1.CDプレーヤーのトレイが開かない
CDトレイが開かないトラブルは、比較的年季の入ったCDプレーヤーで最も起きやすいトラブルの一つです。原因はいくつか考えられますが、自分たちで対処できるケースは大きく4つ考えられます。
一つ一つ解説していきます。
1-1.ゴムベルトの異常
CDトレイが開かない原因ナンバーワンは、CDトレイの開閉ゴムベルトが伸びていたり、切れてしまったりしているケースです。
CDプレーヤーのゴムベルトに最も使用されているのは、ウレタンゴムです。そして、ウレタンゴムには摩耗や引っ張り、油に強いという特徴がある一方で、水分や湿気に弱く、経年により加水分解を起こして伸びたり切れたり、最悪の場合は溶けてしまうこともあります。したがって、比較的年季の入ったCDプレーヤーのトレイが開かない場合は、まずはこれを疑うべきでしょう。
代表的な確認方法は、トレイ部分に耳を近づけ、トレイの開閉ボタンを押すことです。モーター音が聞こえたなら、たいていゴムベルトの異常です。
この場合、ゴムの伸びが軽度なら、アルコールを含ませた綿棒でベルト部分を拭けば回復することもありますが、基本的には交換が必要です。サイズをよく確認し、オーディオのパーツ店舗や通販サイトなどで購入しましょう。
ちなみに、バンコードなどを使って自作することも可能ですし、応急処置として輪ゴムを2重がけしてしのぐ方法もあります。
1-2.グリスの劣化
1980年代のソニー製にはよく見られる症状です。CDトレイ部分に使用されているグリスが、経年により硬変してしまっていることが原因です。
対処法はシンプルです。天板を開け、粘度の高くなった古いグリスをクリーニングして取り除き、新しいグリスを塗布します。
1-3.トレイ開閉ボタンの接触不良
トレイ開閉ボタンの裏側にあるタクトスイッチが、接触不良を起こしていることあります。この場合、まずは隙間からボタンの基部に接点復活材を吹きかけてみましょう。もしそれでも改善が見られない場合は、タクトスイッチの交換が必要になります。
1-4.トレイ開閉検出スイッチの接触不良
CDトレイ開閉部分には、フロントパネルにあるトレイ開閉ボタンの他、トレイの開閉状態をチェックするスイッチが、1ないし2個付属しています。このスイッチが接触不良を起こすと、トレイが正常に作動しなくなります。
この場合、分解してスイッチのクリーニングを行うことが一番の対処法です。分解できないスイッチの場合は、接点復活剤を吹きかけましょう。100%ではありませんが回復することがあります。
1-5.その他
上記4つの原因以外にも、マイコンが関係するトラブルが考えられます。
トレイの開閉を行うモーターへの電流はマイコンが管理しています。そのため、マイコンの不良や、マイコンからモーターの間で断線・ハンダ割れしている場合、トレイを開閉させるモーターへ電流が流れないため正常に作動しません。したがって、マイコンの修理などが求められる訳ですが、配線図や基盤パターンの理解が必要で、素人には非常に難しい作業です。修理業者に修理を依頼しましょう。
あるいは、トレイ開閉用のモーターの故障も考えられます。しかし、このケースも素人による対処は困難です。修理に出すのが無難でしょう。
2.CDトレイが勝手に開閉する
本来、CDトレイは開閉ボタンを押した時に作動します。しかし、CDトレイ開閉部分の故障により、勝手に開いたり、突然閉まったりすることがあります。
2つのケースが考えられます。
1つめが、開閉検出スイッチの接触不良です。
CDプレーヤーのトレイ開閉部分には、トレイが開いているのか閉じているのかを検出するスイッチが付属しています。このスイッチに接触不良が見受けられると、トレイが開いてもすぐ閉じたり、あるいは閉まった位置で止まらなくなってしまいます。
この場合、スイッチのクリーニングが効果的な作業となりますが、スイッチが分解できないなら、隙間から接点復活剤を吹きかけると回復することがあります。
2つ目が、マイコンの不良です。
CDトレイ開閉部分の命令司令部はマイコンです。マイコンが開閉を管理し、「開けろ」「閉めろ」を命令しています。ここが故障すると、CDトレイの正常な開閉に支障を来します。しかし、マイコンの修理には専門的知識が必要です。修理業者に修理を依頼することをお勧めします。
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3.CDを読み込まない
トレイに乗せたCDを認識しない、あるいは再生しない、というトラブルも、CDプレーヤーで頻繁に起こるトラブルです。
主な症状は二つあります。
一つが、ディスプレイに「NO DISK」などと表示され、CDトレイが開くケースです。TOC(後述)の読み込みに失敗した場合、この表示が現れます。
TOCとは、Table Of Contentsの略で、いわゆる目次です。CDプレーヤーはまずはTOCを探して読み込みを開始します。そのため、その目次であるTOCが見つからなければ、プレーヤーはCDに何のデータも無いと判断。エラー「NO DISK」を返します。
もう一つが、ディスプレイにはCDの再生トータル時間が表示されているにもかかわらず、再生ボタンを押しても再生しないケースです。この場合は、TOCの読み込みには成功したものの、実際の音楽データが見つからないことを意味しています。
前者後者ともに、CDプレーヤーにおけるトラブルか、CD自体のトラブルが考えられます。が、この章ではCDプレーヤーにおけるトラブルを前提に解説します。(CDのトラブルに関する記事は5章)
主な原因は2つあります。「ピックアップレンズが汚れている」または「ピックアップの寿命」です。
3-1.ピックアップレンズが汚れている
CDのデータを読み込むピックアップレンズは、CDプレーヤーの内部にあります。そのため、一見すると密閉状態とあって、ピックアップは汚れないと思っている方が多いようですが実は違います。トレイの開閉時にホコリが侵入したり、CDに付着したホコリが回転時に内部で飛散して結構汚れています。
クリーニングには、まずはカメラのブロアーの使用をお勧めします。トレイを開け、そこからエアーでホコリを払うクリーニング方法です。非接触ですからアクシデントはほぼ起きません。日々のメンテナンスにもお勧めです。
しかし、汚れの多くはレンズにこびりついていて(特に喫煙環境ではヤニなどもあって)、ブロアーではキレイになりません。また、仮に綿棒で直接拭いたとしても、ほとんど除去できないのが一般的です。そこで綿棒に無水アルコールを湿らせて直接拭く、という方法があるのですが、これが非常に効果的です。
もちろん、レンズクリーナーを使用しても問題ありません。ただ、その場合には注意が必要です。例えば眼鏡用のレンズクリーナーやカメラ用のレンズクリーナーの中には、洗浄剤入りのものがあります。それらを使用した後には、入念な乾拭きが必要です。界面活性剤などの洗浄剤が残ってしまうと音質の劣化につながるからです。
3-1-1.レンズの拭き方
絶対にしてはならないこと。それは強くこすることです。
レコード針の針先は約0.5mmサイズですが、光ディスクのピックアップではレーザー光を顕微鏡のレンズのような高性能な対物レンズを用いて、わずか1ミクロン(0.001mm)という細いビームに絞ります。それほど超精密光学部品です。したがって、決して強くこすってはいけません。
そして、拭き方にも決まりがあります。円を描くように、内側から外側へ拭いていきます。綿棒で撫でるように優しく、それを2,3回繰り返します。
3-1-2.レンズクリーナー使用時の注意点
一般的なレンズクリーナーは、再生させる要領でピックアップレンズをクリーニングします。風を使う非接触型と、ブラシを使う接触型の、大きく2つのタイプに分類できます。
風を使う非接触型レンズクリーナーは、ディスク中心から外周にかけて穴が開いていて、その穴がドライブ内に風を発生させ、風の力で汚れを飛ばす方式です。ピックアップレンズに直接触れない非接触型のため、レンズの損傷を心配する必要がなく、半永久的に使えます。定期的なクリーニングには最適です。
一方、ブラシを用いる接触型は、さらに二つのタイプに分けられます。乾式と湿式です。乾式は掃き掃除の役割を担い、主に定期的メンテナンスに使用されます。そして、湿式は汚れがひどい時に専用クリーニング液でブラシを湿らせ、拭き掃除の役割を担います。いずれもピックアップレンズに直接触れる接触型タイプなので、使用頻度などによってはレンズを傷つけてしまう恐れがあります。また、ブラシがかき集めたホコリをレンズに塗り付けてしまう可能性もあることから、CDプレーヤーを販売するメーカーによっては使用を推奨しない、あるいは禁止していることもあるので注意が必要です。
3-2.ピックアップの寿命
CDプレーヤーに限らず、光学ドライブのピックアップには寿命があります。CDプレーヤーの場合は一般的に1万〜2万時間と言われていますが、SACDプレーヤーの場合はDVD用のピックアップが使われているものもあり、そうなると1万時間未満とも言われています。
しかし、それはあくまで目安に過ぎません。アンプの上に置いて常に高温状態で使用していればさらに寿命は短くなりますし、湿度が高いなど保管状態が悪ければ当然短くなります。
ただし、ピックアップのレーザー出力は、急にゼロになるわけではありません。徐々に落ちていきます。そのため、ピックアップに付いているレーザー出力ボリュームの調整で回復するケースもありますが、たいていはピックアップを交換して直します。
3-2-1.レーザー出力ボリュームの調整
レーザー出力ボリュームは、ほとんどのプレーヤーにおいてピックアップの裏側に付いています。そのため、まずは本体から取り外して調整します。
しかし、ソニー製のほとんどは、出力ボリュームが調整しやすい場所にあります。また、1980年のCDプレーヤーでは、出力ボリュームが基板に付いているものも多くあります。
一方、SACDプレーヤーやユニバーサルプレーヤーでは、ピックアップの裏側が多い傾向にあります。
3-2-2.ピックアップの交換
ピックアップの交換は自分でできないことはありません。もし自分で行う場合は、まずはピックアップの型番を確認します。ネット検索により判明することもありますが、製造ロットによってはピックアップが変更されているモデルもあります。そのため、実際にCDプレーヤーに付いている型番を自分の目で確認することをお勧めします。
ピックアップはネット通販などでも入手可能ですが、古いCDプレーヤーでは製造が終わっている物も多数あります。その場合は同モデル、あるいは同じピックアップを使用しているモデルを入手してピックアップ移植を行います。
3-3.その他の原因
3-3-1.その他の原因
CDプレーヤーはいくつかのサーボ(制御)技術が組込まれています。
CDから読み取った信号のクロックが一定になるように回転を制御する「スピンドルサーボ」。照射したレーザーの反射がフォトダイオードでピントが合うように制御する「フォーカスサーボ」。データが書き込まれたコースから外れないように制御する「トラッキングサーボ」。
他にもいくつかのサーボ技術により、CDプレーヤーは構成されています。そして、1990年代初頭までのCDプレーヤーは、ほとんどがアナログサーボを搭載しています。デジタルサーボ搭載モデルは、トラッキングやフォーカシングなどの調整はサーボ回路が自動的に行いますが、アナログサーボ搭載モデルでは、ピックアップのレーザー出力に応じ、工場でトラッキングやフォーカシングなどの調整を行って出荷しています。そのため、生産から四半世紀ほど経年していることもあって、サーボ回路のパーツの劣化などからゲインやオフセットとという調整値にズレが生じます。したがって、CDを正常に読み込まないアナログサーボ搭載モデルでは、サーボ回路にある調整ボリュームで調整すれば回復することがあります。
他にも、CDトレイの開閉を検出するスイッチに接触不良がある場合、CDプレーヤーはCDのデータを読み込みません。ピックアップはCDトレイがしっかり閉まってからでなければ読み込みを開始しないからです。この場合、トレイ開閉検出スイッチのクリーニングを行えば回復することがあります(1-4.参照)
3-3–2.メーカー固有のよくあるトラブル
テクニクスのCDプレーヤーは、電解コンデンサの耐久性が悪い傾向にあり、サーボ回路が機能しなくなるトラブルが多く報告されています。この場合、電解コンデンサを交換すれば回復しますが、非常に手間がかかり実用的な手法ではありません。買い替えがお勧めです。
また、90年代中頃までのパイオニアのCDプレーヤーでは、ピックアップレンズが脱落してしまうトラブルが多く報告されています。原因はピックアップのレンズ接着不良。症状はディスプレイにエラーが表示され、トレイが勝手に開きます。この場合は、レンズを交換すれば回復することが多いようです。
https://audio.kaitori8.com/topics/high-resolution-audio/
4.音飛び
CDの音飛びも、よくあるオーディオトラブルの一つです。CDプレーヤーに問題がある場合と、CD(ディスク)に問題がある場合の2つが考えられます。
CDに問題がある場合は、次の5章で解説します。
CDプレーヤーに問題がある場合は、3章の「CDを読み込まない」ケースとほぼ同じ原因で起こり、対処法も同じです。第3章を参照ください。
しかし、同じ部分を何度も繰り返す症状の場合はその限りではありません。例えば、ピックアップを支えているバーや、ピックアップを移動させるギアのグリスが硬化していたり、大きなゴミが付着している場合には、繰り返しになって先に進まない症状が出やすい傾向にあります。この場合は、綿棒に無水アルコールを染み込ませ、古いグリスを拭き取ってやれば回復します。
5.CD自体のトラブル
CDを読み込まない、あるいは音飛びがある場合、必ずしもCDプレーヤーに原因があるとは限りません。CD自体に異常がある場合もあります。特定のCDにトラブルがある場合はその可能性が高く、ほぼそのディスク自体のトラブルです。CDを10枚ぐらいかけて、1,2枚しか音が飛ばないようであればディスクの異常、それ以上の枚数で音が飛ぶならCDプレーヤーの異常、そう考えても良いでしょう。
CDの異常は、大きく二つに分類できます。「汚れ」と「キズ」です。どちらも正しく対応すれば、高確率で回復できます。
5-1.汚れ
5-1-1.ホコリ汚れ
普段、CDはCDケースにて保管されていると思います。したがって、多くの方がCDはホコリから守られていると思われていますが、それは間違いです。CDケースは規格上、上下4ヶ所の穴が開いています。そのため、そこからホコリは侵入してきます。
ホコリは人間の目には小さく映りますが、CDにとっては大問題です。なぜなら、音楽データは「ピット」に記録されているのですが、そのピットは1ミクロン(1/1000mm)以下のため、わずかな汚れでもレーザー光が屈折してしまい影響を受けてしまうからです。もちろん、CDプレーヤーには必ずエラー補正機能が搭載されており、小さなホコリやキズがあっても音楽再生に支障を来さないような作りにはなっています。それでも、ホコリがたまれば音が飛び始め、読み込みすらしなくなるので注意しましょう。
ちなみに、CDはホコリによりキズがついてしまう可能性があります。ホコリを取る際は、カメラのブロアーなどで吹き飛ばすことをお勧めします。
5-1-2.その他の汚れ
指紋やその他の汚れは、メガネ用のクロスなど、細かい繊維でできた布で拭くことをお勧めします。しかし、このときCDを回しながら拭くことは絶対に禁止です。レコード盤のように拭いてしまうと、CDの場合はキズがつく可能性があるからです。必ず中央から外側へ向けてまっすぐ優しく拭いてください。
しつこい汚れなどには、眼鏡用のクリーナーを使用しても問題はありません。ただし、洗浄剤の成分が残ってしまうと音質の劣化に繋がります。洗剤成分はキレイにしっかり拭き取りましょう。
なお、ディスクを痛める危険があるので、ベンジン、シンナーなどの化学薬品、および研磨剤を含むクリーナや
レコード用のスプレー・クリーナ、静電防止剤の使用は厳禁です。アルコールの使用については、肯定的に紹介する人もいますが、ポリカーボネートを痛めてしまうリスクがあります。基本的には初心者は控えましょう。
5-2.キズ
同じ部分を何度も繰り返して先に進まない症状の場合、CDプレーヤー側に問題がなければ、大抵はCDのキズが原因です。
しかし、読み取り面の細い渦上の線に対して垂直に付いた浅いキズは、さほど再生に影響を与えることはありません。一方、渦上の線に沿って付いたキズは、ディスク内のデータが欠損している可能性が高いキズです。修復キットなどで修復すれば回復することもありますが、仮にデータを守るポリカーボネイト基板に深くキズが付いている場合は、記録層にまで届いていることが多く効果はあまり見込めません。
5-3.その他の原因
「ソリ」と呼ばれるCDの変形が発生している場合、音が飛ぶことがあります。特にCDの終盤で音飛びがするケースでは、このトラブルである可能性が高い傾向にあります。人の目で判別できるものと判別できないものがありますが、仮に肉眼でCDのソリが認められる場合はプレーヤーに以上を来すことがあります。使用するのを中止しましょう。
他にも、ディスクの製造の段階で、中心部の穴がズレる偏芯や、厚みが均一でない場合も音飛び発生の原因となります。
6.まとめ
CDにおけるトラブルは、CDプレーヤーかCD自体のどちらか、あるいはその両方に原因があって起こります。そこで、原因がどこにあるかを突き止めることが先決です。
しかし、CDプレーヤーに原因がある場合は、若干の専門的な知識と作業が必要になります。そこで初心者の方には、まずはCDに問題がないかを調査することをお勧めします。その方が効率的に原因が解明でき、トラブル解消が可能なケースが多いからです。
ただ、いずれにせよ、CD試聴におけるトラブルのほとんどは、メンテナンスやお手入れレベルで解決できます。もし何かしらのトラブルに見舞われた時は、是非この記事を参考にしてください。注意すべきことは、厳禁事項を守ることです。特にCDとレコードでは、メンテナンスが正反対のものも多くあります。この点をしっかり確認して、毎日のオーディオライフを楽しんでください。