オーディオを買う前に必ず見るもの。それはその製品カタログです。そして、そのカタログには必ず「スペック表」が載っています。
しかしこのスペック表、正しく理解できている人は意外と少数です。たいていの場合、金額が高い製品のスペック値を基準にして、「あの製品のこのスペックは」と判断しています。
意味もわからず高性能な製品を購入しても、その製品の良さはわかりません。一方で、スペック表には購入前に必ず抑えていなければならない数値と、必ずしも必要とは限らない数値があります。
スペック表は専門用語が羅列され、一見難しく見えます。しかし、ポイントさえ抑えてしまえば実はさほど難しくありません。
そこで今回は、スペック表の見方、読み方を解説します。
【目次】
2.主要項目の概要と解説
2-1.寸法
2-2.出力音圧レベル
2-3.許容入力
2-4.インピーダンス
2-5.クロスオーバー周波数
2-6.周波数特性
2-7.その他
1.スペックとは
スペック(spec)とは、英語のspecification【spèsəfikéiʃən】の省略形です。本来は「明細・指定」を意味し、通常複数形で「仕様」の意となります。最近の和製英語的用法では、「スペック」は工業製品の性能を表し、たいていの場合は数値化してその性能を評価します。
スペック表は、その製品のスペックを表にまとめたものです。したがって、そのスペック表を見ればその製品がどんな特徴を持ち、他の製品とどの部分で差別化されているか、ある程度把握することができます。
スペック表はカタログやメーカーの製品ページ、販売サイトの商品ページに行けば必ずあります。「スペック」や「spec」、あるいは「仕様書」と表記されています。
2.主要項目の概要と解説
2-1.寸法【mm】
シンデレラ城など東京ディズニーリゾートの建造物は、上に行けば行くほど石垣やタイルの大きさが小さくなっています。また、一階よりも二階、二階よりも三階の方が天井高は低くなっています。これは「強化遠近法」と呼ばれ、実物よりも大きく見せるためのテクニックです。
オーディオの世界には、こうした「実物よりも大きく見せる」メーカーはありませんが、ユーザーが勝手に大きさを勘違いするケースは多々あります。特に、製品ページには必ず正面からの写真はありますが、横から見た写真はほとんどありません。そのため、奥行きのスケール感を見誤る方が続出しています。そもそも、スピーカーの背後にはケーブルを接続するためのスペースも必要です。設置予定場所のサイズを正確に把握した上で、寸法・規格を数字で照らし合わせましょう。
一方、トールボーイ型については、椅子やソファに座った高さやテレビの高さとの検証が不十分なケースが多いようです。いくらスペック表で音質評価が高くても、視聴環境が整っていなければ意味がありません。トールボーイ型の場合は高さにも注意を払いましょう。
せっかくお気に入りの一台を見つけても、設置予定場所にマッチしていなければ使えません。「予想以上に大きかった」など、無用な失敗を避けるためにも、寸法(特に奥行きと高さ)は必ず確認しておきましょう。
2-2.出力音圧レベル【dB】
出力音圧レベルは、能率や感度を表す項目です。1W(2.83V)の入力に対して、スピーカー正面1mの距離における音圧レベル(dB)を表します。この値が大きくなると、電気を音に変換するための効率が良いことを意味し、同じ入力でも出せる音が大きくなるので能率が良いといえます。
1960年代以前では95 dB前後、1970年代から1980年代では90 dB前後のスピーカーが主流でしたが、1990年代以降ではウーファーの口径が小さい機種で低音域を拡大している傾向から、80dBから90dB前後のものが大多数を占めています。
能率が高いほど小さな入力で大きな音を出すことができますが、反面、アンプの持つ「あら」の部分も拡大してしまいます。一昔前はこの値は重要視されていましたが、現在は数字の大小は優劣ではなく、設計のコンセプトの違いと捉えられています(能率の低いスピーカーは、アンプ次第で本来の能力を発揮するケースが多くあります)。
ちなみに、映画館や劇場などのPA用では広い空間で大音量が要求されるため、最低でも95 dB以上のものが通常ですが、家庭で音楽や映画などを楽しむには85 dB前後あれば十分です。したがってホームユースの場合、ほとんどがこの数値は気にする必要はありません。
2-3.許容入力
スピーカーが正常に動作する入力電力の最大値です。許容入力を超える電力をスピーカーに送り込むと、故障の原因ともなりえます。
多くの機種が数十Wから100W超という設計になっていますが、ホームユースではほとんど関係がありません。というのも、家を揺るがすほどの大音量でも、その出力は10W程度と言われています。したがって、この数値が大きくてもその性能を発揮するシーンはほとんどなく、数値の大小がスピーカーの評価に繋がることもありません。
2-4.インピーダンス【Ω】
インピーダンスは、スピーカーの抵抗値のことです。一般的には、この数値が小さいほうが大きな音が出ますが、アンプに流れる電流が大きくなるので負担がかかることになります。主流は4Ω、6Ω、8Ωですが、ほとんどの場合、インピーダンスの数値が問題になることはありません。
ただし、真空管アンプにつなげる場合は注意が必要です。スピーカーのインピーダンスは、必ずアンプに表示されている推奨インピーダンス数値よりも大きくしてください。
スピーカーのインピーダンスがアンプのインピーダンスを下回ると、アンプに負荷がかかってしまい、故障の原因となる場合があります。もちろん、インピーダンスの数値が同じであれば全く問題はありません。アンプのΩ≦スピーカーのΩです。
2-5.クロスオーバー周波数【Hz】
2ウェイや3ウェイなどのマルチウェイスピーカーで、各ユニットの音域の境界にあたる周波数を示します。高音と低音を担当するユニットがどのあたりの周波数帯で重なり合っているかを示しているため、中級者以上は、この数値によりスピーカーの音質や設計意図の見当がつきます。ただし、相当数の経験が必要になる領域です。入門者にとっては、「ここで区切られているんだな」といった参考程度のスペックとして捉えて問題ありません。
2-6.周波数特性【Hz】
スピーカーに限定した周波数特性といえば、音圧周波数特性、位相周波数特性、群遅延周波数特性、歪み周波数特性が列挙できます。
音圧周波数特性とは、スピーカーの再生周波数帯域を示す数値です。再生できる周波数の低音域から高音域までを表わし、○○Hz(ヘルツ)から□□KHz(キロヘルツ)というように表記されます。下の数字が40Hzを切っていれば低音からよく出る、上が30KHz程度より高ければ高音まで出る、と考えても一応は問題ありません。単に「周波数特性」としか書いていない場合は、大方この特性を意味しています。
位相周波特性は、原信号の位相とのずれを見る特性です。
群遅延周波特性は、ある周波数群が最小の遅れの周波数群に対しどれだけ遅れるか、を示します。
理想のスピーカーは、可聴帯域内で完全線形であるスピーカーです。つまり、音圧周波数が広く、かつ完全に平坦、位相周波数特性が直線(平坦である必要はない)、群遅延周波数特性が平坦、歪み周波数特性がどの周波数帯でも低いスピーカーです。
もちろん、そんなスピーカーは存在しません。上記にどれだけ近づけられているか。これがスピーカーの優劣の評価となります。
2-7.その他
キャビネット容量は、文字通りキャビネットの有効容積をℓ(リットル)で表した数値です。容積は低音再生の重要な要素となりますが、スピーカーユニットの大きさや作りとも密接な関係があるため、大容積が必ずしも良いスピーカーとは限りません。
質量は、本体の重さをkgで表したものです。床置きの場合はさほど気にする必要はありませんが、棚に置く場合は棚の強度などに注意が必要です。
防磁設計は、スピーカーに必要な磁石の磁力がスピーカーの外に漏れ、周辺製品に悪影響を及ぼさないように設計されたスピーカーのことです。磁気漏れにより悪影響が考えれる代表製品は、ブラウン管式テレビと置き時計です(置き時計といっても、たいていの場合スピーカーの上に置いた場合に限ります)。最近のテレビは薄型ディスプレイが主流なので、主な影響が考えられるのは、実質的には置き時計くらいです。
もちろん、磁気シールドを施す分割高になるため、必要がない場合は無駄なコストアップに繋がります。どうしてもスピーカーの上に時計を置きたいのであれば話は別ですが、基本的には普通のスピーカーで充分と考えられます。
ちなみに、スピーカーは後から簡単に防磁設計にできます(エンクロージャーに金属製のシールド板を貼るだけです)が、外観が悪くなります。
まとめ
実は、スピーカーのスペック表の数値はあくまで機器の基本性能を示すに過ぎません。どちらかといえば音質を把握するためというより、機器と機器を接続する際に参考にするものです(特にアンプとの接続時)。
真空管アンプを愛用されている方こそインピーダンスのチェックが必須ですが、現在普及しているアンプは半導体、あるいはデジタルアンプがほとんどです。したがって、多くの方にとってスペックで気にする点は寸法だけとなるでしょう。
数値化された評価は誰でも気になるものです。しかし、スピーカー選びで最も重要なのは、そのスピーカーが自分の好みの音を鳴らすかどうかです。あまりスペックにとらわれず、思う存分自分の好きな音質を追求してください。
あなたが理想の音と暮らせることを祈っています。