青い目は世界の憧れ「McIntosh(マッキントッシュ)」のブランドストーリー

マッキントッシュのアンプは、球管式の時代だろうとソリッドステートの時代だろうと、多くのオーディオファンにとって憧れだ。独特の出力トランスに、大出力パワーアンプ。あの青い目の「ブルーアイズメーター」に、漆黒のガラスパネル。まさに高級アンプを象徴するブランドである。

が、マッキントッシュはアンプ専門のメーカーではない。スピーカーも発表しており人気だ。

そこで今回は、濃密なサウンドを響かせる「マッキントッシュ」の歴史的名機にいくつか触れながら、世界の憧れ「マッキントッシュ」のブランドストーリーを語りたい。

目次

  1. 名称
    1-1.創業者「フランク・H・マッキントッシュ」
    1-2.社名の歴史
    1-3.Apple社との関係
  2. 初期製品
    2-1.特許「ユニティ・カップルド・サーキット」
    2-2.パワーアンプ第一号機「50W-1」
    2-3.プリアンプ1号機「AE-2」
    2-4.マッキントッシュのその他の「初」
  3. ゴードン・J・ガウ(Gordon J Gow)
    3-1.共同経営者としてのゴードン・ガウ
    3-2.2代目社長としてのゴードン・ガウ
  4. オーディオ史に残る名機
    4-1.真空管パワーアンプ「MC275」
    4-2.真空管プリアンプ「C22」
  5. 1990年代以降の経営
  6. まとめ

1.名称

1-1.創業者「フランク・H・マッキントッシュ」

オーディオ老舗メーカー「マッキントッシュ・ラボ」の創業者は、Frank H. McIntosh(フランク・ホームズ・マッキントッシュ)である。彼のキャリアはニュージャージー州マレーヒルのBell Telephone Laboratories(ベル電話研究所)にて始まる。そしてその後、西海岸のGraybar Corporationの放送販売代理店に就任し、第二次大戦中は戦争プロダクションボードのラジオとレーダー部門の責任者だった。

1942年初頭、フランク・H・マッキントッシュはワシントンDCでラジオ局とサウンドシステムを設計する小さなコンサルティング事業に携わっており、CBSのFrank Stanton、Harry TrumanのRadio Advisor、Leonard Reinschなどと提携していた。が、そこでは高出力かつ低歪みのオーディオアンプを必要としていたものの、既存のアンプではまるで仕様を満たなかった。そこで、彼は優れた性能特性を持つアンプを開発しようと考え始め、第二次世界大戦終了の翌1946年、会社を設立する。

オーディオ一流ブランド「McIntosh」の始まりである。

1-2.社名の歴史

マッキントッシュ・ラボが運営するオーディオブランド「McIntosh」。その名の由来は、創業者の名前「フランク・ホームズ・マッキントッシュ」である。ただし、社名は最初からマッキントッシュ・ラボだったわけではない。当初はコンサル会社「McIntosh and Ingles (Engles)」だった。設立は1946年、場所はワシントンDC。放送機器関係のコンサルタント業、及びFM放送のサブキャリアを使ったバックグラウンド・ミュージックの仕事を主としていた。

フランク・ホームズ・マッキントッシュは会社を設立すると、まずマウリス・ペインチェッド(Maurice Painchaud)を雇用した。そして、続いてゴードン・J・ガウ(Gordon Gow)を迎え入れ、新しいアンプの製作に取りかかった。目標は高効率・高出力・低歪率のアンプ製作である。

最初の名称変更は、設立した翌年の1947年で、「McIntosh Scientific Laboratory」が二番目の社名である。そして1949年、McIntosh Engineering.Laboratoryをメリーランド州に設立し、それから2年後の1951年、ニューヨーク州ビンガムトンに移動して、現在のマッキントッシュ・ラボ社(McIntosh Laboratory Inc)へと改称。今に至る。

この老舗オーディオメーカー「マッキントッシュ」は、しばしばMacの略称で親しまれる「マッキントッシュ」と混同されるが、アップル社が展開するPCは「MacIntosh」であり、オーディオメーカーの「McIntosh」とは綴りも異なり別である……が、まったく無関係というわけではない。

次項にて紹介する。

1-3.Apple社との関係

iPhoneやiPadなどで有名やApple社は、今でこそアップル社(Apple Inc.)であるが、1977年1月3日に設立されて2007年1月9日に改称するまでは「アップルコンピューター社(Apple Computer, Inc.)」だった。そして、その社名の通り、主力商品はコンピューターで、その中でも個人ユーザーの使い勝手を重視した設計思想を持ち、デザイン・音楽・映像など表現の分野でよく利用されているパーソナルコンピューターが、通称「Mac」の「MacIntosh」である。

このMacIntoshの由来は、アップル(林檎)の品種「McIntosh red」である。カナダのオンタリオが原産地で、日本語名は「旭」。John McIntosh(1777~1846年)によってカナダにて発見された偶発実生だ。

McIntosh redは世界的な品種であるが、日本で知られるようになったのは意外と遅い。1890(明治23)年のことである。カナダ人のギップが札幌農学校に寄贈し、その二年後の1892(明治25)年に「旭」と名付けられたことが始まりと言われている。北米ではポピュラーだが、品種改良などが一切行われていないこともあって育てるのが難しく、日本では北海道の一部でのみ栽培されるにとどまる。

そんな品種の林檎が好きだったのが、1979年当時、アップル社の開発チームに所属していたジェフ・ラスキン (Jef Raskin) である。彼は自らが携わるプロジェクトの製品に、その名前を採用しようと考える。が、1979年には、すでにフランク・H・マッキントッシュによりオーディオのMcIntoshが存在していた。そこで、ジェフ・ラスキンはMとcの間に「a」を入れた「Macintosh」というアイデアを当時の会長・マイク・マークラに話し、オーディオのマッキントッシュ社へ名前の利用許可と承認を得て「マッキントッシュ」という名称を使用することとなった。

オーディオの「マッキントッシュ」は、綴りは「McIntosh」で、アップル社の「MacIntosh」と綴りが異なるのはそのためであり、そもそもオーディのマッキントッシュはアップルのマッキントッシュよりも歴史が長いのである。

2.初期製品

2-1.特許「ユニティ・カップルド・サーキット」

ユニティ・カップルド・サーキットは、一言で言えば短時間での大出力を実現し、極めて効率よく音楽信号を流せる回路である。1946年にフランク・H・マッキントッシュとゴードン・J・ガウの両名によって発表され、特許出願。1949年に認可された。

この回路はユニティ・カップル(多重帰還増幅)回路である。OPT(出力トランス)にバイファイラー巻きを2つつけることによって、一方をカソード、他方をプレートに使用。出力パワーを出力管のカソードとプレートの両方からとることで低歪値を達成。雑音やノイズ等がほとんどない状態を実現している。

そして、このユニティ・カップルド・サーキットこそ、マッキントッシュの信頼の全ての原点であり、マッキントッシュの代名詞である。

2-2.パワーアンプ第一号機「50W-1」

マッキントッシュ初のアンプが、1949年に発表された「50W-1」である。ユニティ・カップルド出力回路、1次線と2次線をパラレルにして同時に巻いていくバイファイラー・バランスド・シンメトリックによる、いわゆるバイファイラー巻きトランスを採用している管球式モノーラル・パワーアンプである。

50Wを超えるハイパワー、さらに20~20,000Hzの可聴帯域において歪み率1%以下というスペックは、当時のオーディオ機器の中では驚異的なパフォーマンスであった。そして、50W-1は各国のスタジオ・エンジニアたちから絶賛され、1951年発売の後継機「50W-2」をもって、マッキントッシュはその地位を確立する。

50W-2は、50W-1と異なり、電源部と出力部が2つに分かれている。そして、トランスは底部に納めてパラフィンで密閉したトランスカバーそのものがシャーシを兼ねる特異な構造をしている。出力管は6L6Gプッシュプル、ドライバーには6J5のプッシュプルを採用。今でも高い人気を誇るアンプである。

2-3.プリアンプ1号機「AE-2」

マッキントッシュ初のプリアンプが「AE-2」、正式名称「McINTOSH AE-2 AMPLIFIER EQUALIZER」である。

しかし、AE-2には一般的なプリアンプのようなイコライザー回路はない。BASSとTREBLEをいじることで、好みのイコライザーカーブを作る仕様となっている。

発売は50W-1と同じ1949年。

2-4.マッキントッシュのその他の「初」

2-4-1.マッキントッシュ初のステレオ・コントロールアンプ

マッキントッシュ初のステレオ・コントロールアンプが、管球式ステレオ・コントロールアンプ「C20」である。発売は1959年。位相切替、ラウドネス調整、低域トリム機能を装備している。

前期型と後期型があり、音量ボリュームを絞ると電源がOFFになる点は共通しているが、前期型はフロントパネル及びトリムがアクリル仕様であり、後期型は、フロントパネルがガラス、トリムがアルミへと仕様変更されている。

2-4-2.マッキントッシュ初のステレオ・パワーアンプ

マッキントッシュ初のステレオ・パワーアンプが、管球式ステレオ・パワーアンプ「MC240」である。発売は1960年。6L6GCプッシュプル。1958年発売の管球式モノーラル・アンプ「MC40」を2台1つのシャーシにまとめたものである。

出力は40W+40W。スイッチ1つで1台のモノーラルアンプとして出力80Wのパワーも供給できる。

また、TWIN INPUTへの入力でアッテネーターによる左右の音量調整が可能であり、STEREO INPUTへの入力はアッテネーターを通さず、バランスの左右微調整のみでスピーカーへ出力する。

2-4-3.マッキントッシュ初のステレオチューナー

マッキントッシュ初のステレオチューナーが、1964年に発売された管球式ステレとFM/AMチューナー「MR67」である。しかし、翌1965年にはマッキントッシュ最後の管球式ステレオFM/AMチューナー「MR71」が発表されている。

2-4-4.マッキントッシュ初のスピーカーシステム

マッキントッシュ初のスピーカーシステムが、「ML-1」である。それまでのスピーカーは、2ウェイや3ウェイがメインであったが、マッキントッシュはそれをさらに拡張。4ウェイ密閉型のブックシェルフスピーカーを1971年に発表した。

30cmウーファー、20cmコーン型ミッドバス、ドーム型ミッドハイ、トゥイーター+スーパートゥイーター・コアキシャルユニット搭載。

3.ゴードン・J・ガウ(Gordon J Gow)

マッキントッシュの生みの親が「フランク・H・マッキントッシュ」なら、育ての親は「ゴードン・J・ガウ」である。彼はマッキントッシュにおける偉大なエンジニアであり、二代目社長だ。

ここではそんな「ゴードン・J・ガウ」について語りたい。

3-1.共同経営者としてのゴードン・ガウ

ゴードン・J・ガウがマッキントッシュのメンバーになったのは、1946年のことである。当時のマッキントッシュはまだワシントンDCにあり、入社したガウには、エンジニアとして高効率・高出力・低歪率のアンプ製作が使命として与えられた。

まず、ガウがアンプづくりで最も留意したのは、プッシュプル回路のノッチング歪みだった。それまでの標準的なプッシュプル回路では、どうしてもBクラスのノッチング歪みが出てきた。しかし、Aクラスではあまりに低効率すぎてコマーシャルベースに乗りづらい。そこでガウは、能率がBクラスでありながら、ノッチング歪みが少ない方法を研究することとなる。

このノッチング歪みは、ペン・タン・サーが1936年にすでに問題提起していたが、ガウが参考にしたのはオハイオ州立大学の教授・フレッド・ターマンといわれている。彼がまず取り組んだのは、「SEPP(シングル・エンディット・プッシュプル)回路」による歪みの低減であり、結果、それまでのトランスではどうしても一定以上の歪みを減らすことができなかったため、OPTということに至る。

一方で、ガウは入出力の直線性を上げるため、コア材と巻き線の両面で多くの工夫をこらしている。特にコア材に関しては、フラックス・デンシティとコイルの磁力がリニア関係であるものが全くなく、グレイン・オリエンテッド・シリコン・スチールという鋼材が非常に良好な結果をもたらすことはガウによる発見である(なお、これを実際に採用したのが、ウェスティングハウス・エレクトリックが開発したハイパーシル・コアである)。

また、ガウは巻き線についても多くの研究を重ねており、現在のバイファイラー・バランスド・シンメトリック(1次線と2次線をパラレルに同時に巻く方法)は彼の有名な実績であり、これを基に完成されたのが、1946年に出願、1949年にパテントを得た回路「ユニティ・カップルド・サーキット」である。

そして、これを絶えず洗練させてアイデンティティを築き上げたことが、今なおマッキントッシュのブランドへの信頼に繋がっており、ゴードン・J・ガウによるマッキントッシュへ貢献が非常に大きいと言われるゆえんである。

3-2.2代目社長としてのゴードン・ガウ

1989年6月25日に心臓発作で他界したゴードン・J・ガウ。彼が二代目社長に就任したのは1977年のことであるが、マッキントッシュが現代でも普遍のブランドクオリティを維持しているのは、ガウの信念によるところも大きい。

球管式アンプがソリッドステート・アンプに移行した1960年代、一時、出力トランスを持つ唯一のアンプとして自説を曲げず「マッキントッシュの技術は古い」との批判を受けたこともあった。しかし、ガウはその一つ一つにトランスが持つスピーカー・インターフェースとしての優位性やスピーカーとアンプ双方にとっての安全性や安定性などを挙げて反論。音質と商品性の総合勝ちの高さを主張して譲らなかった。

また、ソリッドステート素子のハードディストーションに対してはパワーガード・サーキットを開発することで石が決して球に劣る素子ではないことを強調。産業の流れと時代への逆行を戒めたりした。

ゴードン・ガウの名言「emotional response for music(エモーショナル・レスポンス・フォー・ミュージック)」は現代でもオーディオファンの間では非常に有名な言葉であり、彼が飛行機で見た大都会の夜景をモチーフにしたとささやかれている「ブルー・アイズ」(ブラック・グラスパネルにブルーのメーターを備えたフロントパネル)は今も不変の人気を誇る。

おそらく今後のマッキントッシュ製品にも、ゴードン・J・ガウの精神は脈脈と受け継がれ生き続けることだろう。

4.オーディオ史に残る名機

4-1.真空管パワーアンプ「MC275」

MC275は、度々復刻モデルとして復活したりしているマッキントッシュの人気モデルである。オリジナルの発売は1962年。MC75(1958年に発売された管球式モノーラル・パワーアンプで、出力管が6550からKT88に、整流管整流をシリコン清流に変更された最初のモデル)のステレオバージョンである。発売当時は驚きの大出力アンプとして人気を博し、業務用機としても使われていた真空管アンプの最高峰モデル。

そして、そのレプリカが2007年に発売され、2012年にはMC275の発売50周年を記念した限定モデル「MC275LE」が日本国内275台限定で発売された。

ゴールド・ステンレス・シャーシにアニヴァーサリー・エンブレムがつけられた限定モデルで、もちろんユニティ・カップル回路とバイファイラー巻き出力トランスを継承。75W+75W(4/8/16Ω)出力を実現している。また、真空管には出力用にKT88を4本、、電圧増幅・ドライバー用に12AT7を4本、入力・位相反転用に12AX7を3本使用。全高調波歪率は0.5%、入力感度と入力インピーダンスはバランス3.4V/20kΩ、アンバランス1.7V/47kΩ。価格は787,500円。

【MC275 の主な仕様】
■定格出力:75W+75W(ステレオ時)、150W(モノラル時)
■周波数特性:16Hz~60kHz
■高調波歪率:0.5%
■入力感度:0.5V
■入力インピーダンス:250KΩ
■SN比:90dB
■入力端子:RCA入力
■出力端子:4Ω/8Ω/16Ω
■出力管:KT88×4本、初段:12AX7×1本、
■外形寸法:W311 × H203 × D438mm
■重量:30.4Kg

4-2.真空管プリアンプ「C22」

C22はMC275と同様、度々復刻モデルとして復活したりしているマッキントッシュの人気モデルである。1962年に発売され、その後10年間生産された真空管プリアンプで、マッキントッシュの地位を確立したモデルでもある。使用真空管は12AX7が6本。当時は真空管プリアンプにおいて、マランツモデル7と並んでトップモデルとして位置付けられ人気を二分した。

MC275との組み合わせはゴールデンコンビと称された、マッキントッシュの名機である。

【C22 の主な仕様】
■出力レベル:2.5V
■周波数特性:20Hz~20kHz(±0.5dB)
■SN比:85dB(ハイレベル)、62.5dB(ローレベル)
■歪率:0.2%
■消費電力:34W
■電源:AC117V 50Hz/60Hz
■外形寸法:W406 × H138 × D330mm
■重量:7.3Kg

5.1990年代以降の経営

1989年に二代目社長のゴードン・J・ガウが他界すると、その翌年の1990年、マッキントッシュは日本のカーステレオメーカー「クラリオン」の米国法人に買収された。そして、1993年にバランス入出力を装備したコントロールアンプ「C40」を発売するが、このC40までがアメリカのマッキントッシュの設計だと言われており、特にこのモデルはゴードン・J・ガウの傑作とも言われている。

さらに2003年5月、持株会社のディーアンドエムホールディングスが買収、傘下ブランドとなった。

その間、日本への輸入や販売、サポート業務はエレクトリが行っていたが、2007年4月にディーアンドエムホールディングスが新設立した日本法人子会社の株式会社マッキントッシュ・ジャパンに全てが移行されるも、2012年10月に高級オーディオブランドを数多く傘下に持つイタリアの持株会社ファインサウンズがディーアンドエムホールディングスから買収。自社の傘下に収めるに伴って、日本での輸入販売権は再びエレクトリに戻され、サポート業務を引き継いでいる。

6.まとめ

経営権こそ移転が激しい経歴を持つが、音づくりに関しては一切ブレがないマッキントッシュ。今も昔も音楽をより情熱的に仕立て、そればかりか、その空間すら上品に演出するオーディオメーカーである。

ハイエンドの中のハイエンド。
マッキントッシュはまさにそんなオーディオブランドだ。

きっとこれからも、マッキントッシュはオーディオファンをうならせる機器を発表し続けることだろう。と同時に、過去の製品にも、オーディオファンはうなり声をあげ、いつまでも魅了され続けることだろう。