今回も前回に引き続き、栄光のV9戦士をオーディオに例えていきます。
オーダーは、
- 1番 柴田勲
- 2番 土井正三
- 3番 王貞治
- 4番 長嶋茂雄
- 5番 末次 利光
- 6番 高田繁
- 7番 黒江透修
- 8番 森祇晶
- 9番 投手
前回は6番高田までだったので、今回は7番黒江から。
目次
7番「黒江透修」をオーディオに例えたなら
黒江透修は鹿児島県姶良市出身の内野手です。現役時代の背番号は「5」。V9時代のセンターラインを土井と共にがっちり守り、土井-黒江の二遊間は、ベンチが作戦を預けるほどのハイレベル・ラインでした。身長165cmと小柄で小太りの体型だったことから、「豆タンク」の愛称で親しまれていました。
そんな黒江をオーディオに例えるなら、日立Lo-Dのカセットデッキ「D-4500」でしょう。
画像引用:オーディオの足跡
まずは写真をご覧下さい。
まさに「タンク」という形容のごとき出立ちです。また、黒江は遠征中の宿舎では長嶋と同部屋で、夜中でも素振りに付き合わされました。その長嶋の素振りというのが、土井と黒江が畳を頭の上にのせ、長嶋が畳に沿って素振りをするというものだったのですが、長嶋はしばしばスイングに納得できず、二人は畳を担いだまま2時間、中腰のまま部屋の中を走り回ったようです。
もう一度写真をご覧下さい。
このD-4500は、中腰のように見えませんか。そんなD-4500の最大の特徴は「R&Pコンビネーションヘッド」による3ヘッド方式です。録音・再生機能が独立しており、高感度・低歪率・広帯域周波数特性を実現。世界初の方式とあって、当時はとても話題となりました。また、L.P.D.S.(低位相歪システム)を採用。位相-周波数特性を「リニア」にすることで忠実な波形伝送を目指しました。そして、リニアを目指したのは黒江も同じでした。実は、黒江は子供の頃に右手に大怪我を負ったため、送球は酷いクセ球でした。それを当時の藤田ピッチングコーチとともに特訓し(座布団にボールをぶつけるという特訓)、クセのない送球(リニアのような直線的ボール)が可能になりました。世界初の3ヘッド搭載カセットデッキ「D-4500」。Lo-dはこれ以降、3ヘッドデッキにおいて画期的な技術を開発。そしてD-4500は国産カセットデッキの3ヘッド化への流れを決定づけるまさに名機でした。一方、黒江もまた、土井と共に栄光の巨人時代の守備の要となり、V9への流れを決定づけたまさに名選手でありました。
【主な仕様】
- トラック形式:4トラック2チャンネル
- ヘッド:録音・再生;R&Pコンビネーション(フェライト)ヘッド
- 消去;ダブルギャップフェライトヘッド
- 周波数特性:20Hz~20kHz(クローム)20Hz~18kHz(UD)20Hz~15kHz(ノーマル)
- 歪率:1.7%(1kHz、0dB)
- S/N:Dolby on;63dB、Dolby off;55dB
- 入力感度/インピーダンス:Mic;0.3mV/10kΩ以上、Line;40mV/100kΩ以上、DIN in;35mV/100kΩ以上
- 出力インピーダンス:Line out;2.5kΩ以下、DIN out;1kΩ以下、Headphone;8Ω
- 電源電圧:AC100V(50Hz/60Hz)
- 消費電力:40W
- 外形寸法:W441 x H222 x D312mm
- 重量:12kg
8番「森祇晶」をオーディオに例えたなら
森祇晶は、大阪府豊中市生まれ、岐阜県岐阜市出身の捕手です。背番号は「27」。「V9の頭脳」との異名を取る一方、キャッチングの技術も非常に高い捕手でした(名捕手・野村克也が通算206個のパスボールに対し、森は42個のみ)。また、グランド外での情報収集にも熱心で、日本シリーズ対策としてパ・リーグで絶対的な強さを誇っていた阪急の話を聞くために、野村克也(当時のパ・リーグ南海の正捕手)の自宅に出向いたエピソードは有名です。
また、他の名捕手の例に漏れず、森も現役時代は「ささやき戦術」の名人でした。そんな森をオーディオに例えるなら、チューナー以外にありません。それも「KENWOOD L-02T」。これに決まりです。
画像引用:オーディオの足跡
1970~80年代に流行したエアチェック。あれはまさに、深夜ラジオのささやきに耳を傾けることでした。そして「KENWOOD L-02T」は、収集された情報を完璧にささやいた名機でした。さらに、森は「ジャイアンツ史上最強の名キャッチャー」と評され、今なお森を超える捕手は現れていないと言われていますが、このKENWOOD L-02Tもまた、今なおこれを超える性能のFMチューナーはないと言われている機器です。発売当時の価格は30万円。しかし、その弩級の金額以上に、超弩級の性能に世間は驚いたものでした。
「周波数直線高精度7連バリコン」を採用し、サンプリングホールドMPXをベースに、位相特性の改善や歪の低減を実現した「ノンステップ・サンプリングホールドMPX」を搭載。さらに、長年チューナーの課題とされていた受信特性とオーディオ特性の両立を実現した「ノンスペクトラムIFシステム」を備えています。チューナーは、高選択度と音質の両立が求められる機器です。しかし、周波数変調であるFM信号は、オーディオ信号の強弱や周波数成分により常に帯域幅の変化するスペクトルとして情報を伝えており、このスペクトルがIF(中間周波数:Intermediate Frequency)バンドパスフィルターを通過する際、音楽情報を大きく損失します。一方、IFフィルターを緩やかな特性にしてスペクトルを通過させれば、情報の損失は免れます。が、今度は妨害波の排除機能低下を招いてしまい、音質を損ないます。そこで開発されたのが、この「ノンスペクトラムIFシステム」でした。いったんIF回路に入るFM信号からFMスペクトルを取り除き,IFフィルターにより妨害信号を除去した後、元のFM信号に戻して検波。低歪みと妨害排除能力の両立を実現しました。グランドの内外でアンテナを張り巡らせて情報を収集し、ささやいた森。このKENWOOD L-02Tもまた、情報を損なわず、確かな音質で夜のエアチェック・シーンではささやきました。
【主な仕様】
- 型式:FMステレオチューナー
- 受信周波数範囲:76MHz~90MHz
- アンテナインピーダンス :75Ω不平衡
- 感度(75Ω):normal;10.7dBf(新IHF)/0.95μV(IHF)、direct;25.2dBf(新IHF)/5.0μV(IHF)
- SN比50dB感度:normal mono;15.8dBf(新IHF)/1.7μV(IHF)、normal stereo;37.2dBf(新IHF)/20μV(IHF)
- direct mono;31.2dBF(新IHF)/10μV(IHF)
- stereo stereo;51.6dBf(新IHF)/105μV(IHF)
- 高調波歪率(ANT in→Σ out、85dBf入力):
- wide(100Hz); 0.004%(mono) 0.015%(stereo)
- wide(1kHz); 0.004% (mono) 0.01%(stereo)
- wide(6kHz); 0.015% (mono) 0.03%(stereo)
- wide(15kHz); 0.01%(mono) 0.1%(stereo)
- wide(50Hz~10kHz); 0.015%(mono) 0.04%(stereo)
- narrow (100Hz);0.005%(mono) 0.08%(stereo)
- narrow (1kHz);0.02%(mono) 0.08%(stereo)
- narrow (15kHz);0.05%(mono) 0.05%(stereo)
- narrow (50Hz~10kHz);0.2%(mono) 0.2%(stereo)
- SN比(ANT in→Σ out、100%変調、85dBf入力):
- mono;98dB stereo;88dB
- 周波数特性(ANT in→Σ out):15Hz~15kHz +0.2 -0.5dB
- イメージ妨害比(84MHz normal):120dB
- IF妨害比(84MHz normal):120dB
- 電源電圧:AC100V(50Hz/60Hz)
- 定格消費電力:28W
- 最大外形寸法:W480 x H147.5 x D423mm
- 重量:12.4kg
9番 投手をオーディオに例えたなら
V9時代の投手といえば、やはり「堀内恒夫」でしょうか。堀内恒夫は、山梨県甲府市出身の投手です。背番号は「18」(入団時は「21」)。V9時代のエースとして活躍し、通算12回のリーグ優勝、9度の日本一に貢献。1972年には26勝を挙げ、球団通算3000勝目の勝利投手でもあります。一方、1967年10月10日の対広島戦(後楽園球場)ではノーヒットノーランを達成した上で、史上唯一の「投手による3打席連続本塁打」を達成しています。
そんなV9時代のエース・堀内をオーディオに例えるなら、音楽業界のエース的商品「CD」を奏でるCDプレーヤーでしょう。それも、ソニーの「CDP-101」が適任ではないでしょうか。
画像引用:オーディオの足跡
CDP-101は、世界初のCDプレーヤーです。このプレーヤーから日本のCD時代は始まりました。そして、堀内は日本で初めてのドラフト会議で、1位指名選手として巨人に入団した投手です。この天才的投手の入団により、巨人のV9時代は始まりました。「世界の福本」の異名を持つ日本の盗塁王・福本はこう残しています。「あんなクイックは初めて見た。パ・リーグにあんなことができるピッチャーはいない」一方、CDP-101に初めて触れた多くの人はこう思ったものでした。
「トレイに入れて再生ボタンを押すだけ。こんなクイック再生ができるプレーヤーは、今までなかった」
CDプレーヤーも堀内も、当時はニュータイプの存在として、世間を大きく賑わせたものでした。
【主な仕様】
- 型式:コンパクト・ディスク・デジタルオーディオシステム
- 読取り方式:非接触光学読取り(半導体レーザー使用)
- レーザー:GaAlAsダブルヘテロダイオード
- 回転数:約500〜200rpm(CLV)
- 演奏速度:1.2m/s〜1.4m/s(一定)
- 周波数特性:5Hz〜20kHz ±0.5dB
- 高調波歪率:0.004%以下(1kHz)
- 電源:AC100V(50Hz/60Hz)
- 消費電力:23W
- 外形寸法:W350 x H105 x D325mm
- 重量:7.6kg
まとめ
7番黒江は、Lo-Dの「D-4500」。見た目は豆タンク。中腰。しかしその実態は世界初の3ヘッドを搭載したカセットデッキ。
8番森は、KENWOODのチューナー「L-02T」。受信特性とオーディオ特性の両立を実現した、世界最高峰のチューナー。
9番投手の堀内は、ソニーのCDプレーヤー「CDP-101」。この名機から、CD時代は始まりました。
こうして振り返ってみると、本当にあの頃のジャイアンツは強く、当時のオーディオは多くの人にロマンを与えました。日本の古き良き時代、というところでしょう。ところで、当時のV9時代の9選手を取りまとめていたのが、「ドン川上」こと川上哲治です。川上はアル・キャンパニスによって定型化された『ドジャースの戦法』を実践し、「V9」を達成して「プロ野球界の生き神様」とまで呼ばれた伝説的存在です。
そうですね。
この「V9戦士をオーディオに例えたなら」シリーズは、やはり彼で締めくくるべきでしょう。そんなわけで番外編。最後は、監督をオーディオに例えてみました。
番外編
監督 川上哲治をオーディオに例えたなら
川上哲治は、熊本県球磨郡大村(現・人吉市)出身。「打撃の神様」と称された現役時代を経て、V9時代の指揮をとった名監督です。そんな伝説的名監督をオーディオに例えるなら、やはりオーディオ機器を支えるオーディオラックでしょう。それも、伝説とまで言われている「ゾーセカス」をおいて他にはないでしょう。
ゾーセカス(zoethecus)「z.3/R with Z.SALB」は、既に販売終了となっている伝説的ラックです。
9人の選手をまとめていた村上監督さながらに、異なる素材を手作業で9層に重ね合わせたゾーセカスの棚板。最外層をソリッドアルミプレート張りにすることで、物理的共振を抑制。同時に、コンポーネントからの不要輻射に対しても優れたシールド効果を発揮します。周囲の支柱はメープル材。この素材は内部密度が不均一なため、共振を効果的に排除。また、脚部には砂を補填したアルミスパイク構造を採用しており、床からの振動を防ぐ理想的なメカニカルアースを形成しています。個性溢れるV9戦士を一つにまとめあげ、総合力を高めた村上監督。ゾーセカスもまた、オーディオシステムのトータルクオリティを劇的に向上。両者とも、今までにない格別な実績をもたらした存在でした。
【主な仕様】
- 外寸:W648 x H635 x D521 mm
- 定価:384,000円
では、そろそろお別れです。あなたのオーディオライフが、栄光のオーディオライフになることを祈りつつ。またいつかお会いしましょう。