SPU?MMC型?マニアでも全部は知らない「カートリッジ大辞典」

草間淳哉
レコードカートリッジと言えば、ほとんどの方がMM型かMC型を思い浮かべることでしょう。しかし、カートリッジはそれ以外にも非常に多くの種類があります。「SPU」「VM型」「MI型」「IM型」「MP型」「MF型」……皆さんは何種類あると思いますか?正解は……この記事の最後で!とにかく、まずは一緒に「マニアでも全部は知らないであろう、レコードカートリッジの世界」をのぞいてみましょう!
SPU?MMC型?マニアでも全部は知らない「カートリッジ大辞典」

1.カートリッジの大分類

1-1.主流はMM型とMC型

カートリッジの主流はMM型とMC型です。例えば「おすすめのカートリッジ」という記事があったとしても、紹介されているのはMM型とMC型だけで、結論的にはMC型を推奨しているものがほとんどでしょう。それほど、レコードカートリッジと言えばMM型かMC型の二つです。

MM型とはMoving Mgnet(ムービング・マグネット)の略で、マグネットを動かせて発電します。
一方、MC型はMoving Coil(ムービング・コイル)の略で、コイルを動かせて発電します。

MM型とMC型のそれぞれの特徴は、「手軽さ」と「音質」の二つでまとめることができます。

手軽さについては、MM型は自分で針交換ができますが、MC型はメーカーに交換してもらうのが一般的です。また、MC型は昇圧トランスやヘッドアンプが必要になり、MM型に比べて揃えるべき機材が増えるので出費が大きくなります。ですから、手軽さの面ではMM型に分があります。

しかし、音質を基準に比較すると、どうしてもMC型に分があります。やはりMM型よりMC型の方がサウンドクオリティは高く、そのためMC型の方が人気があります。

1-2.MM型/MC型以外のカートリッジ

市場に出回っているカートリッジのほとんどはMM型かMC型です。しかし、世の中にはMM型/MC型以外のカートリッジも存在し、その種類といったら非常に多くに上ります。

しかし、カートリッジには様々な種類があるものの、基本的には「MM型の派生タイプ」と「MC型の派生タイプ」のどちらかです。その理由はカートリッジの進化の歴史にあるのですが、今回はその話は置いておいて、まずはカートリッジの種類について解説します。

2.MM型を源流とするタイプのカートリッジ

MM型カートリッジの特徴は、使い勝手が良く手軽である点です。そこで、MM型を改善し、高性能化のイメージを打ち出すために新たな名称を付けたと思われるカートリッジがいくつかあります。

有名なところで言えば、「VM型」「MI型/IM型/MP型」「MF型」です。

2-1.VM型

VM型はオーディオテクニカが開発した方式です。アナログレコードに刻まれた溝の波形を信号に変換し、カンチレバーの中部付近にマグネットを左右分離させ、発電コイルを左右分離した構造が採用されています。一言で言えば、カッターヘッドの逆メカニズムです。

VM型はほぼMM型ですが、MM型はカンチレバーのスタイラスと逆側の端にマグネットが取り付けられるケースが多いものの、VM型はカンチレバーと垂直に2本のマグネットがV字型に取り付けられています。そして、それぞれのマグネットが左右の音楽信号を発電します。

VM型が開発されたきっかけは、当時アメリカのSHURE(シュアー)社が開発し特許を持っていたMM型カートリッジを、オーディオテクニカがアメリカで売ろうと考えたからです(ちなみに、ヨーロッパにおけるMM型のパテントは、当時の西ドイツのELAC社が保有していました)。そこで、SHURE(シュアー)社とELAC(エラック)社の特許侵害を回避するべく開発されたのがオーディオテクニカのVM型です。

VM型とMM型の具体的な違いは、上述でも若干触れましたが大きく2つあります。

一つ目が、MM型はマグネットが1個ですが、VM型では左右チャンネルごとに独立した2本のマグネット振動子をV字状に配置(デュアルマグネット)しています。それにより、振動系の性能を高め、レコードに音溝を刻み込む際のカッターヘッドと相似の理想的な動作が実現できました。

二つ目が、左右の発電系をセンター・シールドプレートでセパレートになっている点です。これにより、電気的なクロストークが40dB以下に減らすことを実現しています。

そして、こうした構造により、オーディオテクニカはアメリカのSHURE(シュアー)と旧西ドイツのELAC(エラック)が持つMM型の特許から回避。その結果、世界中でカートリッジを販売することができ、オーディオテクニカは世界最大のカートリッジ・メーカーと言われるまで成長することができました。

2-2.MI型/IM型/MP型

MI型、IM型、MP型は、いずれもマグネットを本体のどこかに配置し、磁性体に磁力を媒介させて発電させる方式です。マグネットは動きませんが磁性体を動かしてるいるため、MM型カートリッジの派生に分類することができます。

MI型カートリッジはEMPIRE(エンパイア)、IM型カートリッジはADC、MP型カートリッジはナガオカが開発しました。

2-2-1.MI型

MI型はムービング・アイアン型の略で、アメリカのEMPIRE(エンパイア)社が開発しました。

EMPIRE(エンパイア)社は、元々はターンテーブルやトーンアームなどを主流とするオーディオメーカーでしたが、1960年代にはグラナディエ8000や9000シリーズなどユニークな円筒形のフロアスピーカーを生産。歴史あるオーディオメーカーとして、今でも高い人気を誇ります。

カートリッジに関しては、EMPIRE(エンパイア)は当初はMM型を生産していました。しかし、SHURE(シュアー)社との特許の問題で、EMPIRE(エンパイア)はMM型の生産中止に追い込まれ、急遽MI型を開発。それが結果的に好評を博し、日本でも有名になります。実際、このMI型は日本でも多くのモデルが発売されており、輸入元ははシュリロ・トレーディングが請け負っていました。

MI型で最も有名なのは「4000シリーズ」と「2000シリーズ」でしょう。

4000シリーズのカートリッジは「4000D/Ⅰ」「4000D/Ⅱ」「4000D/Ⅲ」の3モデルがあり、いづれもディスクリート方式4チャンネルステレオのCD-4システムに対応していました。

4000シリーズの中でも「4000d/Ⅲ」は特に評判が良く、価格もずば抜けて高いものでした。しかし、低音感にはパンチがあり、音の芯に力強さを覚えるサウンドは最高品質と呼ばれ、高価でしたが高い人気を博しました。

一方、2000シリーズはこの4000シリーズの下位クラスです。5つのモデルラインアップされていました。

2-2-2.IM型

IM型はInclude Magnet(インデュースド・マグネット)の略で、アメリカのADCが開発しました。ADCはAudio Dynamica Corporationの頭文字から来ており、早期から軽針圧のカートリッジを出していたメーカーとしても知られており、アメリカを代表するカートリッジブランドです。ブランド初期にはMM型を手がけていましたが、SHURE(シュアー)がMM型の特許を取得後にIM型を開発。そちらをメイン商品へと方向転換を図ります。

日本においては、1970年頃の代理店は「今井商事」でしたが、1975年頃には「ビー・エス・アール(BSR)ジャパン」に改称し、1989年頃には㈱CTIジャパンとなった後、1990年代初頭には国内市場から撤退しました。

本国アメリカにおいては、ADC本社はBSRに買収されており、創業者のPritchardはその後立ち上げたSonic Research社を立ち上げ、「SONUS(ソナース)」ブランドを展開しました。

IM型の特徴は、MM型よりカンチレバーに取り付ける磁性体が軽いことです。そのため、軽針圧カートリッジが作りやすいメリットがあります。

なおIM型の初代モデルは「POINT4」。通常タイプとE型の2種類のバリエーションがありました。

2-2-3.MP型

MP型はMoving Permalloy(ムービング・パーマロイ)型の略(パーマロイとは透磁性が非常に高く、磁気を通しやすい性質を持つ軟質磁性合金)で、日本のナガオカが開発しました。

ナガオカは1940年に長岡時計用部品製作所として設立され、1950年に商号を長岡精機宝石工業株式会社、1971年に株式会社ナガオカとした、アナログレコードの交換針で有名なブランドです。一時は「ジュエルトーン」という高級機ブランドも展開していました。

MP型は一言で言えばMI/IM型の一種で、コイル・磁石を固定し、カンチレバーに取り付けた誘導体で発電します。誘導体が磁化したパーマロイであることがMP型の名称の由来です。

特徴は、カンチレバーの背後に設置するものが、マグネットより軽い磁化したパーマロイであることです。そして、その点こそ他にはない優位点です。

低価格から高価格までの幅広い価格帯モデルがあり、ほとんどの製品には型番末尾に「J」がつきます(ただし、時代により「J」がつかないものもあります)。

2-3.MF型カートリッジ

MF型はMoving Flux(ムービング・フラックス)の略で、GLANZ(グランツ)が開発しました。グランツはミタチ音響製作所のブランド名です。ミタチ音響製作所の創業は1951年で、自社製カートリッジの製造・販売にとどまらず、多くの国内や海外のオーディオメーカーのカートリッジをOEMで手掛けていました。

ミタチ音響製作所自体は2003年に解散していますが、現在はミタチ音響でカートリッジの開発を行っていた濱田政孝(ハマダ電気)がブランドを引き継ぎ、トーンアームなどを主に製造・販売しています。

MF型の特徴は磁束の配置位置にあります。通常のMM型カートリッジは、磁束が発電コイルをコア(鉄芯)を切る方式です。しかし、MF型カートリッジは磁束が直接コイルを切る位置に配置されています。

そして、グランツはこれを「MC型カートリッジの逆メカニズム」と表現し、MM型とは一線を画しているように解説していますが、一般的にはマグネットが動いてるので完全にMM型の派生と位置づけられています。

2-4.VMS型カートリッジ

VMS型はVariable Magnetic Shunt(バリアブル・マグネティック・シャント)の頭文字を取ったもので、オルトフォンが開発しました。オルトフォンは1918年に設立されたデンマークのオーディオメーカーで、日本には日本法人の「オルトフォン ジャパン」があります。

VMS型はMI型の発電形式を採用していて、発明は1969年、最初のモデルはM15/MF15。日本には1970年に上陸しています。そして、1980年代半ばまでは、オルトフォンの普及価格帯の商品はこのVMS型でした。

2-4-1.M、MF系

1969年に発売された最初のVMS型シリーズが、このM,MF系です。F-15やFF-15系が発売開始に至ると、このシリーズは上級機種扱いとなりました。ちなみに、「M」がハイコンプライアンスの軽針圧タイプ、「MF」が頑丈さ優先の標準針圧タイプです。

M15 SUPERは、1972年に発表された振動系の軽量化を実現した上位モデルです。また、その一方で、安定した針圧を生かしたMFシリーズでは、放送局用モデル(MF15BC)やSPレコード用(MF15/65)が登場しました。

2-4-2.F-15、FF-15系

F-15やFF-15系は、1973年に発表されたオルトフォンのベーシックモデル・シリーズです。Mシリーズとは異なり、スタイラスは接合針です。ちなみに、「F」の方が軽針圧タイプ、「FF」の方がコンプライアンスを下げた標準針圧タイプです。

2-5.MMC型

MMC型はMoving Micro-Cross(ムービング・マイクロ・クロス)の略で、B&O(バング&オルフセン)が開発しました。B&Oは1925年に創業したデンマークのオーディオ・ビジュアル製品のブランドで、特にデザインの評価が高いことで有名です。しかし、そのデザイン性の高さゆえに他メーカーとの互換性が低く、他者コンポとの組み合わせには難しい部分があることでも知られています。が、カートリッジについてはその範疇ではなく、ローマス・軽針圧製品の一つとして一般にも使われています。

B&Oは「MMC型」と表現していますが、実質的には発電形式はMI型の一種です。いわゆる「MMC四桁シリーズ」「MMC20シリーズ」「MMC一桁シリーズ」があり、今でも非常に人気のあるカートリッジです。

3.MC型を源流とするタイプのカートリッジ

MC型カートリッジは、当時からすでに最高に位置付けにありました。そのため、MCカートリッジに改善を加えても、あえて名称を変更しないメーカーがほとんどでした。MC型の派生タイプカートリッジに「〜型」という名称が少ないのはそのためです。

3-1.MCカートリッジの代名詞・名機「SPU」

SPUと言えば、オーディオファンなら誰もが知っていて、アナログファンなら誰もが一度は使ってみたいと憧れるレコードカートリッジです。発売元はオルトフォン。MM型派生タイプである「VMS型」を開発したメーカーですが、むしろオルトフォンのカートリッジと言えば、VMS型よりSPUの方が遥かに有名で高い人気を誇ります。

初代SPUは、オルトフォンがVMS型を発売する10年前にすでに発表しています。開発者はロバート・グッドマンセン。SPUと言う名称の由来は「STEREO PICK UP」の略です。

SPUはMCカートリッジの原器とも言われおり、今市場に流通しているMCカートリッジのほとんどは、SPUの構造をベースにしています。

一方で、SPUの生みの親であるオルトフォンも、様々なバリエーションのSPUを発表しており、まさにアナログファンにとっては超ロングセラーモデルとして知られています。

3-2.SATIN(サテン)

日本国内のカートリッジメーカーにおいて、もっともオリジナリティが強かったと評判のブランド、それがSATIN(サテン)です。オーディオ黎明期よりカートリッジ専業メーカーとして人気を博し、本社は京都鞍馬口の下総町にありました。代表は塚本謙吉。東北大学の通信工学科、卒業。

一般的にはMC型カートリッジは自分で針交換はできないのですが、サテンのカートリッジは針交換ができる高出力のMC型カートリッジでした。また、ゴム系のダンパーや磁性体の追放なども押し進めたメーカーとしても知られています。

しかし、モデルチェンジを何度も繰り返した時期もあり、さらに派生モデルも多く存在したことから、嫌厭する人も一定数いたブランドでした。

1960年代にはソニーやトリオ(現ケンウッド)などに対してOEM供給もしていましたが、サテン音響は1991年に会社を畳み、サテンは現在存在していません。

3-3.ダイレクトカップル型

ダイレクトカップル型は、日本のビクターが開発しました。

国内ブランドの多くと同様、ビクターも1970年代半ばまではMM型のメーカーでしたが、1977年のMC-1のビクター初のMC型カートリッジを皮切りに、1970年代後半にMC型を主力とするようになります。そして、半導体製造技術を応用したプリント式のマイクロ・コイルを採用し、針の至近に設置。「ダイレクトカップル」を名乗るようになりました。

従来の巻線コイルに代えて、半導体製造技術を応用し、極小マイクロコイルをフォトエッチングで作成。さらに、それを針先近くに取り付けることにより、カンチレバーのたわみなどの悪影響(位相の乱れ・遅延など)を遠ざける方式です。

アプローチこそ異なりますが、イケダのカートリッジと通じる部分があるMC型カートリッジの一種です。

3-4.イケダ・カートリッジ

イケダ・サウンドが開発したカートリッジです。MC型では世界で初めてカンチレバーを廃して、コイルに直接配置したカートリッジを発表しています。

それが世界で唯一無二のカンチレバーレスMCカートリッジ「IKEDA 9 MUSA」シリーズです。究極のカートリッジとして、もちろんここにはFR-7で培った空芯構造も採用されています。

イケダ・サウンドの創設者は池田勇。1929年、東京の江東区で生まれました。戦前のSP時代に始まり、戦後のLP黎明期からステレオの時代に入るまで、一貫してカートリッジやトーンアームの設計・製造。最初の製品「カートリッジFR-1」と「トーン・アームFR-24」が大ヒットし、皇室にも採用され、1978年にFR-7(世界初の空芯4極構造は、日本とアメリカで特許を取得)やFR-64Sを売り出した頃には、東証2部上場企業に匹敵する規模まで成長を遂げていました。

その後、一旦は会社を閉じますが、再びイケダ・サウンド・ラボラトリーズ(有)を起こし、カートリッジ・イケダ9シリーズやトーン・アームIT-407、IT-345を発表。歴史に残る名機を生み出しています。

3-5.リボン型カートリッジ

リボン型カートリッジは、NAGAOKA(ナガオカ)により開発されました。ナガオカはMP型カートリッジを開発したメーカーです。

リボン型カートリッジは、コイルの代わりにリボン型の導体を動かし発電します。そのため、MC型に分類されるはずですが、コイルを使っていないため「MC(Moving Coil)型」とは称することができず、リボン型カートリッジと名付けられたそうです。

初代のNR-1はナガオカブランドとして発売されましたが、2世代目以降はJEWELTONE(ジュエルトーン)ブランドとして発売されました。

4.その他のカートリッジタイプ

4-1.コンデンサー型カートリッジ

コンデンサー型カートリッジは、AUREX(オーレックス)が開発したカートリッジです。オーレックストは、一般の家電製品に用いた「TOSHIBA」とは別に、オーディオ製品にのみ用いたブランド名です。

1969年に発表されたC-401Sが最初のモデルで、後に上位モデルのC-404X、丸針の廉価モデルC-407Sが追加されました。それ以降は、二世代としてボロンカンチレバーを持つC-400、コンプリメンタリー方式を採用した一体型のC-4000があますが、いずれも通常のフォノイコライザーは使うことができず、専用のイコライザーが必要となります。

4-2.半導体型カートリッジ

半導体型カートリッジは、テクニクスが開発しました。テクニクスは旧・松下電器産業(現パナソニック)のオーディオブランドです。CD4用のカートリッジとして発売され、低域ではDC(0hz)からの再生が可能でした。

5.まとめ

レコードカートリッジには多くの種類が存在します。

MM型、MC型、MI型、IM型、MP型、MF型、VMS型、MMC型、SPU、サテン、ダイレクトカップル型、イケダ・カートリッジ、リボン型カートリッジ、コンデンサー型、半導体型、そして、ここでは紹介していない光電型や圧電クリスタル型。

冒頭で「カートリッジにはいくつの種類があるでしょう?」と質問しました。そして、答えは最後に……と申し上げましたが、答えは「少なくとも20以上」、そうとしか言えません。実はマニアでも全部は知り尽くせないほど、昔のオーディオメーカーは自社の特徴をそれぞれが宣伝し、様々なバリエーションを生み出したのです。

とても奥が深いレコードカートリッジ。

全部を視聴することは難しいかもしれませんが、お好みの音を鳴らすカートリッジに出会えることを心よりお祈りしています。