知っているようで知らない「スペック表の見方(アンプ編)」

わたしたちがオーディオを選ぶ際、最終的には音を想像するしかありません。そして、その手助けしてくれるのがスペック表です。そこで今回は、スペック表から音質をイメージするために必要な基礎知識(アンプ編)を紹介します。
知っているようで知らない「スペック表の見方(アンプ編)」

オーディオ機器の良し悪しは、実際の音を聴いてみないと判断できません。しかし、近所に視聴できる場所はそうそうあるものではありません。仮にあったとしても、なかなか気軽には試聴できません。それに、そもそもオーディオ店と自宅では環境が大きく異なりますし、特にアンプに至っては、あなたのスピーカーをどう鳴らすかは実際に繋いでみないとわかりません。

つまり、わたしたちがオーディオを選ぶ際は、最終的には音を想像するしかありません。そして、その手助けしてくれるのがスペック表です。今回は、スペック表から音質をイメージするために必要な基礎知識(アンプ編)を紹介します。

1.増幅回路の種類

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増幅回路は(厳密に区分できるものではありませんが)、バイアスの量によりA級、B級などに分類されます。近年E級~H級などと呼ばれるアンプも出てきていますが、どれも増幅回路の方式を示す便宜的な表現に過ぎず、特にグレードを示したりするものではありません。

1-1.A級

増幅素子の入出力の関係が比例関係にあるよう、動作点を増幅特性カーブの真ん中に置く回路です。+側と−側で別々の増幅素子を使わないので、信号のつなぎ目が滑らかになり、原理的に「クロスオーバー歪み」が発生しません。そのため、音質が美しく、繊細な表現力に優れています。

しかし、常に一定の動作点を維持するため、回路に大きなバイアス電流(アイドリング電流)が常時流れています。そのため消費電力が大きくなり、アンプ自体の発熱量は非常に大きくなります(発熱は無信号時が最大で、音量が上がるにつれ温度が下がります)。

また、出力信号の最大振幅が小さくなるため、大出力のアンプを作ることは難しくなります。効率性が求められる今の時代に逆行する方式ですが、B級・AB級・D級では得られない高品位な音が得られます。

1-2.B級

小出力・大電流のA級動作に対し、より効率性を求められて考案されたものがB級動作です。増幅特性カーブの直線部分をあきらめ、特性の曲がり際に動作点を置いています。出力は+と−のトランジスタを備えており、入力を再現するために各トランジスタは信号波形の180°(半分)のみ伝導します。これにより、アンプはゼロ電流でのアイドルが可能となり、A級に比べて効率は向上します。また、発熱量も少なくなります。

しかし、二つのトランジスタがオンからオフへ切り替わるクロスオーバーポイントが存在するため、音響品質は劣化します。

1-3.AB級

B級動作はバイアスゼロ(カットオフ)に近いところに動作点を置くため、A級よりも大出力は得やすく、バイアス電流も少量で済むため効率性は低くありません。が、歪みが多くなってしまいオーディオアンプには不向きな回路です。

そこで、A級とB級の折衷案として開発されたのがAB級アンプです。動作点はB級よりもA級寄りとなり、中間的な特性の回路になります。小信号に対しては、両方のトランジスタがアクティブとなり、A級アンプ同様に動作します。一方で、大振幅の信号に対しては、波形の個々の半分に対して一つのトランジスタのみがアクティブとなり、B級アンプのように機能します。

現在のオーディオアンプではこの方式が最も一般的です。特に何の表示もない場合は、AB級アンプと認識してもよいでしょう。

1-4.純A級

A級アンプの中には20W程度の小出力時はA級で、大出力時にAB級へ自動で切り替わるダイナミックバイアス方式のアンプもあります。これに対し、切り替えのないA級を「純A級アンプ」と区別することがあります。

原理的にクロスオーバー歪が発生しない点もそうですが、それ以上に、音質が中高域において艶や深みを醸すと、古くから支持され続けている方式です。

1-5.D級

現在、スマートフォンやMP3プレーヤーなどポータブル型モバイルオーディオ機器の普及に伴い、バッテリーの寿命を延ばすために消費電力の低減が求められています。そして、その課題をクリアすべく考案されたのがD級です。上記増幅回路の区分とは異なり、増幅素子の動作点による分類ではなく、デジタルアンプによる方式です。

増幅方式の中では最も高効率で、回路のコンパクト化も可能です。しかし、パルス幅変調によるスイッチングノイズが課題です。

とはいえ、最新のD級アンプはAB級に匹敵する忠実度も実現しており、近年は各メーカーが独自の方式でこの弱点を克服しつつあります。

2.定格出力

設定された歪み率以内で連続的にアンプが取り出せるパワーを表します。つなぐスピーカーのインピーダンスにより大きく変動するため、4Ω時、6Ω時、8Ω時などと併記することがあります。一般的にインピーダンスが小さいほど出力は大きくなります。

インピーダンスとは、一言でいえば交流抵抗のことです。単位はΩ(オーム)、抵抗と同じです。純粋な抵抗なら、直流であろうと周波数が変わろうと値が変わることはありません。しかし、コンデンサ成分やインダクタ成分が含まれると周波数に変化が生じ、値が変わってきます。このような場合はインピーダンスで表示します。つまり、抵抗はインピーダンスに含まれる関係にあります。

3.実用最大出力

連続して供給できる出力を示す定格出力に対し、音楽信号を想定して瞬間的に定格出力を超えて供給できるパワーを表すのが「実用最大出力」です。必ず定格出力よりも大きな値となります。

出力は測定条件によって変わります。定格なのか最大なのか、どちらの表記なのかには注意が必要です。また、これら出力値は、大きければパワーがあることを示すに過ぎません。出力の大きさが音の良さに直結するわけではないことも忘れてはいけません。

4.全高調波歪率

全高調波歪率(ぜんこうちょうはひずみりつ)、あるいは全高調波歪、または単に歪率とは、信号の歪みの程度を表す値です。アンプは増幅する際、元の信号にはない歪み成分(様々な周波数成分を含む高調波)が混じって出力されます。それをトータルして歪み全体がどれだけあるかを示します。トータルハーモニックディストーション(T.H.D)とも表現し、当然小さい方が性能の良いアンプです。

ところで、歪率特性はどの測定機で測定しても、基本的にはほぼ同じなるはずです。が、メーカーによっては周波数スペクトルから高調波成分を求めて歪率としています。これも一つの正しい方法ですが、通常の全高調波歪率よりも非常に良好に表示されます。比較の際は注意が必要です。

5.周波数特性

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ほぼ周波数レンジと同義で、どれほどの広い帯域に渡りフラットな特性をキープできるかを表します。電気的な増幅のフラットさなので、スピーカーのような凹凸はなく、レンジもずっと広くなります。ただし、出力によって広さは変化します。アンプの特徴として、大出力になるほど帯域が狭くなります。

上級者になれば、この周波数特性を見ればだいたいのアンプの概要などが把握できるようになります。

6.S/N

信号(Signal:S)と雑音(Noise:N)の比率のこと。アンプにより増幅されて大きくなる信号(S)には、それ以外の雑音(N)が含まれます。その割合が信号対雑音比、つまりS/N比です。

デシベル(dB)という単位で表し、Nが分母側にあるので、S/Nは数値が大きいほど雑音が少なく、よいアンプと言えます。

まとめ

実は、アンプカタログスペック表には、まだまだ他の項目がたくさんあります。しかし、それらは中級者以上にならないと理解しがたいことなので、今回は割愛させていただきます。

アンプスペック表はスピーカーのそれと異なり、音を想像する材料として非常に有効的な項目が多くあります。いくつか専門的な用語・単位を覚える必要はありますが、是非とも基礎知識として身につけてください。

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ただし、これら数値はあくまで比較材料です。単純に数値がよければ良いアンプとは限りません。その点だけはくれぐれもご注意ください。

では、今日はこのへんで。

この記事が、まるでアンプのごとく、あなたのオーディオライフの快適さを増幅させますように。