「スピーカーの種類ごとにおける名機2」オーディオ解説書その10

「スピーカーの種類ごとにおける名機2」オーディオ解説書その10

前回の 「スピーカーの種類ごとにおける名機」オーディオ解説書その9 では、「平面バッフル・後面開放型(ダイポール型)」と「密閉型(シールド型、アコースティック・エアー・サスペンション型)」のお勧め機種やこぼれ話をまとめましたが、今回のその続きとして「バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)」「パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)」「ASW型(ケルトン型)」「共鳴管方式」「バックロードホーン型」「フロントロードホーン型」の話を。

目次

  1. バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)
    1-1.概要
    1-2.憧れのバスレフ型「B&W 800 D3」
    1-3.ダンプドバスレフ型といったら、Lo-d HS-500
  2. パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)
    2-1.概要
    2-2.パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)の名機「JBL Olympus C50 S8R」
  3. ケルトン型(ASW型 )
    3-1.概要
    3-2.ケルトン方式の元祖「Lo-D HS-1400W 」
    3-3.ケルトン型の高級スピーカー「Technics SB-M1000」
  4. 共鳴管方式
    4-1.概要
    4-2.共鳴管方式と言えば「BOSE キャノン」
  5. バックロードホーン型
    5-1.概要
    5-2.バックロードホーン式の名機「Tannoy Westminster Royal/GR」
  6. フロントロードホーン型
    6-1.概要
    6-2.フロントロードホーン型の人気エンクロージャー「JBL 4560BKA」
  7. まとめ

1.バスレフ型(バスレフレックス型、位相反転型、ベンテッド型)

1-1.概要

バスレフ型は、スピーカーユニット背面からの音の低音域をヘルムホルツ共鳴によって増幅する方式です。「バスレフレックス型」「位相反転型」「ベンテッド型 」とも呼ばれ、現在の市販スピーカーで最も普及している方式です。

バリエーションとして、ダクトに制動材を詰め、密閉型とバスレフ型の中間的な特性を持つ「ダンプドバスレフ型」があります。これはヘルムホルツ共鳴を制動(ダンプ)し、Q値を小さくしたものです。QとはQuality factorの略で、共振の度合いを表す値です。Q値が高いと共振が長く続くため、一般的にQ値は低いほうが音の立下りが良いため好まれる傾向にあります。

また、ダブルバスレフ型というものも存在します。これはバスレフ型を二重にしたもので、ヘルムホルツ共鳴が二重になるため、より低い帯域まで効率よく低音を再生します。

1-2.憧れのバスレフ型「B&W 800 D3」

イギリスのスピーカー専業メーカー「B&W」が2016年に発表した「800 D3」は、バスレフ型の3ウェイ・4スピーカーです。同社創業50周年として、800 D3シリーズの最上位モデルです。

仕様の大部分は先行して登場した「802 D3」と共通していますが、802 D3をスケールアップしただけではなく、そこからさらなる進化を実現。ペアで200万円を超える金額ですが、「高いのは金額と言うより性能」と評判です。

802 D3と比較して、ウーファーは250mm径と大型化。駆動系も磁気回路及びサスペンションに改良が加えられ、2次高調波を10dB、3次高調波を20dB低減。最低域再生でも歪みを極小としていて、よりクリアに低域を再生します。

ベース部も大幅に改良されており、亜鉛アルミ合金製から通常のアルミ合金を用いて軽量化。さらに台座の全面に特定の共振周波数を打ち消すダンピング材であるTMD(チューンマスダンパー)を施しています。

【B&W 800 D3 の主な仕様】

引用:http://www.bowers-wilkins.jp/Speakers/Home_Audio/800_Series_Diamond/800-D3.html

■方式:3ウェイ
■使用ユニット:
1×25mmダイヤモンド・ドーム・トゥイーター、1×150mmコンティニュアム・コーンFSTミッドレンジ、2×250mmエアロフォイル・コーン・ベース
■周波数レンジ:13Hz~35kHz
■周波数レスポンス:15Hz~28kHz(基準軸に対し±3dB)
■公称インピーダンス:8Ω(最低3.0Ω)
■外形寸法:W413 × H1217 × D611 mm
■重量:96kg

1-3.ダンプドバスレフ型といったら、Lo-d HS-500

ローディー(日立)の代表作にして、同社のスピーカーの評価を一気に高めた名機「HS-500」。

低域には、新開発された「ギャザードエッジ」(通常使用されていたロールエッジを改良し、独自のギャザーを加えたV型のエッジ。振動板の機械的直線性を改善し、大振幅時のひずみやエッジの共振によるひずみを低減している)を採用したコーン型ウーファー「L-200」を搭載。20cm口径ながら高い低音再生を実現し、その優れた性能から、L-200はウーファーユニットとして単売もされていました。

高域には、ホーン型トゥイーター「H-70HD」を搭載。アルミ丸棒より1本ずつ入念に削り出されたホーンは、11,300ガウス・口径1.4cmの強力なボイスコイルで駆動され、優れた指向性を持って高域のビーム感をおさえていました。

そして、エンクロージャーは18mm厚チップボード製のダンプドバスレフ方式を採用し、密閉型とバスレフ型の双方の利点を獲得。内部に空気密度の5倍ものグラスウールを詰めて適当な音響抵抗を設け、低音の再生能力を高めると同時に、ポートとスピーカー両方から音を放射することで低音での歪も低下させています。

1968年から1970年代にかけ、2ウェイブックシェルフ型の王座に君臨した名機です。金額は、発売当時の1968年時は65,000円。ウーファー「L-200」は20,000円。

【Lo-d HS-500 の主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/LO-D/speaker/hs-500.html

■方式:2ウェイ ダンプドバスレフ方式 ブックシェルフ型
■使用ユニット:
〈低域〉20cmコーン型(L-200)
〈高域〉ホーン型(H-70H)
■周波数帯域:40Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数:3kHz
■インピーダンス:8Ω
■外形寸法:W360 × H610 × D347 mm
■重量:22kg

2.パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)

2-1.概要

ドロンコーンはボイスコイルを持たないコーンだけのユニットで、自分で能動的(アクティブ)には動作せず、受動的(パッシブ)な方式によるスピーカーです。一般的にウーハーとセットで使用し、ウーハーの背圧を利用してコーンの共振点でコーンを動かし低域を増強させます。共振点で位相が反転され、同相にして使用します。そのため、低域共振付近にのみ適用が可能な方式です。

受動的なナマケモノのコーンであることから、ドロン(ナマケモノ)コーンと呼ばれています。

2-2.パッシブラジエーター型(ドロンコーン型)の名機「JBL Olympus C50 S8R」

「Olympus C50 S8R」は、「375」ドライバー、38cmウーハー「LE15A」、「パッシブラジエーター」、そして「075」ツイーターを組み合わせた「Olympus」の最上級モデルです。

375は、JBLを代表する最高級ドライバーユニット。

LE15Aは、コーンには最適な質量を持たせたリブドコーン紙、エッジにはウレタン系ロールエッジを採用し、パラゴンにも搭載されたウーファーユニット。

075は、振動板にはリング状ダイアフラム、ホーン部にはアルミの無垢材を採用し、同じくパラゴンにも搭載されたトゥイーターユニットです。

JBLの音響技術と木工技術の結晶として誕生し、発売は1965年と半世紀以上も昔の製品ですが今なお高い人気を誇ります。

【JBL Olympus C50 S8R の主な仕様】

■方式: 3ウェイ・3スピーカー・パッシブラジエーター方式
■使用ユニット:
〈低域〉 38cmコーン型(LE15A)
〈中域〉 ホーン型(375+HL93)
〈高域〉 ダイレクトラジエーター(075)
■周波数帯域:40Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数: 500Hz、7000Hz
■インピーダンス:8Ω
■外形寸法:W1020 × H670 × D510 mm
■重量:82kg

 

3.ケルトン型(ASW型 )

3-1.概要

密閉型とバスレフ型の長所を兼備する「ケルトン方式」は、「ASW(アコースティック・サブ・ウーハー)方式」や「チューニングダクト方式」とも呼ばれています。

バスレフ型では、最低共振周波数より下の周波数においてはユニット前面との音と打ち消し合い、急速にレベル(量感)が下がります。しかし、この方式では打ち消す動きとなるユニットの前面が密閉箱で覆われているため、その打ち消し効果が消滅。最低共振周波数を下回る低音においても、そのレベルの低下はバスレフ方式に比べ緩やかになります。したがって、バスレフ型より低域の量感を稼ぐことができ、より豊かな低音の再現が可能です。

3-2.ケルトン方式の元祖「Lo-D HS-1400W 」

ローディー(日立)が1969年に発売したモジュラーステレオ「フォーミュラー405」のスピーカー部を独立させたものが「Lo-D HS-1400W 」です。1970年に発売され、ケルトン方式の元祖と言われています。ただ、日立はこの方式を独自に「ASW方式」と呼んでいます。

構造は、エンクロージャー内部を大きく二つに分割し、内部に20cmコーン型ユニットを収納。エンクロージャー最下部に設けられたポートより音を出力しています。この構造により、特定の周波数幅のみ選択して通過させるバンドパスフィルターを形成。低音域だけを再生しています。

分割されたもう一方には、3ウェイユニット(低域用は20cmコーン型ウーファー、中域用は12cmコーン型スコーカー、高域にはホーン型トゥイーターのH-54H)を搭載しています。

なお、「HS-1400WA」は、1975年に発売されたその後継機です。

【Lo-D HS-1400W の主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/LO-D/speaker/hs-1400w.html

■方式: 4ウェイ・ASW方式
■使用ユニット:
〈低域〉20cmコーン型
〈中域〉12cmコーン型
〈高域〉ホーン型(H-54H)
■周波数帯域:35Hz〜20kHz
■クロスオーバー周波数:100Hz、1.5kHz、5kHz、12dB/oct
■インピーダンス:8Ω
■外形寸法:W438 × H1157 × D370 mm
■重量:28kg

3-3.ケルトン型の高級スピーカー「Technics SB-M1000」

テクニクス(パナソニック)が1998年に発表した「SB-M1000」は、ペアで40万円する受注生産品スピーカーです。密閉型とバスレフ型のメリットを兼ね揃える独自のケルトン方式を活かすためのDDD(デュアル・ダイナミック・ドライブ)方式が特徴です。

DDD方式は内部に駆動用コーン型ユニットがあり、これによりパッシブラジェーターを駆動して低域を再生するイン・ダイレクト型のシステムがベースになっています。ドライブユニットとパッシブラジエーターで構成されたダイナミックドライブスピーカーを前後逆向きに配置し、その反作用によってエンクロージャーの振動を大きく低減。と同時に、豊かな低域を再生します。

このDDD方式による低域と、パルプとマイカを混ぜた中低域と中高域、超高域再生にベストと評判のスーパーグラファイト・ドーム型を組み込んだ4ウェイのトールボーイ・フロアー型システム。それが Technics SB-M1000です。

発売当初こそ、低域が軟調とあまり評価は芳しくありませんでしたが、駆動能力が高く高SN比のアンプと組み合わせることでそれは解決。特に1999年に同社が発売したプリアンプSU-C3000とパワーアンプSE-A3000との組み合わせは、今なお傑作と評価の高いシステムです。

【Technics SB-M1000 の主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/TECHNICS/speaker/sb-m1000.html

■方式: 4ウェイ・ケルトン方式
■使用ユニット:
〈低域〉14cmコーン型×4
〈中低域〉14cmコーン型
〈中高域〉8cmコーン型
〈高域〉2.5cmドーム型
〈パッシブラジエーター〉18cm平面型
■クロスオーバー周波数:90Hz、900Hz、3.5kHz
■インピーダンス:6Ω
■外形寸法:W284 × H1190 × D447 mm
■重量:42kg

4.共鳴管方式

4-1.概要

共鳴管方式は、共鳴を利用するスピーカーシステムです。一番有名な共鳴と言えば「パイプオルガン」でしょう。パイプオルガンは共鳴させる音域を長さで変えてホールに響かせています。そして、スピーカーの共鳴管方式も、理論的にはパイプオルガンと同じです。パイプ状の管の気柱の固有振動を利用し、低音を増強します。

4-2.共鳴管方式と言えば「BOSE キャノン」

ボーズの「キャノン」と言えば、「AM-033」と「AWCS-1」の二つが始まりです。いわゆる共鳴管方式を採用していますが、ボーズはそれを「アクースティマス方式」と呼んでいます。

AM-033は、通称「ベビーキャノン」。ユニットの前後を共振周波数の異なるバスレフ箱にしたサブウーハーです。

そして、ベビーではない大砲さながらのスピーカーが「AWCS-1」。ユニットの前後を共鳴周波数の異なる共振管にしたサブウーハーです。1987年発売のモデルで、再生周波数は25~125Hz±3dB、仕様ユニットは30㎝、外寸はφ45.3mm x D381mm 、重量は27㎏。ボーズ独自の「アコースティックウェーブ・ガイド方式」を採用しています。

AWCS-1-SRは、そのAWCS-1を小型化した製品です。

【BOSE AM-033 の主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/BOSE/speaker/am-033.html

■方式: 1ウェイ
■使用ユニット:
〈低域〉13cmコーン型
■周波数特性:40Hz〜200Hz
■インピーダンス:8Ω
■外形寸法:φ170 × D800 mm
■重量:3.4kg

5.バックロードホーン型

5-1.概要

バックロードホーンは能率が高く、小型でも充分に低音を響かすことができるスピーカーシステムです。軽量で反応が良くて振動板に強い駆動系(磁石)を持つ高能率フルレンジ・スピーカーユニットに、ホーンが内蔵された箱の組み合わせが基本構造です。

バックロードホーン形式のスピーカーは構造が複雑で製造コストが高くなる傾向にあります。そのため、真空管アンプの時代には流行しましたが、アンプのソリッドステート化以降はほとんど生産されていないのが現状です。

5-2.バックロードホーン式の名機「Tannoy Westminster Royal/GR」

タンノイの「ウエストミンスター・ロイヤル/GR」は、21世紀に発表された数少ないバックロードホーン式スピーカーです。タンノイが誇る「デュアルコンセントリック」と、かの伝説的銘機オートグラフ、G.R.F.から今日まで連綿と受け継がれてきた「オールコンパウンドホーンシステム」を採用。「Prestige GR(ゴールドリファレンス)」シリーズ5機種の中の最上位モデルです。

エンクロージャーはコンパウンドホーン型。3mに及ぶバックロードホーンはウーファーの2.5倍の後継に等しい低域再生能力を獲得しており、その低域用バックローデッドホーンと、中域の前面大型ショートホーンとの組み合わせにより、能率を向上させています。

金額は265万円/台。

【Tannoy Westminster Royal/GR の主な仕様】

引用:http://www.esoteric.jp/products/tannoy/westminsterroyalgr/

■同軸ユニット:
〈LF〉380mm径ウーファー 52mmボイスコイル
〈HF〉52mm径ドーム状ツィーター ラウンドボイスコイル
■周波数特性:18Hz〜27kHz
■クロスオーバー周波数:1.0kHz 200Hz
■インピーダンス:8Ω
■外形寸法:W1395 × H980 × D560 mm
■重量:138kg

6.フロントロードホーン型

6-1.概要

フロントロードホーン型はスピーカーユニットの前にホーンを備え、前方から発生する低音をホーンによって増幅します。JBLのスピーカーによく用いられています。

密閉型やバスレフ型、およびバックロードホーン型などはスピーカーユニット後面からの再生音に手を加えますが、フロントロードホーン型はユニット前面からの再生音に手を加える点が他との相違点であり最大の特徴です。

スピーカーの前面から高音が出しているため、バックロードホーン型とは異なり、原則としてホーン部分を曲げることはできません。しかし、JBLの名機「パラゴン」などのように、折り曲げ型のフロントロードホーンを持つスピーカーもいくつかは存在します。

6-2.フロントロードホーン型の人気エンクロージャー「JBL 4560BKA」

1971年にフロントロードホーン方式を採用したフロア型エンクロージャー「JBL 4560」。初期は2色のカラーバリエーションがあり、4560SFがグレー仕上げ、4560BKがブラック仕上げです。

その後継機が「4560BKA」です。
38cm径ウーファーを搭載し、45Hzから800Hzまで高能率で再生が可能です。また、ホーン効果により、200Hz以上の最大ローディング帯域では、直接放射型より能率は6dBもアップしています。指向性は4560と同じく、水平90゜垂直60゜ですが、上部バッフル板の取り外しが可能な点が4560と大きく異なる点です。

ちなみに、4560BKSは国産タイプです。

【JBL4560BKA の主な仕様】

引用:http://audio-heritage.jp/JBL/unit/4560bka.html

■適合スピーカー;2225、2220、E140、E145
■最低再生周波数:45Hz
■ エンクロージャー容積:225ℓ
■外形寸法:W762 × H941 × D603 mm
■重量:41kg

7.まとめ

スピーカーはオーディオにおいて非常に重要な位置にあります。実際、5:3:2の法則(スピーカー50%アンプ30%プレイヤー20%の比率でお金をかければ良い結果が得られるという経験則)というものもあるほどです。

ただ、そんなスピーカーを語る際、私たちはどうしてもユニットばかり注目してしまいます。が、実はエンクロージャーも非常に重要で、どんな方式を採用しているかによって低音の響き方を始め、音全体にとても大きく影響します。

現在の市販品は「密閉型」と「バスレフ型」が主流ですが、ぜひ機会を見つけて、他の方式の音にも触れてみてください。今回ご紹介したのは、ごく一部の名機です。皆さんが自分だけの音に出会えること、心よりお祈りしています。