
■重量:7.4kg

さらに、ホームシアターに真剣に取り組もうとする方向けにKEFが用意したのが「Rシリーズ」です。流れるようにスムーズなサウンドを放つ新開発Uni-Q点音源2ウェイドライバー。そして、同じく新開発のウーハードライバーの組み合わせは、豊かで正確な音場形成し、本格的なオーディオをより身近に感じさせてくれます。

そのRシリーズのダイポール型スピーカーが「R800ds」です。

二つの130mm径Uni-Qドライバーは逆相に働き、指向性のないすぐれた音場を創造。「何も加えない、何も引かない」正確な音が楽しめます。金額は172,000円。

「スピーカーの歴史」オーディオ解説書その7

【KEF R800ds の主な仕様】

引用:http://us.kef.com/r800ds

■方式:3ウェイ
■使用ユニット:
〈HF〉2 × 25mm (1in.) vented aluminium dome
〈LF/MF:〉 2 × 130mm (5.25in.) aluminium
■クロスオーバー周波数: 300Hz, 2.5kHz
■外形寸法:W350 × H180 × D184 mm
■重量:7.4kg

3.密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)

3-1.概要

密閉型のスピーカーは低音増強効果は小さいものの、低音がだらだらと下降しながら伸び、急激に減衰しない特徴があります。ブックシェルフ型と呼ばれる中・小型の密閉型スピーカーでよく見受けられる方式です。

時折、バスレフ型やバックロードホーンのように、「共鳴を利用する方式の低音は質が落ちる」と言う方もいて、「振動板からの再生音のみを聴く密閉型の低音のほうが優れている」とする方も多くいます。特に有名なのは、オーディオ評論家の高島誠氏です。

3-2.密閉型と言えば、日本製なら「クリプトン」

オーディオブランド「クリプトン」は、株式会社クリプトンが展開するスピーカーブランドです。1984年の創業以来、映像・音楽・情報ネットワーク部門で新たな市場の創造に情熱を傾けてきた企業でしたが、2005年にオーディオ部門を設立。スピーカー事業に参入しました。

こだわりは、「メイド・イン・ジャパン」と「密閉型」。オーディオ事業部長の渡邉勝氏の考えが製品づくりに大きく影響されているブランドです。

彼が密閉型にこだわるきっかけとなったのが、米国Acoustic Researchの「AR-3a」です。そのスピーカーとの出会いのことを、彼は後にこう語っています。

「エンクロージャーの容積は約50リットル。今となっては相当大きなサイズですが、当時は”こんな小さいスピーカーでこれだけの音が出るのか”と驚いたものです」。

【AR(Acoustic Research) AR-3aの主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/AR/speaker/ar-3a.html
■方式:3ウェイ・3スピーカー・アコースティックサスペンション方式(ブックシェルフ型)
■使用ユニット:〈低域用〉30cmコーン型/〈中域用〉3.8cmドーム型 /〈高域用〉2cmドーム型
■周波数特性:30Hz〜20kHz
■インピーダンス:4Ω
■クロスオーバー周波数:575Hz、5kHz
■外形寸法:W356 × H635 × D292 mm
■重量:24kg

この出会いがきっかけとなって、クリプトンは密閉型のスピーカーをいくつも世に送り出します。その中でも「KX-1000P」はクリプトンのフラッグシップモデルとして、非常に高い評価を受けています。3ウェイ4スピーカーのフロア型スピーカーで、「Made in Japanの銘機作り」をコンセプトに徹底的な音質追求を図ったモデルです。

170mmのクルトミューラーコーンウーファー、35mmピュアシルク・リングダイアフラムトゥイーターに加え、スーパー・ツインドライブウーファーを搭載。これにより、口径は17cmですが25cm相当の低域再現を可能にしています。また、全てのユニットには優れたトランジェント特性と、音質に定評あるアルニコ・マグネット壷型磁気回路を採用。さらに、スーパーウーファー部と2ウェイ部とのエンクロージャーは2分割され、バイワイヤリング端子が用いられています。そのため、ショートワイヤで接続する方式で、2アンプドライブやバイワイヤリングで駆動することにより一層の高音質再生が可能な上、2ウェイ部とスーパーウーハー部を分離できるバイワイヤリング方式はスーパーウーファーの逆起電力から2ウェイ部を分離してモジュレーションを防ぐので、中高音域の透明感を損いません。

サランネットは透過度が良く、品位の高い高級西陣絹織。
発売は2009年。
金額はペアで¥997,500。

【KRIPTON KX-1000Pの主な仕様】

引用:http://www.kripton.jp/fs/kripton/kx-1000p
■形式:3ウェイ4スピーカー 密閉型スピーカーシステム
■定格入力:50W
■最大入力:150W
■インピーダンス:6Ω
■クロスオーバー周波数:150Hz、3500Hz
■再生帯域:35Hz~40,000Hz
■外形寸法:W280 x H1005 x D243mm
■質量:33Kg(スピーカーベース込み)

このKX-1000Pはクリプトンにおける最上位機種ですが、2017年10月に“ポイント・ファイブ”と名付けられたブックシェルフスピーカー「KX-0.5」が発表されました。密閉式にこだわった「KXシリーズ」の末弟的な存在(人によっては、2014年発売の「KX-1」の弟分とも)として、より手軽に高音質が手にできる機種として企画されました。

しかし、従来のKXシリーズから方向転換した側面もあります。ウーファーです。まず、磁気回路にアルニコではなくフェライト磁石を採用しており、さらに振動板もクルトミューラーコーンではなくポリプロピレンにカーボンコートを施した材質に変更しています。こうしたことが低価格化を実現している要素の一つですが、時代とともに入手が困難になり、相対的に高価格化した部品ではなく、時代に適した部品選定でコストと音質のバランスを模索したモデルとも表現できます。

とはいえ、トゥイーターには上位モデルと同様35mm径の砲弾型イコライザー付リングダイアフラム型トゥイーターを採用しています。再生周波数に応じて中央部と周辺部が、実質的に2ウェイ駆動。50Hzまで再生周波数帯域を確保しています。

なお、エンクロージャーは、針葉樹系の高密度パーチクルボードとMDFで構成。表面はスモークユーカリの自然材による突き板として、ポリウレタン塗装で仕上げています。これにより、木目の美しい高級感ばかりでなく、不要振動を抑えた優れた振動特性を両立させたそうです。

そして、密閉型スピーカーにおいては吸音材が最も重要なポイントの一つとなりますが、そこに天然ウールの低密度フェルトを採用。低音の質を決める低域制動(Q0)を最適にコントロールし、さらに優れたウーファーの低域特性との相互効果により、トランジェントの良い伸びやかな低音を実現しています。

定価が20万円以下(ペアで198,000円)で、小さいながらも良い音を鳴らすスピーカーです。

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【KRIPTON KX-0.5の主な仕様】

引用:http://www.kripton.jp/fs/kripton/kx-05

■形式:2ウェイ 密閉型ブックシェルフ
■定格入力:40W
■最大入力:120W
■インピーダンス:6Ω
■クロスオーバー周波数:3500Hz
■再生帯域:50Hz~50000Hz
■外形寸法:W194 × H352 × D295mm
■質量:7.4kg

3-3.密閉型の希代の名作「Electro-Voice Patrician 800」

引用:http://audio-heritage.jp/ELECTROVOICE/speaker/patrician800.html

いまだ語りぐさとなるほど現代でも人気の「Electro-Voice Patrician 800」は、エレクトロボイスの代表作にして、オーディオ史上においても非常に有名な密閉型スピーカーです。ウエストコーストを代表するJBLやALTECとは異なり、適度なウェット感+重量感あるイーストコート独自の世界観が鳴らすサウンドが特徴です。

低域用に30Wの76cmコーン型ウーファー、中低域用に30cmコーン型ミッドバス、中高域にドライバーユニットと8HDを組合わせたホーン型ミッドレンジ、高域にはホーン型トゥイーターであるT350を搭載しています。

木工仕上げが入念に施された美しいエンクロージャーの素材には、厳選された厚さ2.5cmの板材を使用。高級家具として、部屋のコーナーに置いて使用できるよう設計されています。

「スピーカーの種類ごとにおける名機2」オーディオ解説書その10 へつづく

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スピーカーはエンクロージャーの形状によりいくつかに分類することができます。エンクロージャーとは、一言で言えばスピーカーユニットを収納する箱のことで、キャビネットとも呼ばれています。一見すると、エンクロージャーはデザイン面のみが重視されがちですが、実はもっと本質的な理由が他にあります。

そこで今回は、スピーカーのエンクロージャーに着目し、その分類について解説します。

目次

  1. エンクロージャー
    1-1.エンクロージャーとは
    1-2.エンクロージャーの進化
  2. スピーカーシステムの分類
    2-1.平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)
    2-2.密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)
    2-3.バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)
    2-4.パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)
    2-5.ASW型(ケルトン型)
    2-6.共鳴管方式
    2-7.バックロードホーン型
    2-8.フロントロードホーン型
  3. まとめ

1.エンクロージャー

1-1.エンクロージャーとは

エンクロージャー (enclosure) は「囲い込むもの」という意味の英語で、機械類を格納する筐体のことです。しかし、一般的に我が国では、「エンクロージャー」と言えばスピーカー用の、それも全帯域用または低音域用のものを指します。

エンクロージャーの主な役割は、スピーカーユニットの前面から出る音と背面から出る音の分離です。スピーカーユニットの振動板は前後相互に逆相の音を放射します。そのため、これらが干渉すると低音域が打ち消し合ってしまい、低音があまり響きません。そこでスピーカーユニットをエンクロージャーに格納し、低音を再生します。

実際、スピーカーユニットをエンクロージャーから取り外し、裸の状態で鳴らせばそれは体感できます。恐ろしいほど低音が出なくなるはずです。しかし、もう一度エンクロージャーに取付ければ、まるで水を得た魚のように低音が響き渡ります。

そうです。エンクロージャーの本質的な役割は、低音を鳴らすことなのです。

1-2.エンクロージャーの進化

低音再生を得意とするウーファーも、ユニット単体ではまるでその性能は発揮できません。前述の通り、コーンの前面と背面では音の位相が反対になっていて、互いに打ち消してしまうからです。構造的には、コーンが前に動いて空気を押しても、背面側の空気圧が下がるため互いにキャンセルしてしまう、というわけです。さらに、このキャンセル効果は波長の長い低音ほど強く現れる傾向にあります。そのため、エンクロージャーがなければ低音は響きません。

そこで先人は、バッフル板でユニットの前後をセパレートすることを思いつきます。バッフル板とは、流体の流れ中に設ける、流れを阻止する板のことです。この環境下になると、若干低音が出始めます。前後の空気の移動をバッフル板が遮るからです。しかし、バッフル板を回り込むようにして周りから音の移動が発生するため、バッフル板だけではまだ充分に低音は響きません。そこで誕生したのが「平面バッフル」です。 柵のように、バッフル板を壁のように大きくしたものです……と言えば聞こえは良いかもしれませんが、要するに大きな板一枚にユニットを取付けただけのものです。

ただ、この平面バッフルでは、低音再生能力を高めようとすると非常に面積の大きなバッフル板が必要となります。そこで生み出されたのが、バッフルを後ろに折りまげる「後面開放型」、別名「ダイポール型」です。「コ」の字にバッフルが折り曲げられた後面開放型は、小さい面積のバッフル板でも平面バッフルに近い効果が得られます。また、ユニットの背面がオープンになっているので、「開放的でナチュラルなサウンド」と、今なお高い評価を与えるユーザーも多くいます。

そして、次に開発されたのが「密閉型エンクロージャー」です。「コ」の字だったエンクロージャーを完全に閉じて、ユニットをリアまで全部覆うスタイルです。現在のスピーカーで最も採用されているエンクロージャーの型です。

このように、エンクロージャーは低音を再生するために生まれ、進化を果たしてきたのです。

「スピーカーの歴史」オーディオ解説書その7

2.スピーカーシステムの分類

前段まででエンクロージャーの進化の過程を見てきましたが、次はエンクロージャーの分類について解説します。ここでは主なスタイルとして、「平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)」「密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)」「バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)」「パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)」「ASW型(ケルトン型)」「共鳴管方式」「バックロードホーン型」「フロントロードホーン型」の8つを紹介します。

2-1.平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)

平面バッフルは、先ほどお話しした通りの方式です。一枚の平らな板にスピーカーユニットを取り付けたものです。バッフル板が、スピーカーユニットの前面から出る音と背面から出る音を分離し、低音の再生を実現します。

平面バッフルにおける理想形は、どこまでも続く無限大バッフルです。これであれば、背面の音が前面に回り込んで干渉することはありません。が、現実的にはそんなバッフル板を制作するのは不可能です。そのため、実際の有限な平面バッフルでは背面の音が前面に回折して干渉しないよう、大きな板を用いて低音域を再生します。

ただ、平面バッフルで充分に低音を響かせようとすると、とても大きな板を必要とするため取扱が面倒です。そこで誕生したのが、平面バッフルをコの字に折り曲げ、背面を開いた箱状のものです。「後面開放型」あるいは「ダイポール型」と呼ばれているものです。(ただし、後ろが開いているため、箱の奥行きが小さければ平面バッフルとほぼ効果は変わりません)

平面バッフルも後面開放型(ダイポール型)も、長所はユニットの動作を抑えることなく、のびのびと音を鳴らせる点です。しかし、どんなユニットにも適している訳ではありません。磁気回路が強力なスピーカーユニットでは過制動となって現れるため、さほど強力ではない磁気回路を持ち、振動板重量が軽いスピーカーユニット向きと言われています。そのため、アンプの出力があまり大きくない時代では重宝され、特に古い真空管ラジオやアンプを搭載していない原始的なラジオのスピーカーは、このタイプが最も採用されました。昔の古いラジオは後面が開いていて、内部構造が見られるようになっていたのはそのためなのです。

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2-2.密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)

密閉型はスピーカーユニットを開口の無い密閉された箱に取り付け、スピーカーユニット背面から出る音を箱の中に封止する形式です。 シールド型、またはアコースティック・エアー・サスペンション型とも呼ばれています。

先述の通り、スピーカーの振動板が振動すると、その前面と後面から出た音は逆位相になっています。そのため、振動板の背面から出た音が前面に回り込むと、お互いが打ち消し合い音が聞こえなくなります。音の回折効果は低音になるほど大きいので、低音を鳴らすには振動板の背面から出る音をいかに遮断できるかが重要になってきます。

そして、その課題を最もシンプルに解決したエンクロージャーの一つが、密閉型です。スピーカーユニットの背面を箱で覆って密閉し、振動板の背面から出る音を閉じ込める構造になっています。通常、その箱の中には吸音材が詰められます。

この方式においては、箱の内容積が大きくなればなるほど、あるいは、箱の前面が広くなればなるほど、理想的な平面バッフル(無限バッフル)に近いものとなります。そのため、色づけが少なく、クセのない素直な音が響きます。反対に、内容積が小さくなればなるほど箱の中の空気がバネの役割となって振動板を元の位置に戻そうとするため、低音限界が高くなります。

密閉型は低音増強効果は小さいものの、低音が下降しながら伸び、急激に減衰しない特徴があります。そのため、密閉型を採用したスピーカーシステムでは、この特徴を生かしたものが多い傾向にあります。

一般的によく見られるのは、ブックシェルフ型と呼ばれる中・小型の密閉型スピーカーです。多めの吸音材を充填したエンクロージャーに、やや重い振動板のスピーカーを取り付けています。振動板の慣性質量により意図的に中高音の能率を低下させ、低音域まで同等の音圧で再生するわけです。

また、イコライザーを介して、電気的に中高音の音圧を抑えて低音を増強し、高音から低音までの音圧をフラットにするケースや、マルチウェイスピーカーシステムにおいては、高音域スピーカーユニットの能率を下げているものもあります。

このようなスピーカは、真空管アンプが主流の時代では、音量が小さすぎて実用的ではありませんでしたが、現代のアンプのように大出力が可能な時代には低域まで十分な音量を鳴らすことができます。

箱が密閉されているため中に熱がこもり、放熱には不利な方式ですが、現在、市販されているスピーカーは多くがこの方式を採用しています

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2-3.バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)

バスレフ型は英語の bass reflex(バス レフレックス)の略称ですが、日本では「バスレフ」と呼ぶのが一般的です。和訳すると「位相反転型」です。後述しますが、バスレフ型にはダクト(ポート)が設けられていることから、「ベンテッド型(vented;空気の通気口を意味する英語。孔)」とも呼ばれています。

スピーカーは前面からも裏側からも音が出ています。そして、スピーカーのコーンが前に出た際に鳴る音を「正相」と言い、反対に、この時スピーカーの裏側から見るとコーンは引っ込んでいますから、裏側からの音を「逆相」と呼びます。

位相の音(特に低音)は互いに打ち消し合い、聞こえなくなってしまいます。そこで、バスレフ型ではスピーカーユニット後面から発生する音の低音域をヘルムホルツ共鳴によって増幅します。

ヘルムホルツ共鳴とは、開口部を持つ容器の内部にある空気がばねとして作用し、共鳴(共振)することで音が発生することです。

ヘルムホルツ共鳴は、私たちの身の回りでも多くあります。最も日常的な例を挙げると、びんの開口部に横から息を吹きかけると、一定の高さで音が発生します。しかし、びんの中に水を入れると発生する音は高くなります。これは、びんの内容積が減少したからです。ちなみに、口笛も口腔の内容積や唇の開き方などを加減して音高を変えているため、ヘルムホルツ共鳴の一種です。

つまり、バスレフ型は箱にダクト(ポート)を設けてスピーカー本体をヘルムホルツ共鳴器とし、その共鳴によって低音域を増強。結果、位相を反転させ、スピーカーユニット背面で駆動する形式というわけです。

バスレフ型では小さな箱で豊かな低音を得ることが可能ですが、箱の内容積や共鳴周波数をスピーカーユニットの特性に合わせて設計する必要があり、設計が悪いと癖の強い低音になってしまうばかりか、そもそも共鳴周波数より低い周波数ではスピーカーユニット前面から出る音と打ち消し合ってしまう特徴があります。

ポートから共鳴周波数付近以外の音漏れがあったり、風切り音が出ることもあるという欠点もありますが、いま市販スピーカーに最もよく採用されている形式です。

2-4.パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)

小型スピーカーは低音再生を苦手とし、バスレフ型が採用されるケースが多い傾向にあります。しかし、低音の解像度感が低くぼやけた音になったり、低音の楽器の音色が音程によって変わってしまったりと、デメリットも発生しやすい方式です。

そこで開発されたのが、バスレフ型から発展したパッシブラジエーター型(ドロンコーン型)です。バスレフ型のポートの代わりにパッシブラジエーターを用いるため「パッシブラジエーター型」と呼ばれています。ドロン(なまけもの)コーンとも呼ばれていますが、駆動系を持たず、振動板だけのスピーカーユニットです。

動作原理はバスレフ型とほぼ同じです。バスレフ型のポートにはないサスペンションが付属する点が異なりますが、通常とても柔らかいサスペンションとしてバスレフ型と大差ない動作となるようにします。

パッシブラジエーターは磁気回路のないスピーカーをメインスピーカーの同軸線上に設置します。メインスピーカーの背圧で振動板を揺らし、低音の増強を図るわけです。一定の周波数で共振し、バスレフポートと同じような低音放射の作用があるため、近年ではサブウーファーによく使われています。

バスレフ型と比較すると、風切り音が出なかったり、パッシブラジエーターが不要な音漏れを防いだりとバスレフ型のデメリットを補完するばかりか、音のコントロールが容易なため、音質を重視するにはとても有効な方法と言われています。

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2-5.ASW型(ケルトン型)

「ASW(アコースティックウーハー)型」は日立が命名し、「ケルトン型」は発案者のH.ロングによって命名されました。①バスレフ型のスピーカーユニット前面を密閉箱で塞ぐ方式と、②ヘルムホルツ共鳴器で塞ぐ方式の二通りがありますが、いずれもスピーカーユニット前面から放射されていた高域を遮断するため、再生は共鳴周波数付近のみに限られます。そのため、中高音は鳴らなるので、主にサブウーファーとして用いられます。

①バスレフ型の前方に当たる側を密閉された箱で囲う方式

バスレフ型のスピーカーユニット前面を密閉箱で塞ぐ方式では、バスレフ型で発生するキャンセル効果が起きないため、低域の急激な減衰がありません。したがって、共鳴周波数を中心になだらかに下降する特性があります。

②バスレフ型の前方に当たる側もヘルムホルツ共鳴器とする方式

ヘルムホルツ共鳴器で塞ぐ形式では、前後の共鳴周波数が同じだと共鳴音同士が逆相となり打ち消し合います。そのため、共鳴周波数をずらす必要があり、低い方の共鳴周波数以下と高い方の共鳴周波数以上が急激に減衰し、しかしその間の帯域は平坦に再生できる特性があります。

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2-6.共鳴管方式

共鳴管方式は、スピーカーユニットとそれを取り付けるエンクロージャーの構成などにおけるスピーカーシステムの方式の一つです。スピーカーユニット背面に共鳴管をつなぎます。ヘルムホルツ共鳴による共鳴箱を「バスレフ型方式」と呼ぶのに対し、通常エンクロージャー内に折り畳まれて収められる共鳴管の固有振動を利用して低音を増強するものを「共鳴管方式」と呼んでいます。

原理はとても単純で、楽器の笛とほぼ同じです。長い直管(パイプ)はその長さに比例した波長の音に共鳴します。両端が開いた両開管は管の長さの倍の波長を、片方が開いた片開管(片閉管)は管の長さの4倍の波長を、両端が閉じた閉管は管の長さの8倍の波長が基底共振周波数となります。

トランスミッションライン型、TQWT、IR方式など、様々な手法があます。

2-6-1.トランスミッションライン型

PMC社(PMC Ltd.)が開発した方式です。片方が開いた共鳴管なので、管の長さの4倍の波長で共鳴します。管は開口部に向けて狭まっていき、吸音材を用いて奇数次高調波を封殺しています。

2-6-2.TQWT

TQWTはTapered Quarter Wave Tubeの略で、和訳すると「テーパー付1/4波長管」の意味となります。トランスミッションライン型と同様、片方が開いた共鳴管なので管の長さの4倍の波長で共鳴します。トランスミッションライン型と異なり、奇数次高調波をテーパー構造(管が開口側に向けて広がっていく構造)によって抑えています。

2-6-3.長岡鉄男による方式

オーディオ評論家の長岡鉄男氏による方式。トランスミッションライン型やTQWTと同様、片方が開いた共鳴管のため管の長さの4倍の波長で共鳴します。

奇数次高調波については、①チューニング周波数それ自体を下げる②管を途中で1回折り曲げる③カスゲード状に広げていく④スピーカーユニットに強力なものを使用する、などして抑えています。そのため、相当低い帯域まで再生しますが、相対的に低音の増強効果は小さく、部屋のコーナーや壁面に接する形で設置し、低音の効率を上げることが一般的です。

2-6-4.IR方式

オーディオ評論家の井上良治氏による方式です。管の両方が閉じており(閉管)、管の全長の8倍の波長の音を再生します。とはいえ、完全に閉じた管では音も外に出て行かないので、音を取り出すために管の側面にスリット状の孔を設けています。

2-7.バックロードホーン型

バックロードホーン型(Back-loaded horn speaker)はスピーカーユニット背面に断面積が大きくなっていく音道(ホーン)をつなぎ、スピーカーユニット後方から発生する低音をホーンによって増幅する方式です。

トランジスタアンプやデジタルアンプと比べて出力が小さい真空管アンプ全盛の時代には、大音量を獲得するには高能率のスピーカーが必要でした。しかし、高能率なスピーカーユニットに対して密閉型やバスレフ型のエンクロージャーを使用すると、中音域以上においては相対的に低音域のレベルが不足します。そこでその不足を補う目的で、バックロードホーン型のエンクロージャーが開発されました。

バックロードホーン型の最大のメリットは、何と言っても小出力で大音量が出せることです。デジタルアンプが誕生する以前では、劇場用としても使われていました。また、小型ユニットで量感ある低音を鳴らすことができ、さらにハイスピードで解像度が高く、ダイナミックレンジが広いというメリットもあります。

が、一方で、スピーカー背部に折りたたんだホーンを音道として作るため、構造が複雑化しがちです。そのため、生産コストがアップするというデメリットがあります。また、バックロードに適したユニットが必要になることや、箱を大型化してユニットを大口径にしても、低音の再生限界があること。音道を長くすると、低音の遅れが感じられることもバックロードホーン型の欠点です。

2-8.フロントロードホーン型

フロントロードホーン型はスピーカーユニット前面にホーンを付け、スピーカーユニット前方から発生する低音をホーンによって増幅する方式です。

しかし、ホーンはバックロードホーン型のように長大なものは使いません。ごく短いホーンを用います。これはユニット前面から再生する中高音に影響を与えることができないため、直線的なホーンにならざるをえないからです。また、設計上、バックロードホーン型とは異なり、ホーンを折り曲げて中高音を減衰させるものとはなっていません。

ただし、例外もあります。サブウーファーとして用いるケースでは、中高音は減衰させなければならないので、ホーンは長大かつ折れ曲がっているものもあります。ただし、こうしたシステムは、いくらユニット前面の低音をホーンで増幅するものであったとしても、フロントロードホーン型とは呼ばない傾向にあります。例えば、BOSEではスピーカーユニット前面・後面ともに折り曲げた長いホーンを通して再生する方式を「アクースティックマス型」としています。

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3.まとめ

エンクロージャーは「低音をどのように鳴らすか」を考える過程で、数多くのタイプが生み出されました。現在はアンプの進化に伴い、大出力でスピーカーを鳴らすことができることから、主流は「密閉型」「バスレフ型」の二つです。しかし、エンクロージャーによって低音の響き方は変わるため、音の好みで今なお全てのタイプが世界中で活躍しています。

確かに、スピーカーはデザインも大切です。ですから、エンクロージャーの形状は非常に重要な要素でしょう。しかし、そのエンクロージャーにより、オーディオで最も大切な「音質」が変わるのです。ぜひ皆さんは見た目だけでなく、好みの低音を響かせるスピーカーをお選びください。