カートリッジにおけるMM型とMC型の区別はとても重要です。なぜなら、再生するために必要となる機材が異なるからです。実は、MC型はその特性上、昇圧トランスやヘッドアンプが必要になります。
そこで今回は、レコードカートリッジで周流のMM型とMC型の違いを柱にしたトピックスをお届けします。
レコードのカートリッジには色々なバリエーションがありますが、現在の主流はMM型とMC型の2つです。MM型は正式にはMoving Magnet(ムービングマグネット)方式と言い、MC型はMoving Coil(ムービングコイル)方式と言います。両者の違いは発電方式です。それぞれの名称の通り、MM型はムービングマグネット、つまり針がコイルのマグネットを動かします。MC型はムービングコイル、つまり針が磁石の周りのコイルを動かして発電します。
1.カートリッジとは
1-1.カートリッジの構成
カートリッジ(Cartridge)は必要とされる機能をパッケージ化した、交換可能あるいは交換が容易な部品を意味する英語です。語源は「Cartouche」というフランス語です。
そして、オーディオにおけるカートリッジとは、レコードの音溝の振動波形を電気の信号に変換する装置を意味し、別名「フォノカートリッジ」とも呼ばれています。
カートリッジの構成は、大きく「スタイラスチップ(針先)」「カンチレバー」「発電コイル」「信号出力用の接点(ピン)」の4つで構成されています。
スタイラスチップは、ダイアモンド、ルビー、サファイアなど硬度の高い物質で作られており、音溝をトレースする役割を担います。
カンチレバーはそのスタイラスチップを支えるものです。そして、その後方に置かれているのが「発電コイル」、信号出力用の接点がピンです。出力ピンは、ステレオの場合は4本 (L+/L-/R+/R-)、モノラルの場合は2本 (+/-)です。
1-2.カートリッジの仕様
一般的なカートリッジは、EIA及びJISの規格に準拠した12.7mm(1/2インチ)間隔の取り付け穴を持ちます。針圧などの調整許容範囲内の組み合わせなら、ユーザーはシェルやトーンアームにそれぞれ自由に組み合わせて使用できます。
一方、1979年に当時の松下電器(現パナソニック)が提唱したフルオートプレーヤーテクニクス「SL-10」に搭載されたT4P規格は、自重6g、針圧1.25gと規定されていて、他のカートリッジに交換しても無調整で使用が可能でした。
2.MM型とMC型の違い
カートリッジは例えるなら「小さな発電機」です。レコードに刻まれた機械振動をスタイラスがとらえ、それを電気信号に変換するのがカートリッジです。スピーカーとは反対の動作です。スピーカーは電気信号を音に変換しますが、カートリッジは振動を電気に変換します。そして、カートリッジは「MM型カートリッジ」と「MC型カートリッジ」とに大別できるのですが(他にもIM型やVM型などがありますが)、ここでは現在の主流であるMM型とMC型の違いにのみ限定して解説します。
2-1.MM型
比較的入手しやくすく、価格も低いMM型は、古くはマグネチック型と呼ばれていました。プレーヤーに付属しているカートリッジの場合、特段に何の説明がない場合にはこのMM型である場合が多い傾向にあります。
構造の特徴は、カンチレバー後端部分にマグネット(永久磁石)が取り付けられている点です。そして、そのマグネットが針の動きで振動し、ポールピースに巻かれたコイルに出力電圧を発生させる仕組みです。
マグネットが動くことから「Moving Magnet」、略して「MM型」と呼ばれています。
2-2.MC型
中価格帯〜高価格帯の製品が多く、出力がMM型と比較して小さい傾向にあります。そのため、MM型と同じ回路ではボリュームが小さくなったりノイズが発生してしまいます。そこで、MC型対応の回路を搭載するフォノイコライザーや、MC型対応のイコライザーを内蔵するアンプとの接続、あるいは昇圧トランス、またはヘッドアンプを必要とします。
構造の特徴は、カンチレバーにはコイルが巻かれている点です。そして、そのポールピースに取り付けられたマグネットにより発生した次回の中を、針に直結したコイルが動くことで出力電圧を発生させます。
コイルが動くことから「Moving Coil」、略して「MC型」と呼ばれています。
2-3.MM型とMC型の違い
MM型もMC型も発電の原理は同じです。
しかし、構造的にシンプルなのはMM型です。
また、出力が高く、3mV以上あるのでそのままアンプのフォノ入力にインプットできます。
一方、MC型は狭い箇所に精密に巻いたコイルを配置すします。そのため、構造がMM型より若干複雑になり、高い精度が求められます。振動系が軽く、強くて大きな磁石を採用できるのでレスポンスも上々。周波数レンジもワイドな点が特徴です。
しかし、コイルの巻数が増やせないので、出力が低い(MM型の1/10、0.1~0.3mV程度)というデメリットがあります。一部には高出力タイプのMC型もありますが、あくまで少数です。そして、低い出力をカバーするため、MC型の場合には「昇圧トランス」または「ヘッドアンプ」が必要になります。
2-4.どちらが入門者向け?
入門者向きなのはMM型です。
MM型なら針交換は簡単で、自分でも行うことができます。しかし、MC型は針交換は自分ではできません。基本的にはメーカーが針交換を行います。手持ちのカートリッジを店に預け、メーカーにて新しいものと換えてもらいます。
また、MM型はそのままアンプのフォノ入力にインプットできますが、MC型は上述の通り、出力不足のため「昇圧トランス」あるいは「ヘッドアンプ」必要となります。その分コストがかかりますし、複雑になるためMM型の方が入門者向けと言えます。
2-5.どちらの方が音が良い?
一般的には、MM型はパワフルかつダイナミックな表現を得意とし、MC型は再生周波数も広く繊細な表現が可能と言われていますが、総じて、MC型の方が音が良いと言われています。
そのため、MM型よりMC型の方がファンが多い傾向にあり、メーカーや機種数の豊富です。
https://audio.kaitori8.com/topics/cartridge-type/
3.MM型・MC型以外のカートリッジ
カートリッジの主なタイプは、上述のMM型とMC型です。
しかし、それ以外にも種類は豊富にあります。が、基本的にはMM型の派生タイプとMC型の改善タイプの2つに分類できます。
MM式(ムービング・マグネット式)が米国シュアー社が特許をもっていた関係で、そのパテント回避のためにVM型を日本のオーディオテクニカが開発したことがきっかけとなり、いかにマグネットの重みを軽減して、MC式(ムービング・コイル式)の繊細さ発電に近づけるかという研究からMM式の派生が発売されました。例えば「VM型」「MI型」「IM型」「MP型」「MF型」などです。
一方、MC式(ムービング・コイル式)の派生としては、針を交換式にした製品や、カートリッジ内部に変圧器(トランス)を内装して発電電圧を上げたものなどがありますが、
①MMのようなパテントを回避などという小細工が不要だったこと
②MC型の価格が高価で普及率が悪く、それによる市場競合が見られなかったこと
③カートリッジの性能競争の過渡期に、ちょうどCDが登場。そのため、その数年後にはFRなどに代表されるカートリッジの老舗が事業停止したこと
などの理由により、MC型の派生タイプにはMM型の派生タイプとは異なり名称が付けられていないものが多くある傾向にあります。
いずれにせよ、当時の市場性や需要家のニーズの違いにより、MM型もMC型も独自の進化を遂げました。
4.MC型での視聴に必要な機材
MC型カートリッジはMM型と比べて音の良さには定評がありますが、MC型はコイルのターン数が増やせないため出力が低く、出力が実にMM型の1/10程度の0.1~0.3mVほどしかありません。そのため、MC型カートリッジを使用する際には、MCカートリッジの微弱な信号を増幅し、フォノイコライザーに送る装置が必要になります。
そのような電圧を上げる装置が「昇圧トランス」や「ヘッドアンプ」です。電圧アップをどのような素子や方法で行うかにより分類できます。一言で言えば、電圧増幅をトランス方式にて行うのが「昇圧トランス」、電子式回路にて行うのが「ヘッドアンプ」です。
4-1.昇圧トランス
低い電圧を増幅させる主な手法は、トランス(変圧器)の巻き線比を利用する「昇圧トランス」による電圧アップです。MCカートリッジ専用機材なので、MCトランスとも呼ばれています。コイルの巻数比を利用して電圧を上げるため、この昇圧トランスを使えば電源不要で力強い音質が再現できます。1対10なら増幅は10倍です。
仕組みは非常にシンプルです。そのため、コアや巻線の素材がダイレクトに音に反映されます。
外観は、LとRの二つのトランスが剥き出しになったもの、カバーに覆われているものなど様々で、デザイン的な視点からもバリエーション豊かだと言えます。
4-2.ヘッドアンプ
MCカートリッジからの電気信号を、トランジスタ(増幅素子)を用いて電子的に昇圧させる機器が「ヘッドアンプ」です。MCカートリッジ専用機材なので、MCヘッドアンプとも呼ばれています。
電源が必要ですが、フラットでレンジの広い音質が特徴です。
4-3.昇圧トランスとヘッドアンプの違い
昇圧トランスで全ての音楽帯域に対応するには、コイル成分のトランスのコア素材、コアボリューム、コイル線材の太さ、コイル被覆素材、コイル巻き線回数、トランス充填剤などの考慮は不可欠です。トランスの持っているコイルのインダクタンス(コイルなどにおいて電流の変化が誘導起電力となって現れる性質。誘導係数、誘導子とも)による帯域制限により、音楽の全周波数帯域をフラットに再生することが難しくなるからです。
一方、昇圧のみの昇圧トランスに代わるヘッドアンプは、周波数特性関係なく、帯域全域をフラットに増幅をすることが可能です。そのため、繊細な室内弦楽からオーケストラ、ジャズボーカルなど、どんな音楽ジャンルのレコード盤だろうとも、そこに刻まれた音を余すことなく昇圧することが可能です。
4-3-1.音質の違い
音質は、一般的には昇圧トランスがぐっと力強く、ヘッドアンプはワイドレンジでフラットだと言われます。
4-3-2.メリット・デメリット
昇圧トランスとヘッドアンプの長所・短所は対照的です。
昇圧トランスは、コイルの巻数比を利用するトランス方式にて電圧を増幅します。そのため電源が不要です。つまり電源部を持たないので、ノイズにも強く安定度も優秀です。ただ、磁気を介して二次側で再発電しており、電気回路としては一旦遮断されています。したがって、どうしても100%元どおりの波形での再現は困難になります。特に超高域、超低域ではロスが生じやすい傾向にあり、帯域はややカマボコ型となります。
一方、ヘッドアンプはレンジが伸ばせる反面、電源まわりのノイズ対策が難しくなります。
とはいえ、基本的には、先ほどの技術的課題はメーカーがほぼクリアしています。ですから、一般的には昇圧トランスを採用するか、あるいはヘッドアンプを用いるかは、音の好みだけを基準に選んでも問題はありません。
5.レコード視聴にそもそも必要な機材「フォノイコライザー」
昇圧トランスはゲインを引き上げるものです。
MC型カートリッジはゲインが低く、音量が小さすぎます。そのため、フラットな特性を持ったまま、ゲインだけ10倍に引き上げるアイテムが必要になります。
一方、フォノイコライザーはRIAAを補正するものです。
つまり、フォノイコライザーと昇圧トランスではまるで役割が異なります。そして、昇圧トランスはMM型カートリッジを使う場合は必要ありませんが、フォノイコライザーはMM型カートリッジ使用時にも必要になります。そもそも、アンプにPHONO入力を備えていない場合は、MM型/MC型問わず、フォノイコライザーは必要です。
5-1.フォノイコライザーが必要な理由
アナログレコードの音は、盤面に掘られた溝に記録されています。そして、低音や大きな音は振幅が大きいため針の動きは大きくなるため、それをそのまま記録していては、レコード針が溝から飛び出してしまいます。さらに、振幅が大きければ音溝の間隔も大きくとる必要が出てきますから、結果として盤面に音楽を記録(収録)できる時間は短くなってしまいます。ですから、そうしたことを避けるため、低音は音量を下げて記録されています。
反対に、高音は振幅が小さいため、盤面のノイズと混じりやすい傾向があります。したがって、高音は大きめに記録されています。
つまり、レコードの記録時には、実際の音より低音は小さく、高音は大きく記録されているため、視聴時にはそれらを元に戻す必要があります。そして、その役割を担う機材こそが「フォノイコライザー」です。
5-2.フォノイコライザーの役割
フォノイコライザーには、その役割は大きく二つあります。
一つが、出力レベルを上げる。もう一つが、RIAA補正です。
5-2-1.出力レベルを上げる
フォノイコライザーの一つ目の役割は、出力レベルを上げることです。
CDプレーヤーなどのオーディオ機器からの出力信号は2V程度です。しかし、レコードプレーヤーからの出力はわずか0.1〜5mVと、信号レベルはCDの数百分の一程度です。そのため、視聴に支障をきたさないように、信号を十分な出力レベルまで増幅する必要があります。
5-2-2.RIAA補正
フォノイコライザーのもう一つの重要な役割は、レコードに記録された音を本来の音に復元することです。その際のキーワードが「RIAAカーブ」です。
先述の通り、レコードへ記録する際には、低音を音溝に刻む時には溝が大きくなり過ぎますし、高音を音溝に刻む時には小さくなり過ぎます。そのため、溝を刻む「カッティング」の際には、低音は小さく、高音は大きく記録します。
この「低音は小さく、高音は大きく」という記録方法には、世界共通規格が存在します。簡単に言えば、それが「RIAAカーブ」です。RIAAは、アメリカレコード協会(Recording Industry Association of America)の頭文字を取った略称です。そして、この規格にのっとって記録された音を、フォノイコライザーが本来の音に復元しています。
5-3.〈もっと詳しく〉RIAAカーブとは
低音を小さく、高音を大きく。
昔から、そのような概念に基づいてレコードは生産されていました。ですから、MM型であろうとMC型であろうと、レコードの再生時には特性を元の状態(フラット)に戻すべく、フォノイコライザーによりカッティング時とは逆の特性をかけます。要するに、低音は大きく、高音は小さくします。しかし、モノラル時代にはその特性が統一されておらず、そのため再生時には、ユーザーがレベールに合わせてイコライザ特性を切り替える必要がありました。
しかし、1952年にRCAが使い始めた「New Orthophonic」イコライザ特性と同じものが、翌1953年にRIAAにより推奨されます。そして、ステレオレコードについてはこのRIAAイコライザ特性に統一されました。
具体的には、録音時はRIAAの規格により、低周波を20dB低減、高周波数を20dBアップ。一方、再生時はこのRIAAによるイコライザカーブ(EQカーブ)の信号をフラットに戻し、ラインレベルまで増幅します。
通常、PHONO入力を備えるアンプには、このフォノイコライザーは内蔵されています(ただし、よりハイクオリティなサウンドがお好みの方向けに、高性能な単体のフォノイコライザーも存在します)。ところが、実はRIAAにもいくつかの種類が存在するのでは、との議論も巻き起こっています。
例えば、「RIAA-IEC」や「eRIAAカーブ(Enhanced-RIAAカーブ)」です。
RIAA-IECは、IEC(国際電気標準会議)が1963年、RIAAカーブに異論を呈し、1976年にRIAAカーブの特性から低域を下げたものです。
eRIAAカーブ(Enhanced-RIAAカーブ)は、オーディオメーカーのバキュームステイト創設者アレン・ライトの意見を元に策定されたものです。
また、実は各レーベルは、 RIAAが推奨された後も独自のカーブでレコードを作り続けていたのでは、という疑念もあります。が、この辺りの話題はまたいずれ。
とにかく、一般的には、モノラルからステレオに移行した1958年くらいからRIAAカーブは各社に採用され、日本でも1956年にはRIAAカーブがJIS規格として採用。1958年10月にはレコード各社がJIS表示許可工場となったことで、1959年以降はRIAAで問題ないとされています。
6.まとめ
レコードのカートリッジには様々な種類がありますが、現在の主なタイプは「MM型カートリッジ」と「MC型カートリッジ」の二つです。
この二つには大きな違いが4つあります。
第一に、発電方法です。
MM型はMoving Magnet(ムービング・マグネット)の略の通り、マグネットが動くことで発電されます。一方、MC型はMoving Coil(ムービング・コイル)の略の通り、コイルが動いて発電されます。
第二に、取り扱いも変わります。
一般的には、MM型は針の交換が自分でできますが、MC型はメーカーに依頼しなければなりません。
また、音質も異なります。
好みにもよりますが、多くの方はMM型よりMC型の音質に魅力を感じるようです。一般的には、MM型はパワフル、MC型は再生周波数も広く繊細と表現されています。
そして、最大の注意点。
MC型カートリッジを使う際には、「昇圧トランス」または「ヘッドアンプ」が必要になります。
MC型はコイルのターン数を増やすことは困難です。そのため出力が乏しい特性があります。数値的にはMM型の1/10程度、0.1~0.3mVほどです。したがって、MC型カートリッジで音楽を再生する際には、MCカートリッジの微弱な信号を増幅し、フォノイコライザーに送る装置が必要になります。
それが昇圧トランスやヘッドアンプといわれるものです。MCカートリッジ専用機材なので、昇圧トランスは「MCトランス」、ヘッドアンプは「MCヘッドアンプ」とも呼ばれています。両者の違いは、電圧増幅の方法です。電圧増幅をトランス方式にて行うのが「昇圧トランス」、電子式回路にて行うのが「ヘッドアンプ」です。
そして、両者のメリット・デメリットは対照的です。
昇圧トランスは、コイルの巻数比を利用するため電源が不要です。そのため、ノイズにも強く安定度も優秀です。ただ、電気回路としては一旦遮断されているため、元どおりの波形での再現は困難です。特に超高域、超低域ではロスが生じやすく、帯域はややカマボコ型です。
一方、ヘッドアンプはレンジが伸ばせるという特性はあるものの、電源を必要とするためノイズ対策が難しくなります。
このように、使うカートリッジによって音質が異なるだけでなく、必要となる機材にも違いがでます。ぜひ適切なカートリッジ・機材を採用し、最高の音質をお楽しみください。